弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

たった1行の遺言書が役に立った話

2008年07月01日 遺言

 私の知り合いに共働きの夫婦がいました。
の夫婦は再婚者同士で、夫には別れた妻子があり、妻は自分の子を連れて再婚しました。
あるとき、夫が旅行に出かける際に、妻は、「あなたに何かあると困るから、ちょっと遺言を書いておいてよ」と言いました。
夫は、気楽にそれに応じて、便箋1枚に「遺言書 すべての財産を妻に相続させます。」と書いて、日付を入れ、署名し、認印を押して、妻に渡しました。
夫は無事に旅行から帰り、その遺言書は引き出しにしまわれたままになりました。

 夫は、やや太めではありましたが、健康そのもので、熱心に仕事をし、楽しく酒を飲み、周囲の人と愉快に談笑して過ごしていました。
ところが、ある日突然、夫は心不全で急死してしまいました。
夫名義の目ぼしい財産は、住居とは別に所有している賃貸マンション1戸でした。

 このとき、妻から弁護士である私に相談がありました。
 遺言書はありましたが、死んだ夫には元妻と一緒に暮らしている未成年の子がありましたので、夫が亡くなったことを知れば「遺留分減殺請求」(民法1031条)をしてくる可能性が高かったのです。
 妻は、遺言書を保管していましたから、相続の開始を知った後、遅滞なく、家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を請求する義務がありました(民法1004条1項)。
妻は、私のアドバイスにより、まず、家庭裁判所に遺言書の検認を請求しました。
このとき、遺言書の検認を行うことが、家庭裁判所から、亡くなった夫の子にも通知されました。

 次に、妻は、家庭裁判所に「遺言執行者」の選任を請求し(民法1010条)、私が遺言執行者に選任されました。
そして、私は、遺言の執行として、夫名義のマンションの所有権を相続により妻に移転する登記の申請手続をし、マンションは、妻の所有になりました。

 「遺留分減殺請求権」は、相続の開始と減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないと時効で消滅します(民法1042条)。
しかし、夫の元妻と一緒に暮らしている子は、夫の死亡と遺言書の存在を知ったにもかかわらず、なぜか、遺留分減殺請求権を行使しないまま1年間が経過しました。

 このように、たった1行の遺言でも絶大な力があります。
しかし、注意しなければならないのは、「自筆証書遺言」は、遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自書し、押印しなければ効力がないことです。
上の例の遺言書は、日付も含めてすべて自書され、押印もあったので有効だったのです。

 通常は、可能であれば、「公正証書遺言」を作成した方がよいでしょう。
公正証書遺言は、多少の手間と費用がかかりますが、公証人が点検しますので効力が否定される可能性が少なく、また、遺言書の検認が不要なので(民法1004条2項)、速やかに執行できるなどメリットが大きいからです。

 手続的にも内容的にも確実な遺言書を作成するためには、事前に、弁護士会家庭法律相談センターなどで弁護士に相談することをお勧めします。

                             以上

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