弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

相続分の譲渡

2018年03月01日 相続

1 私の扱った相続の事案で「相続分の譲渡」が出てきた事案がありました。

2 ここに「相続分の譲渡」とは,共同相続人の一人が,遺産分割前に,自分の相続分をまとめて譲渡することをいいます。譲受人は,譲渡人の相続人としての地位をそのまま承継します。譲渡の相手は,相続人でも第三者でもよいとされています。ただし,相続分が第三者に譲渡された場合には,トラブルのもとになるおそれがありますので,他の共同相続人は,その価額及び費用を償還して,その相続分を譲り受けることができるとされています(相続分取戻権,民法第905条第1項)。なお,「相続分の譲渡」があっても,債務については,債権者を害さないために,譲渡人も併存的に債務を負担するものとされています。

3 さて,私の扱った相続の事案ですが,被相続人は大正生まれの女性。配偶者はなく,子供も夭折(ようせつ)しており,両親もすでに他界しておりましたので,兄弟姉妹(けいていしまい)及びその代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)が相続人となる事案でした。相続人は,のべ14名おりました。資産は,ほとんどが預貯金でした。全血(ぜんけつ)のほか,半血(はんけつ)の兄弟姉妹もおりましたので,私の依頼者の法定相続分は13分の1で,他にAさんも13分の1,Bさんは13分の2,Cさんは13分の9でした。なぜ13分の9なのかと申しますと,そのほかの相続人10名は,みな,Cさんに「相続分の譲渡」をしていたのであります。全員分の「相続分譲渡証明書」及び「印鑑登録証明書」が揃っておりましたので,すったもんだはありましたが,最終的には,私の依頼者,Aさん,Bさん,Cさんの4名で,遺産分割をしました。

4 それにしても,本来であれば遺産の配分にあずかれるところを,それをあっさりと譲り渡してしまうというのは,ふつうは考えがたいところですよね。Cさんがどのようにして,そのほかの10名から「相続分の譲渡」をとりつけたのか,詳しくはわかりません。対価の支払いがあったのかもしれません。ただ,この事案は関東近県の農村地域での相続事案でして,他の全体状況からしましても,おそらくは「家を継ぐのは私だ」という考えがCさんにあって,そのあたりから他の相続人を説き伏せたのかなと想像されました。

5 「相続分の譲渡」は,遺産分割をめぐるトラブルから早期に離脱したいとか,対価をもらうことで早期に実入りを得たいとかいった場合に,用いられる制度だといわれております。しかし,私の扱った事案のように,家父長的,家督相続的な考え方がなお色濃く残る地方において,「相続はすべて長男に」といったような相続を実現するための手法として,用いられる余地のある制度でもあるといえます。

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