弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

遺言内容を専門家である弁護士と相談する意味

2012年04月01日 遺言

最近、遺言については、数々のマニュアルが発売され、情報が氾濫しています。単純なものとか、将来争いが予想されないものなどはこれらを利用すれば済むこともあるようです。 

では、専門家である弁護士と相談する意味は本当に無いのでしょうか?遺言をしようとするとき、一旦立ち止まって、専門家である弁護士の利用を検討されては如何でしょうか?

なぜなら、以下の事例のように、実際には、ご自分の場合が本当に単純で将来争いが予想されないのか、は実際のところが分かりにくい場合が多いのです。

1 ある判例の事例―単純な事例のはずだった?

  これは平成23年に最高裁判所の判断があった事例です。裁判所の出版物の事例をかいつまんで言えば、以下のような、最初は単純な事例であったようです。

  Aさんには、子供のBさん,Cさんがいました。奥さんのDさんは既に死亡し、Aさんは、かわいいBに全ての相続財産を取得させたいと思いました。(もちろん、この場合でも、Cさんの遺留分の問題はありますが、ここでは、一応おいておきます。)Aさんは、公正証書遺言で、Aさん所有に係る財産全部をBさんに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の2箇条から成る公正証書遺言を作成しました。ここまでは、特別なことは無く、当たり前のものです。当然、Aさんはこれで大丈夫と思ったことでしょう。

  ところが、この事例では、何と、Aさんより先に子供のBさんが死亡してしまったのです。

 裁判では、Bさんの子供(Aさんの孫)EさんとCさんとの間での紛争になってしまったというのです。

   通常、Bさんの相続分については、代襲相続の制度がありますので、EがBに代わって相続することになりますが、この裁判では、Aさんの遺言のとおりの財産全部を孫Eさんに相続させることになるのかが問題となったのです。

   最高裁判所は、

「このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。従って、上記ほような「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずる意思はないと解するのは相当である。」として、遺言は効力を生じないものとしました。

  つまり、Aさんの遺言は何も意味が無いものとなったのです。裁判所の考え方のように、Aさんが全財産を与えたいと思ったのはBで、Eではないということなのか、今となっては分からなということはできるでしょう。しかし、例えば、AさんがBさん又はBさんの子孫に全財産を与えたいと考えていた場合は、Aさんの意思は実現されなかったことになります。本件でAさんが専門家である弁護士に相談していなかったかは不明です。また、相談していればAさんが絶対に意思を実現できたといえるかは不明です。しかし、単純な遺言書の構造(2箇条のみ)からすれば、専門家である弁護士に相談し関与してもらって作成してもらったのではない可能性が極めて高いと思われるのです。

  ここで、言いたいことは、遺言をしようとされる方にとっては、一見単純な事例のように見えても、専門家に相談する機会があれば、それを利用して相談した方が、遺言を無駄にしないで済むのではないかということです。

2 別の裁判例の事例―困難を突破できるかも知れない、遺言の利用法?

  次の事例は、相続させたいのではなくて、相続させたくなかった方の事例(事例は裁判所のものを参考)です。

  裁判例の事案は概略以下のとおりのようです。つまり、AさんがBさんを養子にしましたが、Bさんは、Aさんが10年近く入院及び手術を繰り返していることを知りながら、Bさん自身は、外国に移住して年1回程度気まぐれに帰国するのみで、Aさんの看病のために帰国したことは無く、また、Aさんが法的紛争(訴訟)をしていた相手方に強く加担し、Aさんに不利な内容の書面を提出したり、毎日長時間電話してきて相手方との和解を迫るなど、虐待といえる行動を続けてきていたというものです。

 さらに、Aさんは、このようなBさんの行為が許せず、離縁訴訟を提起しましたが、訴訟の引き延ばしをされ(また離縁訴訟の取り下げを迫られる等し)、離縁することができないまま、Aさんが亡くなった、という事例のようです。

  事例によれば、Aさんは、死ぬ前に、遺言で、自分の財産を甥や弟(つまり、Bさんより劣後する相続順位の人達)に遺贈すると共に、Bさん(達)には遺産を与えない旨の遺言をし、遺言執行者(原審申立人、弁護士)を選任したものです。

  この事例では、裁判所は、Bさんに民法889条にいう「著しい非行」があったものとして、推定相続人の廃除を認めるのが相当であると判断し、Aさんは意思を実現することができたようです。

  この事例でAさんは、亡くなった後ではありますが、自分の意思を実現することができたようです。勿論がこの結論になったのは、事例とか代理人の努力等種々の要素があったためで、単純には言えないかも知れません。しかし、少なくとも、Aさんは、専門家である弁護士に相談し、その助力を得ていたもので、専門家である弁護士をきちんと利用したことが大きかったのではないかと思われるのです。

  3 遺言作成に専門家である弁護士の利用を考えることの意味

    当然、これら2つの事例のみを一般化することはできませんが、これら2つの事例は、実は必ずしも珍しくない事例とも言えるのではないでしょうか?

    そうすると、最初の事例のAさんは自分の意思を実現できず、第2の事例のAさんが自分の意思を実現できたとすれば、その差又は差を生じたきっかけは、専門家である弁護士をうまく利用できたか否かにあるのではないでしょうか。

    確かに、近時、一般的な法律的知識は広まり、書籍や遺言を手軽に作成することができる商品が出ているようですが、遺言をされる方が本当に自分の意思を実現されようとするのであれば、遺言作成について、遺言の専門家である弁護士の賢い活用・利用をするか否かは極めて重要な意味を持ってくるように思われます。

    その意味で、可能であれば、遺言の専門家である弁護士(付随する紛争まで全て扱える)との相談・利用を強くお勧めする次第です。

4 弁護士会の遺言の日・家庭法律相談センターにより専門相談のご利用を    

  ところで、今年(平成24年度)も、平成24414日(土)午後から、弁護士会が恒例の「遺言の日」の遺言・相続専門限定の無料法律相談が実施されるようです(予約制。詳細はチラシや弁護士会家庭法律相談センターHP等をご参照下さい。)。この機会に、あるいは、以前ご相談された経験のある方でも、日進月歩で進展のある判例・裁判例を踏まえた内容の専門相談を受けられては如何でしょうか?日程が合わない場合には、家庭法律相談センター(有料)の相談もありますので、ご検討されては如何かと思います。

  誰のためでも無く、遺言をされようとするあなた自身の意思を遺言で確実に実現するために。

                                ( 以 上 )  

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