弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

危急時遺言について

2013年10月01日 遺言

1  自分がいつ病気になり、いつ最後を迎えるのか、それは誰にもわかりません。

   そして、来るべき最期の時に備え、いろいろな準備をし、その一環として自分の財産について自筆遺言証書や公正証書遺言書を作成している方もいらっしゃるでしょう。

   ただ、世の中、そのような人ばかりではないでしょう。むしろ、遺言をする必要性を感じてはいても、「まだ必要ないだろう」、「手続きが面倒だ」などの理由で、先送りにしてしまっている人も多いのではないでしょうか。

2  では、きちんと準備をしていなかった人は、急に病気になり、自分では字を書くことができないというような状態になった場合等において、遺言を残し、自分の意思に基づいて財産を処分することはできないのでしょうか。

   法律では、そのような場合を想定し、民法976条以下の規定において「特別の方式による遺言」の一つとして「危急時遺言」という制度を設け、一定の手続きを行うことで、可能な限り遺言をすることができるよう、配慮がなされています。

   以下は、どのような要件を満たせば「危急時遺言」をすることができるのかという点について、危急時遺言の中で最も一般的な「一般危急時遺言」を例にとり、ごく簡単ではありますが、説明と注意点を述べていきます。

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1) 「一般危急時遺言」について規定した民法976条1項では、「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いを以って、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。」と規定しています。つまり、まずは「生命の危険が急迫であること」が必要となるわけです。

ただ、「生命の危険が急迫である」という文言の解釈としては、必ずしも死亡の危急が客観的なものである必要はなく、遺言者が自己の死亡の危急が迫っていると考えていればよいと考えられていますので、主治医等に確認していないことを理由として、遺言をすることを控えるという必要はありません。

2) 次に、危急時遺言をする場合には、「証人3名の立会い」が必要になります。

   ただ、証人になることができる人には制限があり、法律では、①未成年者、②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、③公証人の配偶者、4等身内の親族、書記及び使用人を証人となれない者として規定しています(民法982条、民法974条)。特に、「推定相続人」、すなわち遺言者に最も身近な遺言者の配偶者や子供が証人となることができないという点については、注意が必要です。

   なお、一般危急時遺言を作成する場において、証人3名の他に、証人となることができない者が同席しているということも、当然想定されるところです。

   このような場合、同席の事実だけで一般危急時遺言の効力が否定されることはありませんが、遺言に関して主導的な立場になって発言等をした場合の効力については疑問視をする見解もあります。実際、家庭裁判所が行う証人に対する調査の中でも、「利害関係人が同席したか」「何らかの発言をしたか」等について確認・調査を受けることが多いですから、裁判所としても、この点を重要視していると言えます。

ですから、同席せずに作成ができるのであれば同席を避け、同席をする場合も遺言者から見えないところに立つ、発言をしない等の配慮を行うことが大切です。

3) そして、遺言の具体的な作成方法としては、①証人3名立会いのもとで、遺言者が証人のうちの1名に対して、遺言の趣旨を自分の言葉で話し、その内容を証人に言葉通り記憶させ、②遺言者の発言を受けた者がその内容を筆記し、③筆記した内容を遺言者及び証人に読み聞かせる等して内容に誤りがないことを確認し、④その後、証人3名が署名・押印をするという手順を踏むことで、危急時遺言は完成となります。

   なお、押印に用いる印鑑に関しては、認印でも構いませんし、押印に代えて拇印でも構わないと解されています。

   また、証人の署名・押印を、遺言者の目の前で行う必要があるかという点については議論のあるところですが、証人の署名・押印を、遺言者の目の前で行っていない事案において、最高裁判例は「署名・捺印が筆記内容に変改を加えた疑いを挟む余地のない事情のもとに遺言書作成の一連の過程に従って遅滞なくなされたものと認められるとき」は有効である(最判昭47年3月17日民集26巻2号249頁)、つまり無条件で有効となるわけではないと判示しています。

ですから、危急時遺言の有効性に疑義を生じさせないためにも、遺言者の面前以外の場所で署名・押印をすることは避けた方がよいでしょう。

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1) 以上で「一般危急時遺言」自体は完成ですが、その効力を発生させるためには、一般危急時遺言を作成した後で、必ず以下の手続きを行う必要があります。この手続きを行わない限り、せっかく作成した危急時遺言も有効となりませんので、充分注意を払うことが必要です。

2) その手続きとは、「遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に対して請求を行い、家庭裁判所の審判を得ること」です。

   請求を行う際に必要な添付書類等については後日追加提出することが可能ですので、とにかく、この期間内に請求をすることが重要です。

5  最後に、裁判所の審判を得たとしても発生する注意点についていくつか挙げると、①遺言者が普通の方式で遺言ができるようになった時から6ヶ月間生存した場合には効力を失う(民法983条)、②審判確定後も、遺言の有効・無効について争われる可能性がある、③確認の審判を得ていても、遺言者が亡くなった後は検認手続を経る必要があるといった点が挙げられます。

6  以上、ごく簡単な説明・注意ではありますが、「一般危急時遺言」を作成する際の参考にしていただき、遺言という制度を有効に使っていただければと思います。

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