弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

行方不明者の財産を相続するには?

2013年03月01日 相続

A子さんは、20年前、B男さんと結婚しました。以来、江東区の自宅に住んでいます。B男さんとの間に子供はいません。ところで、B男さんは、10年前に「パチンコに行く。」と言って家を出たきり、行方不明です。A子さんは捜索願を出すなどして必死にB男さんの行方を捜しましたが、結局見つかりませんでした。江東区の自宅の土地建物は、B男さん名義です。A子さんは、諸事情から、この土地建物を売却したいと考えているのですが、そのためにはB男さんの財産を相続して自分の名義にする必要があります。でも、B男さんが亡くなったという証拠もありません。A子さんはB男さんの財産を相続できるのでしょうか。

1 失踪宣告

相続は死亡によって開始します。そうすると、B男さんのように生死不明者の財産については、相続ができないようにも思えます。しかし、これでは近親者が困ってしまいます。そこで、法は、不在者の生死不明が一定期間継続した場合に、当該不在者を死亡したものとみなすこととする制度を用意しています。これが失踪宣告です。したがって、B男さんについて失踪宣告があると、B男さんは死亡したものとして扱われ、A子さんはB男さんの財産を相続することができるようになります。

2 普通失踪と特別失踪

失踪宣告を出してもらうためには、不在者の生死不明が一定期間継続することが必要なことは前述のとおりですが、これには、普通失踪と特別失踪があります。

普通失踪は、生死不明が7年以上継続している場合です。

特別失踪は、戦争、事故、天災などの危難によって生死不明となり、危難終了後も生死不明が1年以上継続している場合です。

B男さんの場合、「パチンコに行く。」と言って家を出たきり行方不明となっていますので、特別失踪は問題とならず、普通失踪が問題となります。B男さんは10年前に行方不明となっており、生死不明の状態が7年以上継続していますので、A子さんは普通失踪の手続を進めることにしました。

3 失踪宣告の手続

(1)失踪宣告は、配偶者、法定相続人、親権者、不在者の財産管理人などの利害関係人が、家庭裁判所に申し立てて行います。したがって、A子さんは失踪宣告の申立てを行うことができます。

(2)どこの家庭裁判所に申し立てるのかというと、不在者の住従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。B男さんは江東区の自宅から出て行ったきりとなっています。江東区を管轄しているのは霞ヶ関にある東京家庭裁判所ですので、A子さんは東京家庭裁判所に申し立てることになります。

(3)申立てにあたっては、一定の手数料を収めるほか、不在者の失踪を証明する資料などを添付することが必要です。不在者の失踪を証明する資料には、戸籍の附票、捜索願をしたことの証明、不在者の手紙などが該当します。A子さんは、B男さんの捜索願を出していましたので、警察で捜索願をしたことの証明書を出してもらい、これを添付しました。

(4)家庭裁判所に申し立てると、多くの場合、家庭裁判所調査官による調査が行われます。A子さんに対しても家庭裁判所調査官から連絡があり、B男さんが失踪した時の状況などを聴かれたので、A子さんは記憶する限りの状況を話しました。

(5)その後、裁判所は期間を定めて(普通失踪の場合は3か月以上、特別失踪の場合は1か月以上の期間)、不在者は生存の届出をするように、不在者の生存を知っている人はその届出をするように裁判所の掲示板や官報で催告をします。その期間内に届出などがなかった場合、失踪宣告が出されます。B男さんについても、期間を定めて催告がされましたが、その期間内に届出はされず、失踪宣告が出されました。

(6)失踪宣告が出されてこれが確定した場合、申立人は、確定の日から10日以内に、不在者の本籍地または申立人の住所地の役場に失踪届を出さなくてはなりません。この際、審判書謄本及び確定証明書を添付する必要があります。A子さんは、東京家庭裁判所に申請して確定証明書を出してもらい、これと審判書謄本(これは裁判所が送ってきます。)を失踪届に添付して、江東区役所に提出しました。

 4 失踪宣告の効果

普通失踪の場合、不在者は、生死不明となってから7年経過した時点で死亡したものとみなされます。

特別失踪の場合、危難終了時点で死亡したものとみなされます。普通失踪では7年経過時点で死亡したものとみなされるのと扱いが異なりますが、これは、危難によって死亡したとみなされるのに、危難が去ってから一年後に死亡したとみなされるのはおかしいからです。

B男さんは普通失踪ですので、行方不明となってから7年経過時点で死亡したものとみなされます。その結果、この時点で、B男さんの相続が開始することになります。B男さんの相続人はA子さんだけでしたので、A子さんは晴れて自宅土地建物を相続することができました。

 5 失踪宣告の取消し

   失踪宣告が出されても、本人が生きていたことが明らかになった場合などには、失踪宣告は取り消されます。この場合、本人は死亡していなかったことになるわけですから、相続も発生していないことになり、相続した財産を本人に返還する必要が出てきます。

   もっとも、本人が生存しているとは知らずに財産を消費してしまった場合には、返還する必要はありません。

   

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