弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

「遺言信託」??という言葉から

2009年12月01日 遺言

最近はまた少なくなってもきましたが、数年前から一時「遺言信託」(“ゆいごんしんたく”とか“いごんしんたく”と読まれています。)という言葉を活字で見かけることが増えた時期がありました。
あるいは、目にした方、耳にした方も多いかも知れません。

そんな影響でしょうか、家庭法律相談センターで相談を受ける中でも、「遺言信託」ってどういうことなのでしょうか?「遺言信託」をするとどうなるのですか?などと尋ねられることが時々あります。
遺言はわかりますが、「信託」というのは?遺言を信託するとどうなるのでしょうか?

「信託法」という法律が数年前に大改正されました。
この信託法という法律、それまでは80年以上前の大正の時代に作られた旧「信託法」が、ほとんどそのまま使われていました。
平成18年12月15日の改正(平成19年9月30日施行)の時に、遺言で使えるような部分についても、いくつか法律が整理されました。
その中で、「遺言信託」という言葉が話題になったことがありました。

「信託」というのは、簡単に言うと、自分の財産を、「信」頼できる他人に譲り(「託」し)、その他人が財産を管理して運用したりすることで得た利益を、指定した者に与えるというような契約のことをいいます。
「Aさんが、Bさんに対して、自分の財産をCさんのために使ってほしいと指定して、信託する」というのが、もっとも基本的な使い方になります。
これを「遺言」で行うのが、「遺言信託」の基本です。

ただ、一般に使われている「遺言信託」という言葉は、必ずしもこの「信託法」で使われる「遺言信託」の意味で使われることばかりではないようです。
どうやら、「遺言信託」という言葉が使われるときは、大きく分けると、(1)「遺言」に関係することを「信」頼して誰かに「託」する、という意味と、(2)「遺言」で「信託」をする、という意味、との2つの使い方があるようです。

「遺言」「信」「託」

まず、実際によく使われているのは、(1)の「遺言」「信」「託」の意味のことが多いようです。
これは、「信託法」でいう「信託」よりも、もっと広い使い方で、一般には、金融機関などが行う、遺言に関する業務全般をさして使われています。

その中には、遺言の作成方法のアドバイスや、遺言書の保管、遺言執行などの業務が含まれます。
遺言書のある相続でも、争いのない事案で、子の認知などの身分に関することを含まない「遺言執行」であれば、弁護士などの専門家でなくても行うことができます。
実際に、信託銀行などの金融機関でも、遺言に関する定型的なサービスを、「遺言信託」といった商品として提供されています。

相続の際には、不動産や預金の名義を変更したり、遺産を計算して遺言に従って相続人に遺産を分配したりと、とてもたくさんの手続きが必要となります。
書類の書き方や準備する資料も、遺産によって異なったりしますので、特に遺産の種類が多い場合などは、手続きだけでも負担に感じることもあるでしょう。

普通に生活していれば、相続というのは、一生のうちにそう何度も経験するものではありません。
相続に「慣れている」方というのも稀でしょう。
そうすると、いざ「遺言」が見つかり、「相続」となっても、どうしたらよいのか分からなかったり、やることは分かっていても、時間が作れずに手続きを進めることができない、そんな相談で来られる方も多くいます。

定型的な、簡単な事案であれば、専門家からアドバイスを受けるだけでも、やらなければならない手続きが整理されて、楽な気持で進められることもあるでしょう。
ただ、一見、手続きだけなのですが・・、争いはありませんが・・、といった相談であっても、ふたを開けてみると、結構大変な事案になっていることもあります。
最初は容易に解決するかと思われていた相続でも、始めてみると遺族で意見が対立して話が進まなくなってしまったり、後になって、今まで誰も知らなかった遺産が出てきたりして、ややこしい問題になってしまうことも少なくありません。

そんな面倒なときに、また、予め、そんな面倒なことにならないように、「遺言」を作るところから専門家に相談してみる。
作った「遺言」をスムースに実現できるように遺言執行をお願いしてみる。
出てきた「遺言」に従った手続きを専門家に相談してみる。

これも広い意味での「遺言」「信」「託」です。
争いのある事案の処理など、弁護士でなければできない仕事もあります。
法律の専門家である弁護士としても、大変な仕事の一つですが、それだけに、力を発揮しなければならない場面になります。

「遺言」「信託」

次に、もう一つの、(2)の方の「遺言信託」が、最初に触れた「信託法」の問題です。
これにも、いろいろな使い方があるのですが、典型的な、「信託」の使い方の例を考えてみます。

たとえば、①まだ幼い子供のいる方が、将来の相続を考えて遺言を書こうと思うような場合を考えてみましょう。
多くの遺産を子供に残したいと思う反面で、せっかく遺産を残しても、子供がうまく使えるのだろうか?と心配なこともあるでしょう。

また、ほかにも、②病床の妻に遺産を残したいが、妻が遺産の管理をできるだろうか?③夫の今後の生活のために遺産を使ってもらいたいが、浪費家の夫に渡すとすぐに使ってしまうのではないか?といった不安があるような場合もあるでしょう。

こんなときに、「遺言」で、信頼できる第三者や専門家に対して「信託」を設定して、遺族を「受益者」として使ってもらうという方法を考えることができます。
これが、「遺言」で「信託」するという方法が有用な場面の一つです。

遺言というと、亡くなった時点の遺産を、誰にどれだけ分けるのかを指定するだけのものと考えられていることもあります。
しかし、場合によっては、様々な法律を使って方法を工夫することで、複雑な要請に応えるだけの柔軟な使い方ができることもあるのです。

相談を受けていると、「法律」というと、形式的で、現実に合わない意固地なものだという印象を持たれている方も少なくないように感じることがあります。
しかし、使う人や、使い方によっては、便利な方法が見つかることもあります。

重要なのは、何がしたいのか?それはなぜなのか?といった正直な気持ちを整理してみることなのかもしれません。
法律はこうなっているみたいだから・・、こうしなければならないはずだ・・、などといった先入観や偏見をなくして、素直に、本当の気持ちを、信頼できる専門家に相談してみると、新しいアイデアや解決方法を見つけやすくなることがあります。

相談を受ける中で、相談者とともに悩み工夫を重ねることで、相談者や依頼者が真に求める「解答」を見つけられた時などは、専門家にとっても、苦労を忘れる充実感を味わえる瞬間です。                  

  以上

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