弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

ストックオプションの相続

2012年12月01日 相続

  「うちは夫婦も子どもも親戚も、みんな仲良しだから、家庭法律相談なんてする必要がない」、「弁護士への相談は、困ったことが起こってから」と思っていらっしゃる方、もしかしたら、知らない間にもったいないことをしているかもしれません。今回は、ストックオプションの相続を題材に、親戚間でもめていなくても、法律相談が大切であるケースを紹介します。

かつて高度経済成長を支えたビジネスマンであった太郎さんが、天寿を全うされたとします。どうやら、家族のためにストックオプションを残しておいたようです。しかし、相続人である花子さん(太郎さんの妻)と一郎さん(太郎さんの息子)からすると、「ストックオプションとは何?」というところからスタートになってしまいます。

ストックオプションとしての新株予約権とは、簡単に言えば、ある決まった金額(行使金額)を払い込むことで、会社の株式を取得できるという権利です。つまり、行使金額よりも株価が高い時に権利を行使すれば、行使金額以上に価値のある株式をもらえます。すなわち、株価が行使金額より高くなるまで待ち続ければ、確実に儲かることができるという権利です。ストックオプションとしての新株予約権は、近年、日本においても数多く発行されています。退職金代わりに発行されることも多く、その価値は、数千万円程度になることもあり、重要な相続財産となり得ます。

そして、法律上、ストックオプションとしての新株予約権は、相続が認められています。ここまで聞いた花子さんは、「ああ安心した。それなら息子との仲は悪くないから、あとは法定相続分に従うなりして分ければいいや・・・。」と油断してしまうかもしれませんが、それは危険です。

その理由は、一般的に新株予約権自体の相続は認められるとしても、新株予約権の具体的内容を定める新株予約権発行要項や会社と太郎さんとの間の約束である新株予約権割当契約書において、相続についての制限や条件が定められていることが、実務上多いからです。

例えば、(1)新株予約権割当契約書において、「太郎さんが死亡した場合には、太郎さんは、ストックオプションとしての新株予約権を放棄する。」という放棄条項が定められていることがあります。また、死亡時の放棄条項が定められていない場合にも、(2)「太郎さんが死亡した場合には、6か月以内に、ストックオプションとしての新株予約権を承継する者を1人に限定して、遺産分割協議書を携えて、会社に連絡しなければ、権利の行使を認めない。」という相続人による権利行使条項が定められていることも見受けられます。権利の承継者を1人に限定するのは、株を渡す側である会社の管理の便宜のためです。つまり、相続人全員による行使を認めてしまうと、相続人が多数いる場合、会社にとって、これまでは太郎さん一人を権利行使者として考えていれば良かったところ、今後は多人数の相続人にバラバラに権利行使されてしまい、管理が大変だ、ということで、予め新株予約権割当契約書で権利の承継者を限定するように合意しておくことも多いのです。

上記(1)の場合、太郎さんは、生前の元気な内に弁護士に相談しなかったばかりに、たとえ数千万円程度の価値がある新株予約権を有していたとしても放棄して失うことになり、花子さんと一郎さんはストックオプションを行使できません。これはいかにももったいない話です。また、上記(2)の場合、花子さんは、「一郎とは仲が良いからその内話し合えばいいや・・・」と漫然としている内に相続開始から6か月が過ぎ、知らぬ間に権利行使の機会を失うことにもなりかねません。そして、これを原因として、「どうしてお母さんはボーッとしていたんだ!」と一郎さんが怒り、花子さんと一郎さんの仲も悪くなってしまいかねません。自分の財産について「借金のようなマイナスの財産ではなく、財産的価値のあるプラスの財産だから何もしなくていいや」と放っておいた太郎さんも無責任といえるでしょう。

一方で、もしも、太郎さん、花子さん、一郎さんが、少しの手間を惜しまず、相続開始前に太郎さんの財産について専門家のアドバイスを受けていれば、もともと仲の良い親戚関係であればなおさら、比較的簡単に相続に向けた手続を確認することができ、太郎さんもより尊敬されたことでしょう。

このように、何ももめ事が起こっていなくとも、むしろ、親戚関係が比較的良好である今だからこそ、専門家のアドバイスを活かして、最も効率的な相続をするための努力をすべきともいえるでしょう。

自分の財産には自分で責任を持つ。「あげっぱなし」は必ずしも喜ばれない。金融商品が複雑化し、相続財産が複雑化している現代は、そのような時代になっています。親戚間で何ももめていないから大丈夫・・・と油断することなく、家庭法律相談センターの弁護士その他の専門家に相談する機会を御活用ください。

以  上

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