弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

遺言の解釈

2008年11月01日 遺言

 

 

 2年程前、26歳の男性(A君といいます)が弁護士会家庭法律相談センターに法律相談に来ました。
妻と1歳になる子供のために、自宅近くのコンビニで夜間勤務として働いているとのことで、大変明るく責任感のある若者でありました。 このA君は、生まれて間もなく両親が離婚し、母親(B子さんといいます)はA君を実家の祖父母(甲野家)に預けたまま、3ヶ月後には他の男性と所在不明となってしまい、その後A君は祖父母に育てられました。
A君が小学校を卒業するころから、B子さんは他の男性(後に結婚)との間にできた女の子を連れて、度々実家にお金の無心に来るようになり、その都度、祖父母と言い争いが絶えませんでした。
しかもA君に対しては、母親らしい素振りを一切見せることはなかったとのことでした。


 A君は祖父母とも仲良く暮らしており、将来自動車の整備工になるため工業高校にも行き、そして20歳になったときに祖父母の養子となりました。
祖父はA君に甲野家の財産をすべて相続させようと、以下の通り自筆で遺言書を書き、A君に預けました。
 その内容は「甲野家の財産は甲野の姓を名乗り、先祖を大事にする人に渡したいと思います。今のところAの外にはいないです。B子にはほんの少ししかやれません。」と記載されたものでありました。


 その後祖母が亡くなり、祖父も死去したときに、B子さんは祖父(B子さんにとっては父)の遺産の2分の1は私のものであるとして、弁護士をたてて家庭裁判所に遺産分割協議の調停を申立てきました。
A君が家庭裁判所に出頭したところ、B子さんの弁護士から、遺言書は内容が特定されていないから無効であると主張され、また調停委員からも同じことを言われ、遺産の平等分割案を認めるように説得された、とのことでした。


 A君としては、相手の弁護士や調停委員の言うことに納得が行かず、「いままで散々実家に迷惑を掛けてきたB子さんなのに、祖父が死んだ途端に2分の1の相続権を主張することが認められるのか。
何故、祖父の遺言書は無効なのか。」との思いが強く、そのため弁護士会家庭法律相談センターに相談にきたとのことでありました。

 確かに一見すると遺言内容が特定していないとして無効とも考えられますが、しかし祖父とA君の気持ちを考えるとき、何とか遺言書を有効として有利に調停を進めてあげたいと思い、そもそも遺言は遺言者の意思表示であれば、その意思の解釈としては祖父の気持ちに沿って合理的に解釈すべきでないかと考え、判例を調べてみました。

 ありました!! 最高裁平成5年1月19日第三小法廷判決において、遺言解釈の一般原則として「遺言の解釈にあたっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効になるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり、そのためには、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるものと言うべきである。」と判示されているのです。

 A君の祖父が遺言書を書いた当時、A君をわざわざ養子とし甲野家の跡取りとしており、しかも祖先を大事にするA君以外には甲野家の財産を渡す者はいないとしているのであります。
まさに祖父の意思はA君に遺産のほとんどすべてを相続させるというものであり、しかも甲野家から出て他の姓を称するB子さんには,ほんの少ししかやれないと記載しており、その趣旨は、B子さんには遺産の1割か、多くても2割ぐらいしか相続させないと解釈することが合理的ではないかと考えられます。


 そこでA君には,この最高裁判例に沿って、祖父が遺言書を作成した当時の合理的意思解釈を書面として作成し、その判例を資料として添付して、調停期日の10日前に家庭裁判所に提出するようアドバイスをしました。
その結果、期日当日には調停委員の態度が全く変わり、全面的にこちらの主張を支持する進行となり,そしてB子さんの弁護士が裁判官の考えを問い質したところ、裁判官も同じくこちらの主張を支持するとのことであり、結局その後の調停期日で、A君は75%の割合、B子さんは遺留分権である25%の割合を基準として、遺産分割協議の調停を成立させることができました。


 A君は「気持ちがスッキリした。」と大変喜んで、弁護士会家庭法律相談センターに感謝してくれました。          

                  以上

 

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