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相続放棄について-その3

2012年09月01日 相続

   相続放棄について-その3

 亡くなられた方(被相続人)の遺産が借金のみであったり、殆ど借金であるようなケースについて、これまで本コラムで述べたものは、「相続の放棄~負の遺産~」、「借金の相続と相続放棄」があります。

 今回は、このようなケースについての相続放棄の手続きについて、さらに述べます。

1 相続放棄の期間についてのまとめ

3ヶ月の起算点

 上記の各コラムに記載があったとおり、相続放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に放棄しなければならないと規定されています(民法915条1項)。この「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、判例で、被相続人死亡の事実を知った時に加えて、それによって具体的に自分が相続人となったことを知った時であるとされています。

 そして、いかなる事由をもって「具体的に」…「知った」とされるかについて、判例は、死亡という事実を知った場合でも、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じており、かつ、相続人においてそのように信ずるについて相当な理由があると認められる場合には、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識したとき又は通常これを認識し得べかりし時としています。

2 相続放棄がなされると

相続放棄がなされると、相続放棄の効果として「相続放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみな」されます。(民法939条)したがって、これにより当該放棄をした者は負の遺産を背負い込む必要がなくなるわけです。

3 相続放棄の後について

(1) ところが、ここで注意が必要です。

たとえば、父に子2人(兄・弟)が二人いる場合、父死亡による相続が開始すると、子2人が相続人となります(民法887条1項、同890条)。(なお、亡父に妻がいれば妻も相続人となります。)

   上記コラムの記載のように、被相続人である父の遺産が借金のみもしくは殆ど借金であるような場合、借金の返済を免れるためには、子らは各々相続放棄の手続きをとるべきでしょう。これにより、2人は最初から相続人でなかったものとみなされます。

(2) 相続人たる子ら全員が相続放棄をすれば、子らは借金の支払を免れますが、子らが相続放棄したことによって最初から相続人ではないことになってしまい、亡父の借金は他の者に相続されることがあります。すなわち、亡父の相続人は、死亡した者に子がない場合と同様となり、亡父の父母が第2順位の相続人となります(民法889条1項)。亡父の父母が既に死亡していた場合は、亡父の兄弟姉妹が健在である場合、父の兄弟姉妹は第3順位の相続人となります。仮に、亡父の兄弟姉妹が既に死亡していたとしても、亡父の兄弟姉妹らに子がいる場合は、その子が、亡父の相続人となります(民法889条2項、同887条2項)。(亡父に妻がいるかいないかで相続割合は異なります。)

(3) つまり、亡父の子らが相続放棄の手続きをした場合、亡父の父母もしくは兄弟姉妹(あるいはその子)は、別途相続放棄の手続きをしなければ、亡父の借金を背負うことになってしまうのです。これを立場を変えて考えれば、自分の子もしくは自分の兄弟姉妹が借金のみを残して死亡した場合に、それらの者の家族が相続放棄をしたとしても、あらためて自ら相続放棄をしなければ、第2順位もしくは第3順位の相続人として借金を背負うことになってしまうことがあるのです。

このように、ある相続人が負の遺産の相続を避けるために相続放棄をしたからといって、その被相続人(本件の例では亡父)の一定範囲の親族は直ちに安心だとはいえず、逆に借金を相続することとなってしまうかも知れませんのでご注意ください。

(4) ただ、前述のとおり、相続放棄の期間についての起算点は、被相続人の死亡の事実を知った時に加えて、それによって具体的に自分が相続人となったことを知った時(詳しくは冒頭に掲げたコラムを参照してください。)とされますから、先順位の相続人が相続放棄をした時に、次順位の相続人は「自己のために相続の開始があったこと」を知ることになるでしょうから、それから3ヶ月以内に相続放棄の手続きをすればよいことでしょう。

   もちろん先順位の相続人による相続放棄時には、当該放棄の事実を知らず、遅れて具体的に自分が相続人となったことを知ることも考えられますから、その場合にはその「知った時」が起算点となるでしょう。

4 相続放棄の手続き

 (1) 管轄

「相続は、死亡によって開始」します(民法882条)。そして、「相続は、被相続人の住所において開始」します(民法883条)。これを前提に、「相続の承認及び放棄に関する審判事件は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属」します(家事事件手続法201条1項)。つまり、被相続人でが死亡したときの最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、相続放棄の申述(手続き)をすることになります。先の例でみますと、仮に被相続人たる亡父の最後の住所地が東京都23区内であった場合、東京家庭裁判所(本庁)が管轄裁判所となります。

各地の詳しい管轄裁判所については

 http://www.courts.go.jp/saiban/kankatu/index.html

をご参照ください。

(2) 書式(申述書)と必要書類

 原則的には、必要書類として、申述書の他に申述人(相続放棄をする者)の戸籍謄本及び被相続人の除籍謄本、住民票の除票を添付する必要があります。これに加え、被相続人と申述人の関係の相違(配偶者なのか子なのかの相違や祖父母・兄弟姉妹といった相続順位の相違)によって追加して必要とされる書類があります。

   詳しくは

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/syosiki01/index.html

をご参照ください。

 (3) 申述(手続き)時期

裁判所に対し、第1順位の相続人が相続放棄の申述するのは、相続の開始があって、それを知った時以降可能となりますが、第2順位の相続人は第1順位の相続人が相続放棄の申述をして、それが受理(審判)された後、第3順位の相続人は第2順位の相続人が相続放棄の申述をして、それが受理された後でなければ自らの相続放棄の申述をすることができません。なぜなら、前述のとおり、先順位の相続人による相続放棄の効果が発生しない限りは、あくまで相続人は先順位の相続人であって、この者が「初めから相続人とならなかったものとみなされ」たときに初めて後順位の相続人が相続人たる地位を取得することになるからです。

したがって、先の例で言いますと、たとえ親族間において、亡父の遺産が負の遺産のみであることを確認できていて、2人の子による相続放棄を待って、いずれ亡父の父母ないし兄弟姉妹が相続人となるのだからといって、2人の子の申述とともにいっぺんにまとめて裁判所に対し相続放棄の申述書を提出しても、基本的に裁判所は受け付けてくれません。

なお、2人の子による相続放棄の申述が受理されたからといって、裁判所から後順位の相続人たる亡父の父母ないし兄弟姉妹に対し、当該受理された旨の通知等はされません。

このような理由から、親族間で被相続人の負の遺産につき確認が取れていない場合に、先順位の相続人による相続放棄の後、これを知らない後順位の相続人が、債権者からの突然の請求を受けて初めて自らが相続人となったことを知る場合があり得るのです。(相続放棄の考慮期間の3ヶ月の起算日について本稿1、2(4)及び引用の前のコラムを参照)

親族間で負の遺産につき確認が取れている場合も勿論ですが、確認が取れていない場合は特に、それぞれの手続きをスムーズに進めるため、先順位の相続人は、相続放棄の申述が受理された旨を、後順位の相続人に対して速やかに知らせることが望まれます。

以上

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