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相続放棄後の管理責任

2019年10月01日 コラム

1 相続したくない場合の法制度として、相続放棄があります。
相続放棄をすれば、初めから相続人にならなかったものとみなされます。相続放棄を行う典型例としては、相続財産が債務超過になっている場合などが挙げられます。
相続放棄をするには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に手続きを行う必要があります。
この期間制限のほかにも、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」(保存行為、民法第602条の短期賃貸借を除く)、「相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき」には、相続放棄の効果は認められず、相続を単純承認したものとみなされてしまうことに注意が必要です(民法第921条の法定単純承認)。


2 相続放棄さえしていれば、相続による負担からは解放されるのが通常です。しかし、残念ながら、相続放棄によっても、なお残る負担もあります。それが、相続放棄後の相続人の管理責任です。
民法第940条は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」としています。
この管理責任が問題となるのは、例えば、山奥の山林であったり、老朽化した家屋が挙げられます。山林の木が敷地外の道路に倒れてしまったり、老朽家屋が倒壊して隣地に迷惑をかけたり第三者に怪我をさせたりすると、管理をしている相続人がその責任を問われることになりかねません。
上記民法第940条の管理義務は、次の相続人が管理を始めることができるまで、という期限があります。たとえば、第1順位の者(子や、代襲相続がある場合の孫等の直系卑属)が相続放棄をすると、第2順位(親等の直系尊属)、第3順位の者(兄弟姉妹や、代襲相続がある場合の甥・姪)が、順次、相続人となります。しかし、相続財産が債務超過となっている場合には、第2順位や第3順位の者も同様に相続放棄をすることが少なくありません。そうすると、相続放棄をしても、後順位の相続人が相続財産の管理をできるようにはならないので、結局、自分に管理責任がいつまでも残るということになります。


3 この管理責任から免れるには、相続財産管理人の選任をしてもらい、相続財産管理人に管理を委ねるという方法があります。
相続財産管理人は、相続人のあることが明らかでないとき(相続人が全員放棄してしまい、相続人が不存在となった場合も含まれます)、利害関係人等の請求により、家庭裁判所により選任がなされます。相続財産管理人は、相続財産を管理し、換価して債権者に弁済し、それでも残余があれば国庫に相続財産を帰属させます。
相続財産を管理せざるをえなくなった相続放棄後の相続人も、相続財産管理人選任を申し立てて、相続財産管理人に管理を引き継ぐことで、責任から免れることができます。
ただ、相続財産管理人選任を申し立てる際には、相続財産管理人の報酬や費用をまかなうための予納金を納付しなければなりません。これは、相続放棄をした相続人にとってはかなり負担感があります。
たとえば、相続財産に債権者がいて、かつ、問題となっている不動産に財産的価値がある場合には、債権者が、不動産からの換価・回収を図るために相続財産管理人を申し立てるというケースもあります。そうなれば、相続放棄をした相続人としては有り難いですが、不動産にほとんど価値がない場合には、そうはいきません。

4 相続放棄をすれば万能であるかのように思われがちですが、この管理責任のように、悩ましい問題が残ることもあります。具体的な解決策については、個々のケースにより異なりますので、弁護士に具体的にご相談を頂くのが望ましいと思います。
以上

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