弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

特別受益の持戻し免除と遺留分

2019年12月02日 相続

 余命がいくばくもないお父さんが,ずっと同居して身の回りの世話をしてくれていた娘(姉)に自宅の土地建物(5000万円相当)を生前贈与しました。もうひとり息子(弟)がいますが,ろくに家にも帰ってこないので,自宅は娘に託したいと思ったのです。

 もっとも,民法には,複数の相続人の中に特別に被相続人から利益(「特別受益」といいます。)を得た人がいる場合,その相続人の特別受益の分だけ遺産の取得分が減額されるという制度があります(民法903条)。他の相続人との公平を図るためです。

 そうすると,このままお父さんが亡くなった後の相続において,姉への自宅土地建物の贈与は「生計の資本としての贈与」という特別受益とみなされ(民法903条1項),相続分の計算の際には自宅土地建物の価額も相続財産に含めて計算しなければなりません(「持戻し」といいます。)。例えば,自宅土地建物以外の相続財産が1000万円しかなかった場合,自宅も相続財産に合算しますので,この姉弟は(5000万円+1000万円)×1/2=3000万円ずつ相続することになりますが,自宅土地建物を換価せずに相続しようとすると,姉は弟に対して2000万円を代償しなければならなくなります。

 ただし,この制度には例外があり,遺言等で特別受益を計算に考慮しないよう決めることもできます(「持戻しの免除」といいます。)。持戻しの免除がなされると通常の法定相続分で計算されます。

 そこで,お父さんとしては,あらかじめ「持戻し免除の意思表示」をしておくことが考えられます。特別受益について持戻し免除の意思表示をしておくと,その特別受益を相続財産に含めずに相続分を計算することになります。上記の例だと,相続財産は1000万円で,弟は1/2の500万円を相続し,姉は自宅土地建物の贈与のほかに500万円の相続を得ることができます。

 また,書面等で明確に持戻し免除の意思表示をしていなかったとしても,例えば娘が障がいを持っていて自立して生活するのが困難なので,お父さんが娘の将来の生活の本拠を確保するために土地建物を贈与したというような事情が見て取れるときは,黙示の持戻し免除の意思表示があったものとして評価される場合もあります。

 しかし,弟から見るとかなり不公平な相続です。民法では,子など一定範囲の相続人が相続することのできる最低限の割合(「遺留分」といいます。)が定められていますが(民法1028条),弟は姉に対し,自分の遺留分を取り戻すこと(「遺留分減殺請求」といいます。)はできないのでしょうか。もし,遺留分の減殺請求ができないとすると,被相続人は,持戻しを免除した生前贈与によって特定の相続人に財産を全て承継させることが可能になり,遺留分制度が形骸化してしまいます。

 そこで,持戻し免除の意思表示があっても,遺留分の計算においては特別受益も合算しなければならないものとされています(民法903条3項)。上記の例ですと,弟は,お父さんの持戻し免除の意思表示の有無にかかわらず,遺留分としては(5000万円+1000万円)×1/2×1/2=1500万円が認められることになります。そして,相続分500万円を差し引いた1000万円について遺留分が侵害されていますので,弟は姉に1000万円を請求することができます。

 被相続人の意思は最大限尊重すべきですが,相続人の最小限度の利益と相続関係人間の公平を図ることも重要です。

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