弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

鑑定の話

2011年12月01日 遺言

  最近親子鑑定や犯罪捜査などでDNA鑑定がよく話題になります。

遺産相続においても鑑定が登場する場面があります。今回は、筆跡鑑定についてお話ししたいと思います。

人が亡くなり、自筆の遺言が出てきた場合に、一部の相続人から、その遺言書の筆跡は亡くなった人の筆跡ではないという主張がなされることが時々あります。殊に、自分が故人から聞いていた話と違う内容の遺言だったり、内容に不満だったりする場合に、そのような主張がなされることが多いようです。

 そうした場合に、故人が残した手紙、日記等を用意して筆跡鑑定を依頼することがあります。インターネットで検索すると、筆跡鑑定を行う業者のホームページがいくつもみつかります。

そのような鑑定業者に依頼して筆跡鑑定を行った結果、故人の筆跡と異なるという結論が出た場合には、遺言の無効確認を求める訴訟を提起したりすることになります。そして裁判になると、遺言が故人の筆跡だとする側は、裁判所に鑑定の申立を行い、裁判所が選任した鑑定人による鑑定がなされることになります。

裁判所での鑑定の結果、裁判前の鑑定業者による鑑定と、裁判所の鑑定人の鑑定とが一致すればほぼ問題は無いのですが、結論が異なった場合には更に混乱することになります。

そればかりか、実際、裁判所で行った鑑定についても、地方裁判所で選任された鑑定人の結論と、高等裁判所で選任された鑑定人の結論が異なり、高等裁判所が地方裁判所の判決を覆した例もあります。

以上のような状況が起きる原因には、鑑定する人によって、採用する鑑定手法の差異や、鑑定に用いる資料の選択の差異等いろいろなものが考えられます。

鑑定手法にも主に筆跡の特徴点を目視により捉え筆跡の同一性を判定する伝統的手法、コンピューターを用いた数値による科学的手法、それらを組み合わせたもの等いくつかの方法があるようです。

いずれにしても、筆跡鑑定には決して安くない鑑定料の支払をしなければならないので、もし鑑定を依頼する場合には、業者の選択を慎重に行う必要があり、さらに裁判になった場合に裁判所の鑑定も行われる可能性があること等先を見通した対応をする必要があります。

また、遺言書の筆跡が故人のもので無いと主張することは、誰かが偽造した可能性があると主張することになるので、他の相続人との対立が一層激化することも考えられますので、その点も覚悟しておく必要があります。

自筆証書遺言には、このように、筆跡が違うという主張がなされることもあり得ますので、そのような無用な争いを無くすためには公正証書遺言が有効です。公正証書遺言にはその外にもいろいろな利点がありますが、それらについては、過去のコラムにも記載があると思いますので、ここでは省略させていただきます。

この外に、私の経験では、20年以上前に作成された遺産分割協議書(遺産分割協議書には有効期限はありません。)に押された自分の実印の印影が、印鑑証明の印影と異なり偽造されたものであるとの依頼者の主張(一旦署名はしたが、納得できなかったので実印は押さなかったという主張)に沿って印影の鑑定を依頼したら、偽造であるとの鑑定結果が出たので分割協議の無効を主張する裁判を起こしたら、裁判所の鑑定人の結論は偽造ではないという結論がでたこともあります。その訴訟では裁判所の鑑定人の鑑定結果を前提に、和解が成立しましたが、この件も、鑑定は必ずしも絶対ではないということを痛感させられた事件でした。

できるならば、権威ある公の鑑定機関ができて、科学的で比較的安価な鑑定料で鑑定がなされる仕組みができれば、筆跡や印影をめぐるトラブルもうまく解決できるのではないかと考えます。

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