弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

見知らぬ兄弟

2015年07月01日 相続

(設例)

Xさんの家庭は、Xさんが中学生のころに両親が離婚をし、それ以降、Xさんは、母親と、Xさんの弟A、Bと一緒に暮らしていました。

Xさんが30歳のころ、弟のBが交通事故にあい、後遺障害が残り、会話は正常にできるものの、身体的な障害が大きく、寝たきりの生活を余儀なくされました。

弟Bは、結婚をしておらず、子供もいないため、XさんとXさんの母親がBの面倒をみてきました。

もっとも、Xさんが40歳のころ、母親が亡くなり、その後は、Xさんのみが弟Bの面倒をみてきました。Xさんの弟Aさんも、Bのために、可能な限り金銭的な援助を行ってきました。

Xさんが60歳になったころ、弟Bが亡くなりました。弟Bの相続財産として、預金1000万円が残っていました。

Xさんが父親の戸籍をとったところ、父親は5年前に死亡していたことが判明しました。

弟Aは、Xさんが、弟Bの面倒を長年見てきたため、Bの財産は、全てXが引き継ぐべきだと考えて、家庭裁判所に行き相続放棄の手続きをし、受理されました。

Xさんが、銀行に行き、B名義の預金を引き出そうとしたところ、Xさんの母と父が離婚後、父は再婚し、Yという子が存在しているため、預金全額の引き出しはできないという回答を受けました。

父母の離婚後、Xらは、父と連絡をとったことはなく、Yとの面識は一切ありませんでした。

Xが、Yに連絡をしたところ、Yからの回答はYの相続分を引き渡して欲しいというものでした。



1 相続人の範囲

  相続人の範囲は、配偶者(民法第890条)及び子供(民法第887条)です。

  子供がいない場合には親(直系尊属 民法889条1項1号)、親もいない場合には兄弟姉妹(民法第889条1項2号)が相続人になるとされています。

Bには配偶者及び子供は存在せず、両親も死亡しているため、兄弟姉妹が相続人になります。

そして、母親が異なっても、父という片親が共通するため、Bとの関係ではYも兄弟になり、相続人になります。

相続時まで、BとYとの間に一度も面識がなく、存在すら知らなかった場合でも、兄弟であり、相続人であることには変わりはありません。



2 相続分について

  相続分については、兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は相等しいものとする(民法第900条4号本文)のが原則です。

  ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とするとされています(民法第900条4号ただし書)。

  そのため、本来の相続分であれば、X5分の2、A5分の2、Y5分の1になるはずでした。

  もっとも、Aが相続の放棄(民法第939条)をしてしまったため、Xが3分の2、Yが3分の1になりました。

 

3 相続放棄の撤回は可能か

  Aとしては、Bの相続財産を全てXに相続させるため、相続を放棄したにもかかわらず、結果的にはYの相続分を増やす結果になりました。

  この場合、Aとしては相続放棄を撤回したいところですが、相続の放棄は撤回することができません(民法第919条第1項)。

  もっとも、相続の放棄につき詐欺や脅迫等の取消事由がある場合には、相続の放棄の取消が認められます(民法第919条第2項)が、本件のAの相続の放棄に至った理由では、認められることは困難と考えられます。



4 どうすればよかったのか

  Aさんとしては、Aさんの相続分を放棄するのではなく、Xさんに相続分の譲渡を行うことで、Xの相続分は5分の4になり、Yの相続分は5分の1のままでした。また、その後、Bの面倒を長年見てきたXとしてはBさんの相続財産との関係で寄与分の主張をYに対して行うことも考えられます。

他方で、Bさんの財産を、Xさんに全て相続させる遺言をBさんが作成することで事前に紛争を予防することもできました。全ての相続財産を特定人に相続させる遺言を作成しても、遺留分の問題があると指摘されることが多いですが、相続人のうち兄弟姉妹には遺留分が認められない(民法第1028条)ため、Bさんの全ての相続財産をXさんに相続させることが可能です。

お世話になっている方がいる場合、事前に法律相談をし、相続人の調査を含め、遺言の作成を検討してみてはいかがでしょうか。

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