弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

離婚調停

2020年03月02日 離婚

 一般的に離婚についての調停は「離婚調停」と呼ばれます。しかし、家庭裁判所では、この種の調停を「夫婦関係調整調停」と表示されます。調停申立書の書式などでは、表題が「夫婦関係等調整調停申立書」となっていて、その後ろに「事件名(    )」との記入欄があり、ここに「離婚」とか「円満調整」と書き入れることになっています。なぜ「夫婦関係調整」などと不明瞭な表現をするかというと、申立ての趣旨の欄が、「円満調停」と「関係解消」の2種類があるからです。つまり、「別れたい」という調停も「もう一度円満な夫婦関係に戻りたい」とする調停も、同一の書式で申立てが可能ということです。離婚の方向で申し立てたが、調停の話し合いの中でもう一度やり直そうという結論で調停が成立できるし、逆のこともありうるということではないでしょうか。

 日本の家事調停制度は世界に例を見ない優れた制度であると言われますが、私はそのとおりだと思います。もちろん、離婚を求めて調停を申し立てたが、合意に達せず調停が不成立となった場合には離婚訴訟を起こすことになりますが、調停前置主義といって、調停をしないで離婚訴訟をいきなり起こすことはできないことになっています。

 調停が訴訟(裁判)と違うところは、訴訟が主張とその立証を行って裁判官の判断で決着する(判決)ものであるのに対して、調停は、あくまで当事者が話合いによって合意の下で結論を出すことにあります。「合意」ということは「納得ずく」を意味します。「納得」と言っても、「心からの納得」の場合だけでなく、諸般の事情や法的な拘束から「仕方なく納得」もありましょうが、少なくとも「了解」の意思決定が存在します。

 もちろん、話合いといっても、当事者(夫と妻)が直接話し合いをすることはなく、調停委員(男性、女性各1名の調停員+裁判官)が中に入って、別個に話を聞き、相手方に伝える方法で調停は進行します。離婚訴訟は、民法で規定された離婚原因が認定されたかどうかで、裁判所(裁判官)が判断を示すのに対し、調停では、当事者の合意に至るかどうかで調停が成立したり不成立となるのです。調停が成立すると、調停調書の調停条項に記載されたことは訴訟における確定判決と同じ効力を与えられ、その内容に従って、離婚であればこの調書で離婚届けが可能となりますし、金銭の給付などについては強制執行もできることになります。

 ここで「当事者の合意」と言いましたが、これが重要なことです。「離婚をするか否か」「未成年の子の親権や監護権をどちらが担うか」「慰謝料や財産分与、養育費の金額を幾らにするか」の判断をし、決定をするのは、調停に立ち会う調停委員や裁判官ではなく、当事者である妻と夫の各本人であることです。それぞれの手続代理人である弁護士が決定するのでもありません。このことは「当事者の自己決定権」などと言われることがありますが、調停においては、当事者が「自分の事」「自分や子などの将来」を自ら考え、判断して自ら決定する優れた制度と思われます。第三者である裁判官の判断ではなく自分で決めることは、個人主義の尊重される世の中にあって優れた方法です。

 これは理想論を述べたに過ぎないと言われるかもしれません。十分な実態把握の能力、法的・手続き的な知識を備え、十分な判断能力を備えた人が初めて適格な「決定」をすることが可能となるからです。法的に素人の当事者に、これらの能力を持って調停に臨むことを期待することには無理がある場合が多いと思われます。しかし、調停の実際の現場では、当事者の法的知識が足りない場合には、調停委員が法律の規定の内容を説明したり、感情的になって冷静な判断ができなくなっている当事者には、穏やかな心になって冷静な判断ができるように調停委員が説得やアドバイスをしてくれます。但し、調停委員は公平な第三者という立場にありますので、調停委員ができるアドバイスにも限度があり、また他方で、当事者に不利なアドバイスはできないという制約もあります。

 弁護士である手続代理人の重要性・必要性はここにあります。代理人は、依頼をした一方当事者だけの味方ですから、申立書をはじめとする各種の提出書面の作成ばかりでなく、調停期日における当事者の発言内容に至るまで、持っている法的知識や経験・ノウハウで依頼者にアドバイスし補助を行います。つまり、当事者が持つ「自己決定権」ができるだけ適正に、かつ十分に行使されるようにするのが弁護士である手続代理人の役割であると言えます。

 我が国の法制下では、手続の弁護士強制はなく、当事者が弁護士に依頼することなく手続を進めることができます。しかし、訴訟でも調停でも、紛争解決の手段であるので、当事者の持つ知識や表現能力に差があることから、専門職の代理人の存在の有無により、その結果に影響が出ることは否定できません。弁護士に依頼することは、その費用を負担することになりますので、必ず弁護士に依頼すべきとまでは言えません。相手方に手続代理人(弁護士)が付いていて、あなたは代理人無しで調停を進める場合、比喩的に、武器(弁護士)を持った相手方に素手で戦うことになりはしないか?といった表現がなされることもあります。

 ただ現在は、法律に基づいて設立されて運用されている機関(独立行政法人)である日本司法支援センター(法テラス)が、資力に乏しい人(一定額の収入や預金などの資産が無い人)に対する弁護士費用を含む手続費用を立て替える制度があります。相談した弁護士が法テラスの登録弁護士である場合には、その弁護士を通して援助申込ができることになっていますので、裁判費用の捻出が困難な人は、この制度を利用したらよいでしょう。

以上

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