弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

遺言を書いておけば安心?

2013年07月01日 遺言

相続をめぐる争いは、それまで良好だった親族関係をも台無しにしてしまいます。それを防ぐために作成するもの、それが遺言です。

しかし、そんな遺言も、書き方によってはかえって紛争を招きかねず、被相続人の思いもアダになりかねません。遺言を作成する、ということは、年齢問わず常日頃から頭のどこかに置いておいていただきたいことですが、その内容を定めるのは、慎重になっておいていただきたく。

事務所にご相談にやってこられたXさんには、YZのきょうだいがおり、母親はすでに他界しています。Xさんは亡くなられた父親(以下「被相続人」といいます。)の書いた遺言書の写しを見せてくれました。遺言書は自筆証書遺言で、検認手続も経ていたもので、遺言書の成立及び内容の有効性に争いはありませんでした。そこには

Yには約3000万円の甲不動産ほかすべての不動産を相続させる。

Zには約2000万円の乙銀行、丙銀行の銀行預貯金を相続させる。

Xには約1500万円の丁社、戊社ほかすべての株式を相続させる。

・その余の財産は甲不動産の維持管理に充てる。

XYZのきょうだいは皆力を合わせて生きて行くこと

とありました。

きょうだい間で相続分に傾斜はつけているものの、遺言によって相続争いを防ぎ、きょうだいが仲良く力を合わせて過ごしてほしい、そんな被相続人の思いが汲みとれました。

しかしここで一つ問題が。被相続人には約3000万円相当の甲不動産がひとつだけ、乙銀行及び丙銀行の預貯金も合計して2000万円あまり。しかし、株式の価値は会社の業績等に影響を受け、株価は大きく変動します。そして、被相続人には丁社及び戊社以外にも、5社ほどの株式があり、これらを合計すると、相続発生時点で約2500万円ほどになっていたのでした。

Xさんとしてはこれらの株式すべてを相続する、というのが被相続人の遺言の趣旨との理解。それに対し、YZXさんが相続するのはあくまで丁社と戊社の株式だけであるというのが被相続人の意思だとして真っ向から主張は対立。

しかし、そもそも丁社及び戊社の株式だけだと、そもそも1500万円には遠く及びません。Xさんはご相談に来られるまでに、既にYZと何度も話し合いを重ねてきたものの、らちが明かないことから、ご相談に来られたのでした。

この遺言者の真の意図がどこにあったのかは、今では誰にもわかりません。

もっとも、すべての株式を相続させる、とある以上、依頼者のXさんの意向も汲んですべての株式をXさんが相続するよう進めて行きながらも、YZの意向や態度も踏まえて臨機応変に対応するというということで受任に至りました。

もっとも、それまでに既に話し合いが決裂してしまった経緯もあり、YZは話し合いに応じる余地も少なかったことから、やむを得ず家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てた上で、審判を受けることになりました(YZは弁護士を立てず、ご本人で対応されました。)。

結論としてはXさんの意向どおりすべての株式をXさんが相続すると判断されましたが、納得のいかないYZは抗告、最終的には最高裁まで行きましたが、当初の判断が維持されました。

実は後日談として、YZはそれでも審判内容に納得がいかないとして、一部の株式の株券を引き渡してくれなかったので、最終的には株券の引渡請求訴訟まで提起して、Xさんの権利を実現することができたのですが、これらがすべて解決するまでに3年以上の期間を費やしました。

結果としてXさんの権利が守られたということは良かったのですが、最早XさんとYZとの関係修復は到底困難で、YZは言わずもがな、Xさんとしても今後付き合うことは一切ない、ということでした。かつてはXさん、Y及びZともども、お互いの家族も連れて色々なところに出かけたりしていた仲の良いきょうだいだったそうです。

この遺言書の問題は、相続人が株式の金額を記載してしまったことが引き金になっているのですが、やはりそれ以前に被相続人がご自身の財産状況をよく把握していなかったのではないかと考えられるところです。把握ができていなかったからこそ、金額が不正確な目安のままに、遺言書を作成したということなのではないかと考えられます。

被相続人が財産状況を正確に把握できていれば、そもそも遺言書の内容自体に変更があったのかもしれません。そしてそれに従うことができれば、今も「XYZのきょうだいは皆力を合わせて生きて」いけたのかもしれません。もしくはいっそのこと、遺言書がなければ法定相続にしたがい、揉めることがなかったのかもしれません。しかし悲しいことに、遺言書の存在それ自体が紛争を招いてしまったのが本件だと言っても過言ではないでしょう。

このような事態を防ぐためにも、被相続人は、公正証書遺言によれば作成の過程でアドバイスを受ける機会があったのかもしれません。そして、公正証書遺言をスムーズに作成するためには、事前に法律事務所で弁護士からどうすれば紛争にならないのかを、税務や不動産登記手続などの観点からアドバイスを受けるとよいでしょう。

私はよく、「遺言は残す家族への愛の手紙」だと言っています。愛の手紙が紛争を生み出すほど悲しいことはありません。人生の終焉の締めくくりに、残された家族の絆をつなぎとめ、またより強固にするためにも、遺言書の作成には専門家である弁護士に一度ご相談をされてみてはいかがでしょうか。

(上記は複数の事例をもとにして構成されたフィクションです。)

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