弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

確定判例も動く-相続不動産からの賃料収入の帰属など

2014年09月01日 相続

 裁判上の諸制度の解釈も,それまで裁判所での調停などでの運用や税理士などの税務の実状で一定の結論で運用されている場合,之と違う大きな判例の変更があったのにこれが反映されないまま紛争解決の議論が進んでしまい,後になって色々と問題が生ずる場合が,時々あります。これは,依頼者の皆さんにとって大変不利益となりますし,弁護士にとっても弁護過誤が生ずることもありますから大変です。

 このような例として,相続財産に人に賃貸しているテナント物件がある場合に,相続発生時から,遺産分割(協議・調停・審判)が成立するまでタイムラグがあった場合の相続不動産から生ずる賃料収入(家賃・地代)について誰がどのように取得するかということについて,判例実務が大きく動いたことがあります。

 通常のイメージだと,相続不動産から生ずる賃料収入は最終的に遺産分割でその相続財産を取得したものが取得することになると考える場合が多いと思いますし,実際に,当事者間の協議や調停ではそのように家賃収入も含めて全員で合意する場合が多いので問題は顕在化しません。

 しかし,この点について明確な合意がなかった場合,あるいは,他の点で合意が得られず,家事審判で遺産の一定の割合での分割が決まったような場合では,全く別な扱いとなるとする最高裁判例が平成17年9月8日(金融・商事判例1235号39頁)に出ています。それによると,

 相続財産である不動産とその不動産を賃貸したことによる賃料収入(これを法律用語で法定果実と言います。)については,遺産には属さず,遺産とは別個の債権となり,これは法律上当然に,法定相続人間で法定相続分割合に応じて分割される,とされたのです。

 これは,例えば,ある不動産について全部を一人の相続人が相続するという分割内容となったとしても,その不動産の賃料収入は全相続人の法定相続分の分割債権となるから別途清算しないとならないことを意味します。これは,不動産を折角それぞれの相続人がいくつかずつ相続したことで解決出来ていた場合も同じになり,各自が自分が相続した不動産の賃料収入をそのまま取得出来るのでなく,全不動産からの収入を全体の相続分で均等に分け直さないとならないことを意味します。

 通常の場合は,これは大した問題とならないかもしれませんが,かなり大規模なビルなどの相続の場合,賃料収入が場合によっては億単位となる場合があって,かなり大きな問題となります。

 判例の事実関係の概要はこうです。

  被相続人Xが亡くなり,その後妻と前妻の子らとの間に相続が発生しました。

  遺産には、複数の不動産があり、相続人らは、各不動産から生ずる賃料、管理費等について、遺産分割により本件各不動産の帰属が確定した時点で清算することとし、それまでの期間に支払われる賃料等を別途口座を作って管理してきました。

 裁判所は、各不動産につき遺産分割をする旨の本件遺産分割決定(審判)をし、これにより本件各不動産の帰属が確定しましたが,その後,管理口座の残金約2億円の分配をめぐって紛争が生じたのです。

 1・2審では,「遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によつて特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができるから、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属するものとして、本件口座の残金を分配すべきである」と判示しました。

 ところが,本件の最高裁判決は、共同相続財産である賃貸不動産から生ずる賃料債権は、遺産とは別個の財産であって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的 に取得した賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない、としたのです。

 この点については,様々な学説・判例がありましたが実務や税務上では本件の1、2審が採用した見解を取るものもあり,判断の統一が求められていました。

  この判例は,民法の規定および最高裁の判例に照らせば、遺産分割前の時点において、遺産から生じた果実は、相続開始によって遺産共有となった財産を使用管理して収取されるものとなることから、遺産とは別個の、共同相続人の共有財産であると解するのが相当である。そして、遺産共有の状態にある賃貸不動産から生じた賃料債権について、遺産とは別個の財産として、各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として取得したものとする以上、その帰属は確定したものであって、遺産分割の効力を受けないものと解するのが相当である,という理屈からの結論です。

  これは,それなりの理論的帰結ではありますが,審判などが確定するまで,それぞれの不動産を取得することになる各相続人がそれぞれ賃料等を収受して管理していた場合に,その不動産の取得を認められても,それまでに収受した賃料などを改めて法定相続分で分けなければならないことになって,また新たな紛争が生じてしまうことが避けられないということですので,場合によっては大変な不都合・混乱が生じかねないとも言えます。

 ですから,そのような事態を避けるためには,審判移行前あるいはこれとは別途にテナント収入について全員で合意をしておく必要があることになります。

 

 その他世間の常識的判断と法律実務あるいは裁判実務が食い違うところは,生命保険金と特別受益の関係などにも生じています(従来の通説判例では,生命保険金は遺産ではないが,原則として,それを取得した相続人にとっては「特別受益」となって,その分を受け戻した全体について相続分を計算する必要がある,と解されていました。)。

 ところが,平成16年10月29日の最高裁決定では,原則例外がひっくり返って,原則として,生命保険金は,特別受益とならず,遺産分割に当たってこれを持ち戻すなどの計算をする必要はない,とされたのです。

 「被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に 係る財産には当たらない」とし,ただ,例外として,「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生 活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。」とされ,従来の見解が大きく変更されたのです。

 このように,従来確定的な結論と思われて来ていた法律上の争点と言えども,時代により,状況により,大いに変動し得る,場合によっては正反対の結論にもなり得る,ということは十分注意する必要があります。これは,結論を決めつけて諦める必要はないということにもなりますが,我々弁護士にも自戒を込めて初心に帰った議論をする必要性を訴えるものと言えましょう。

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