弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

あなたは遺言書を作りましたか

2005年06月01日 遺言

 今回は遺言の話です。
ところであなたは遺言書を作りましたか
まだ作っていない。 その理由は・・・
①まだ丈夫で当分死にそうにない。
②遺言するほど財産が沢山あるわけではない。
③遺言するには年齢が若過ぎる。

・・・要するに遺言をする必要がないということですね。

本当に必要がないのでしょうか。身の回りの生活や親族の事情をよく考えてみましょう。案外必要性が重大で、遺言をしなかったため深刻な問題を生じて、周囲を大変に困らせるかもしれないのです。
 「遺言」という言葉を聞いたとき。年配の人の思い浮かべる光景は、老いて瀕死の病床にある専制権力者が、枕もとに重臣達を呼び集め、苦しい息の下から「幼少の息子の行末を、くれぐれも頼む」と繰り返す時代劇の場面でしょう。
  若い人の連想する光景なら、激しい吹雪を避け独り雪山の岩陰に横たわる冬山登山の青年、最後の力を振り絞り父母と恋人に宛て「ご両親様、先立つ不孝をお許しください。愛する○子よ、良い伴侶を見つけて幸せに。」と手帳に書き残す遭難劇の場面か。
そこで、上記の遺言しない理由①、②、③のあとに、それぞれ「縁起でもない。」と続くことになります。
 ところが、この二つの連想場面で各主人公がしている行動は、現代社会では未だ法的な「遺言」とはいえないのです。現代の法的に有効な「遺言」は、財産や親族相続関係など、遺言する本人が決定できる法律関係事項について本人の意思を書面に書き表したもので、しかも法律(民法)の定める方式に厳格に従って作られなければなりません。

 私達は、「遺言」というと、未だ何となく死期の差し迫った人のすることのような感覚で考える傾向があります。
   しかし、遺言書作成の専門家である公証人の話では、遺言は、元気なうちにするものだそうです。
遺言を希望する入院患者のために公証人が急ぎ病院に駆けつけた時はすでに遅く、患者本人は体力も気力も尽き果てていて遺言不可能の状態のまま死去するという事例は稀ではないとのこと。
「平素は多忙なので、入院してヒマになってから遺言書を作る」なんて考えは、それこそ縁起が悪い。
   前記理由①の「まだ丈夫で当分死にそうにない」元気な時こそ、遺言適齢期なのです。
 遺言をした人は、後で自由に遺言を全部取り消したり一部変更したりする新遺言ができるのですが、ある裕福な資産家で、毎年の正月行事として、家族にもその旨宣言して、遺言書の作り直しをしている人がいます。その人は、「子供達をはじめ周囲の者が皆いつも私を大事にしてくれます」と言って自慢しているとか。人生の達人というべきか。

 話は変わります。 昔は、前記の遺言をしない理由②のように、遺言は、沢山財産のある人が利用する財産分けの方法と思われていたようです。
   しかし、最近は多くの人が、財産の多少に関係なく、遺言をするようになりました。
遺言書作成の相談に来た人の中には、「少しばかりの財産のことで遺言なんて恥ずかしい」と言う人もありますが、私は、「とんでもない。少しの財産のことで身内に争いが起こるのは、是非とも防がなければなりません。遺言するのは良い心がけです」と答えます。
また、実際に裁判沙汰になっている相続紛争の例でも、遺産が沢山ある場合だけとは限りません。
 近頃では、子のない夫婦で、互いに各自の財産全部を配偶者に相続させる旨の遺言をする実例が少なくありません。
これは、遺言が必要になる場合の一例です。この場合、遺言がないと、死亡配偶者の遺産は、日常生活に夫婦共同で使ってきた家財道具類にいたるまで、法的には、死亡配偶者の生存する父母や祖父母の全員に合計で3分の1の相続権があり、父母や祖父母が一人も生存していないときは、死亡配偶者の兄弟姉妹(すでに亡くなっているときは、その子)の全員に合計で4分の1の相続権があります。
そこで、生き残った配偶者は、財産の多少に係わらず、相続処理に奔走しなければならず大変苦労します。
 正式の婚姻届を出さないで結婚している事実婚の場合は勿論のこと、正式の婚姻をした夫婦でも子のない場合は、配偶者に苦労をさせないためには、遺言が必要になります。
兄弟姉妹やその子には遺留分がないので、遺言で確実に思いどおりの財産処分ができます。
 老いた夫に対して「遺言をしてください」とは頼みにくいと悩んでいる奥さん。
簡単です。「二人で一緒に、お互いに全財産を継がせる遺言をしましょう」と持ちかければよいのです。災害の多いこの時代、どちらが先に逝くか分からないではありませんか。          
ただし、夫婦でも遺言は二人以上の連名ではできない(無効になる)ので、遺言書は一人づつ別々に作らなければなりません。

 次に、前記の遺言をしない理由③(年齢が若過ぎる)について
実は、年齢に関係なく遺言が切実に必要な場合もあるのです。これも公証人から聞いた話です。
 公証役場を訪れた優秀なエリートと見受けられる若い男性会社員が、遺言書を作成したいと言う。公証人は、その男性の話す次のような事情を聞いて納得したとのことです。
 彼は、亡父のほとんど唯一の遺産であった家屋敷で、母親と二人暮らしをしている。その家屋敷は、母親と協議の上、彼が単独で相続した。その後、彼は正式の結婚をし、子も生まれた。まもなく妻と不仲になって協議離婚し、彼女は、幼い子を連れて遠地へ去った。
 離婚の時その子の親権者を彼女と定め、今は母子共に音信もない。
ところが、最近になって友人の弁護士と話したとき教えられて驚いたことには、もしも彼が死んだ場合、法律上その幼い子が彼の唯一の相続人になり、彼の母親には相続権がなく、亡父から受け継いだ家屋敷は子の単独所有となるというのです。
その結果、彼の母親は、配偶者として亡父の家屋敷の取得と維持に貢献したにもかかわらず、住居を失い路頭に迷うことになりかねないのです。
この理不尽な結果を防ぐには遺言という適切な手段があることを、弁護士から教えられて彼は来訪したのです。
 彼は、自分の全財産を母親に遺贈する旨の遺言をすることにし、遺言の方式としては、家庭裁判所での検認手続(遺言者の死後に相続人など関係者全員を呼び出し、遺言書の状況と記載内容を確認する手続)をする必要もなく、自分の死後直ちに母親に移転登記の手続をすることもできる公正証書遺言を選んだのです。
それは、まさに正解ですが、まだ三十歳にもならないのに、彼には、どうしても遺言をしなければならない切実な理由があったわけです。

 以上のほかにも、是非とも遺言書を作るよう勧めたい場合があります。
   遺言の内容は、親族事情だけでなく、遺言する人の職業、対象財産の種類(不動産、動産、現金、債権その他の権利など)、使用状況や抵当権等負担する担保権の有無などによっても千差万別となります。
さらに、多額の債務を負担している人の場合などは、特別の配慮も要します。
 有効で適切な遺言をするには、対象を全財産にするか特定財産だけにするかの問題や遺言方式(原則は自筆証書、公正証書、秘密証書の三種類)の選択の問題を含めて、遺言内容の円滑な実行確保と妥当な結果の実現による紛争防止の考慮も欠かせません。
遺言の内容については、判断の難しい法律問題が伴うことが少なくないのです。

 ここまでの話で、そろそろ気になってきたのではありませんか。
遺言に関心のある方は、また、迷っておられる方も、弁護士会が運営する当家庭法律相談センターの専門弁護士による法律相談をご利用ください。この法律相談を受けられた方のうち、ご希望の向きには、関係する税金の構造と考え方について税理士による無料税務相談も用意しています。   
                                     おわり

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