弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

自筆証書遺言が問題になった事例

2011年11月01日 遺言

  1 本件は実際にあった事例ですので、当事者の事情等プライバシーは書けません。表面的な現象をなぞるだけになりますが、自筆証書遺言が意外と多くの問題を含むということをお知りになれる事案として報告致します。

2 お母様がお亡くなりになられ、遺品を整理されていた長女の方が、上部開封状態の封筒に書遺言と題の付けられた書面があることを発見されました。その長女の方が遺言執行者と記載されておりましたので、驚かれた長女が、相続人である姉妹5人を呼んで書面及びその内容を検討しました。

この書面は8枚になっており、亡くなった母の字であろうとは思われましたが、各ページの字に濃淡があるため同時期に作成されていない可能性が明らかで、しかも7ページ目が2枚あり、且つページ毎に契印がされていないという書面でした。相続人からは、内容についても従来母の言っていたことと全く違うとの主張や、母の字かどうか疑問があるとの意見、母は1000万などという数字の記載をしているところは見たことがないという母の習慣についても疑問が出ました。

最も重要なことは、土地の区分のために作成された書面添付の図面(契印はありません)が私道の部分を含むかどうかで実際の登記と異なっており、書面記載の文言にも疑問があることから、添付図面どおりに登記できるかどうか問題があったのです。以上から、ご姉妹は有効な遺言書ではないのではないかと疑問をもたれ、相続人間の話し合いで分割しようという雰囲気になったのです。

3 このような状態で、且つ死亡されて半年も経過後、長女の方が相談に来られました。相談者である長女は、各人分の土地の分割のため既に母によって実測され且つ区分登記まで終わっているにも拘わらず、この土地区分もやり直しになるなら、多くもない遺産が食い散らかされ、しかも姉妹の主張を勘案すると決着はつかないのではないかと悩んでおられました。

4 初回、本書面を見ていない段階では遺産分割をどういう風に進めるかの打ち合わせになりました。しかし、2回目の相談時、遺言書なる本書面を見て、私は自筆証書遺言として有効であろうと判断しました。それは殆どの相続人が母の字であろうと判断されていること、遺言書は封印された封筒に入っている必要も契印の必要もなく、全体として一通の遺言書であることが外形的に確認できればよく、遺言内容が遺言者の最終意思として合理的に解釈できるなら無効にはなりません。そもそも遺言書が有効なら、遺産分割調停の申立をしたとしても裁判所から取下げを要請されます。

5 遺言書の有効性に拘わらず、先ず検認の申立をしました。

検認の際、東京家庭裁判所でも滅多にお目にかかれない珍しい体験もしましたが、プライバシー保護のためここではその体験は記載できません。しかし相続人の方々の誠意ある対応にて、検認調書上もやっとのことでクリアーできたことについては、相続人の方々の名誉のために付言させていただきます。

6 次の論点は、遺言の実行としての課題である①不動産の登記と、②銀行・証券会社に対する解約・名義変更等の手続です。

言書による登記が可能かどうかについては、予め司法書士の先生に検討をお願いしておりました。司法書士の先生も、遺言書の体裁・文言及び添付書面の図面の不十分さを認識され、法務局と事前協議していただいておりました。

結論より申し上げると、有効と認識される相続人の方の委任状の発行は受けましたが、遺言書どおり各人個別に相続登記ができたことが決定的であったと考えております。法務局においても有効として取り扱われたことから、遺言書は無効だと主張される相続人の方々もやっと軟化され、金融関係の解約・名義変更の署名に応じていただく段取りができました。

7 ところで金融機関の解約や名義変更に関して、全ての相続人の同意書がなく、遺言書のみで実行することは大変なことなのです。金融機関は、遺言書を有効と認めない相続人の苦情を恐れ、全ての相続人の印鑑証明付き同意書がないと解約・名義変更に応じないことがあるのです(長女にはそのように告げられていた)。そのためには遺言書の文言に遺言執行人に対する解約権限付与条項を入れる等の工夫が必要なのです。

  当事務所では他の弁護士を動員して、上記問題をどのように解決させるのか幾度も議論しました。最終的に応じない金融機関に対しては解約確認及び慰謝料等の請求までを含む訴訟の準備までしております。その際には全相続人に対して訴訟告知する必要があることまで議論しました。しかし訴訟は時間がかかり過ぎます。そこで応じない金融機関には遺言書を示して、金融機関から解約・名義変更する旨の内容証明を出させるなどの工夫をするよう求めるというような、ハードな交渉をする段取りまでしておりました。

自筆証書遺言には、以上のような諸問題に波及し、リスクもあることをご承知ください。

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