弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

遺言事項の変わり種---遺言執行者

2008年05月01日 遺言

 

 ここでは、「遺言」は所定の形式による法的な効力のある遺言を指します.
単に、この世を去るに臨んでの気持や感情を吐露したり子弟を訓戒したりする「遺書」に書き残す言葉のことではありません。
今回は、重要なことなのに、遺言に無縁だった人には理解しにくい特殊な遺言事項の一つについての話です。

戦後、法が人の権利を平等とし相続関係の定めを改めて60年を経過します。
その間に人々は、昔の家督相続時代の感覚を脱ぎ捨て、堂々と相続権を主張するのを当然とする時代になりました。
その上近年離婚率が高くなって、離別した親子の関係や再婚後の異父母兄弟姉妹の関係が問題となり、それに、若い男女共に結婚しない風潮と少子高齢化の時勢も加わり、相続関係事情は複雑になりました。

家族や親戚その他周囲の人々を困らせないよう跡を濁さず他界するには、財産の多少を問わず遺言が必要になってきたのです。
そこで、かつては専ら富裕層の利用した遺言は、今や一般庶民のものとなり、その利用が年々増加する傾向は止まりません

弁護士会家庭法律相談センターには、多くの人が遺言に関する相談のため来訪します。
「遺言をする予定ですが、遺言執行人とやらはどうしましょう。」という質問を受けたことがあります。
法律用語の「遺言執行者」の末尾1字を変えて「遺言執行人」としたのが面白い。

遺産を受け継ぐ「相続人」、財産を遺した「被相続人」、遺言に立ち会う「証人」、遺言公正証書を作ってくれる「公証人」など、どれも「人」がぴったりの感じです。
それで「執行者」も「執行人」に化けたのでしょう。
もっとも、「者」の方も「受遺者」「遺贈義務者」や肝心の「遺言者」などがありますが、なんとなく堅苦しい感じです。しかし、「執行人」も大昔の処刑役人みたいで感心しません。

 本題に入ります。
遺言の公正証書を見ると、多くは、遺言本文の末尾に近い条項で「この遺言の遺言執行者として次の者を指定する。」という文章と指定された遺言執行者の住所、職業、氏名、生年月日の記載があります。
これが遺言執行者指定の遺言です。

 遺言はいろいろな事項にわたります。
核心は、遺産の承継つまり継がせたい人にその遺産の権利を移転する遺言で、その「遺贈する」「相続させる」等の用語は誰にでも分かりやすいのです。
ところが、遺言条項の中には一般社会人に分かりにくい変り種の遺言があり、その一つが上記の遺言執行者指定の遺言です。
遺言執行者とは文字どおり「遺言の執行」を担当する人のことです。

 「遺言の執行」とは、遺言で定めた事柄を実現する行為のことです。
登記のような公的な手続もあれば、金銭や物の引渡しのような事実上の行動もあります。
遺言の実現は本来、相続人が全員一致の共同で行うことができる性質のものです。
しかし、相続人の中に、重病の患者や行方不明者がいる場合とか、その遺言に不服で執行に反対する者がいる場合には、円滑な遺言執行は困難です。
そこで、相続人全員に代わって遺言の執行を専ら担当する「遺言執行者」の制度があるのです。
その遺言執行者を誰にするかは、遺言者が遺言で指名できるのです。
遺言の一部特定の事項だけについての指定もでき、以前に自分がした遺言についての指定もできます。
また指定の取消しや変更も遺言で行うことができます。

 遺言執行者がある場合は、その執行を妨害する相続人の行為(例えば遺言に反する相続登記手続)は無効とされています。
その結果、遺言執行者を指定
する遺言は、事実上、その対象とする遺言を強化する効果があるのです。

 遺言は、その事項によっては執行が必要でないものもあります。
例えば、相続人相互間の(法定相続分と異なる)相続割合を定める遺言は、格別の手続を要しないで自動的に効力が生じます。

 反対に、必ず遺言執行、それも「遺言執行者による」遺言執行をしなければならない遺言事項があるのです。
これも変り種に属するのですが、「子の認知」の遺言「推定相続人の廃除」の遺言です。
そのうち特に相続人廃除の遺言の遺言執行者は、廃除対象の相手方推定相続人と対立して、申立人の立場で家庭裁判所での審判手続に関与するため、労力的にも精神的にも負担は小さくありません。

 通常の遺産処理に関する遺言執行者の職務も楽ではありません。
場合によっては、原告となって訴訟を起こしたり、逆に被告として訴訟手続で争ったりしなければならないこともあります。

 遺言者としては、適任と判断した人を遺言執行者に指定するはずですが、その指名を受けた人は、就任を辞退する自由があります。
遺言による遺言執行者がないとき、または辞任などで遺言執行者がいなくなったときは、利害関係人の請求を受けて家庭裁判所が選任します。
候補者には、事前に裁判所から意見が求められます。

 いったん就任した後は、裁判所の許可がなければ辞任できないので、相続人や裁判所に対する就任の諾否回答は軽率にはできません。

 なお、遺言執行者に就任する資格のない欠格者と定められているのは、未成年者と破産者だけです。
遺言執行者は遺言で定められたとおりのことを早急に実行する役割を有するだけなので、実務では相続人その他の関係者でも指名が可能とされています。 
                    以 上

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