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改正相続法における配偶者居住権について

2019年08月30日 相続

最近、民法債権法の改正(施行は2020年4月1日の予定)に続いて相続法の改正がなされた。本コラムにおいては、2018年8月31日の「相続関係の法改正」と題して改正事項の概要が説明されているが、ここでは主な改正事項のうち、配偶者にとって有利な改正事項である配偶者の居住権に焦点を当ててみたい。

1、配偶者の居住の権利(配偶者短期居住権・配偶者居住権)
立法趣旨は、被相続人の死亡により残された生存配偶者の居住権の保護である。

2、配偶者短期居住権(民法1037~1041条)
配偶者が被相続人の所有する建物に無償で居住していた場合に、当該居住建物の所有権を相続または遺贈等により取得した者に対して、当該居住建物に無償で一定期間居住(「使用」)することができる権利である。
(1)配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をする場合(1号配偶者短期居住権)
①権利者
相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していて現在も同建物に居住している配偶者である(内縁は含まれない)。
②除外される配偶者
ア、その居住建物について配偶者居住権を取得した場合
イ、相続欠格事由に該当する場合
ウ、廃除されて相続権を失った場合
エ、相続放棄をした場合
オ、遺言により、相続分を0と指定された場合
カ、遺言により、居住建物について相続させないものとされた場合
③存続期間
1号配偶者短期居住権の最低存続期間は、「相続開始の時より6ケ月」または、「居住建物の遺産分割がなされるまで」のいずれか遅いときまで。
④具体的相続分との関係
1号配偶者短期居住権による利益は、配偶者の具体的相続分からその価値を控除する必要はない。
⑤1号配偶者短期居住権の効力
1号配偶者短期居住権は使用貸借に類似する法定の権利であり、基本的に建物の使用貸借契約関係と同じ効力である。
⑥消滅事由
ア、存続期間の終了(6か月は最低期間)
イ、消滅請求がなされたとき(1038条1・2項)
ウ、配偶者が配偶者居住権を取得(1039条)
エ、配偶者死亡(597条3項の準用)
オ、居住建物の全部滅失(597条3項の準用)
カ、権利の放棄
⑦消滅時の配偶者の権利義務
基本的に建物の使用貸借契約関係と同じである。
(2)配偶者を除く共同相続人間で遺産分割をする場合(2号配偶者短期居住権)
①権利者 1号配偶者短期居住権と同じ
②成立する場合
ア、配偶者以外の共同相続人に対して居住建物につき「相続させる遺言」がされた場合
イ、配偶者以外の共同相続人の1人または相続人以外の者に対して居住建物の遺贈または死因贈与がされた場合
ウ、相続放棄をした場合
エ、遺言により、相続分を0と指定された場合
オ、遺言により、居住建物について相続させないものとされた場合
③ 除外される配偶者
ア、その居住建物について配偶者居住権を取得した場合
イ、相続欠格事由に該当する場合
ウ、廃除されて相続権を失った場合
④ 存続期間
居住建物の所有権を取得したものは、いつでも2号配偶者短期居住権の消滅の申し入れをすることができ、その日から6か月を経過したときに2号配偶者短期居住権は消滅する(1037条2項)。
⑤ 1号配偶者短期居住権との違い
②~④以外は、1号配偶者短期居住権と同じである。

3、配偶者居住権(1028~1036条)
(1)意義
配偶者が相続開始時に被相続人の財産に属した建物に居住していた場合において、遺産分割によって配偶者が配偶者居住権を取得したとき、配偶者居住権が配偶者に遺贈されたとき、被相続人と配偶者間に配偶者居住権を取得させる死因贈与契約があるときには、その居住建物の全部について無償で「使用及び収益」をする権利である。賃借権類似の法定債権である。
(2)具体的相続分との関係
配偶者が配偶者居住権を取得したときは、その財産的価値に相当する金銭を相続したものとして扱われる。そのため、例えば、配偶者が所有権を取得する、賃貸借契約を結ぶ。遺産分割を急がない等により配偶者の居住を確保する方法が用いられることもある。
(3)配偶者居住権が認められない場合
被相続人が居住建物を第三者と共有していた場合は、第三者の利益を考慮して配偶者居住権は成立しない(1028条1項但書)。
(4)遺産分割の審判により配偶者居住権を取得する場合の特則
家庭裁判所は、相続人全員の合意もしくは配偶者の生活を維持するために特に必要な場合には、遺産分割の審判により配偶者居住権を取得させることができるとされているが(1029条)、例外的な扱いである。
(5)存続期間
自由に定めることができるが、定めがない場合は配偶者の終身の間とされる。
(6)配偶者居住権の効力
賃借権類似の法定債権であるから、ほぼ建物賃借権と同様である。
(7)対抗力
① 登記で対抗できる。
配偶者居住権を登記したときは、居住建物について物権を取得した者その他の第三者に対抗できる(605条の準用)。
② 登記請求権
居住建物の所有者は、不動産賃借権と異なり配偶者居住権の登記義務があり、配偶者には登記請求権が認められている。
(8)消滅事由
① 存続期間の満了
② 配偶者の死亡
③ 居住建物の全部滅失
④ 配偶者が所有権を取得したとき
⑤ 権利の放棄
⑥ 義務違反により消滅請求が認められたとき
(9)消滅時の配偶者の権利義務
基本的に建物の賃貸借契約関係と同じである。
4、まとめ
以上の通り、生存配偶者には改正法で新たに配偶者居住権が認められた。しかし、短期配偶者居住権はともかく、登記請求権が認められた通常の配偶者居住権については、その評価方法や換金等についてまだ実務が熟していないので、遺産分割協議をまとめる際には将来発生する可能性のある問題点について十分な検討が必要と思われる。        

以上

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