弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

お義母さんの相談なのですが・・

2012年07月01日 相続

時に、法律相談には、「代理」で相談に来られる方がいます。今回はそんな代理での相談にまつわる話です。

以前に、このコラムでも触れられたことのあるテーマですが、怪しげな未公開株関係の相談は止まるところを知りません。家庭法律相談センターでは、それ自体を相談のテーマとして来られる方は希ですが、例えば、将来の相続の相談で・・と言う話をよくよく聞いてみると、お義母さんが「証券」を持っているということなどがあります。更によくよく聞いてみると極めて怪しい。流行のキーワードが目白押し、環境、エコ、レアメタル、中国、太陽光、節電、・・・。要するに、こうした事業をしているAやBやCなどの会社があるので投資をどうかという話に乗ってしまったような話なのです。こうした投資勧誘の手口は巧妙さを増しています。弁護士が入り相手を探しても、容易には見つからない、見つかっても回収が容易でない仕組みを作っています。

さて、こうしたA会社等の社債を3000万円ほど購入してしまったXさんが今回の相談者です。Xさんは現在87歳。お元気な方ですが、定期的に病院に通っており、遠出は困難です。すぐには相談に来ることができない様子でした。そこで、Xさんの息子さんの奥様、つまり義理の娘さんのZさんが「代理」で相談に来られました。Zさんはキャリアウーマンで、Zさんも忙しい中、職場を抜けて相談時間を捻出してきています。Xさんは、郊外の戸建てで一人で生活しています。将来の相続のことを相談しようと、久々に夫とともに夫の実家であるXさんの家を訪ねた際に様子がおかしかったとのことなのです。義母は、元気は元気なのですが、大量にパンフレットを持っている。どうも怪しい。何千万も使っている様子です。

実は、時として悩ましいのが、こうした、お義母さんの相談なのですが、として息子さん、娘さんがご相談に来られる例なのです。もちろん、ご高齢の本人が相談場所に出向いて相談を受けることができない場合もあるでしょう。しかし、ご本人の相談と、「代理」で来られた方の相談が、必ずしも「一致」していないこともあるのです。

 

Zさんから話を聞いてみると、Xさんは明らかな詐欺事件に巻き込まれている様子です。しかし、当の高齢のXさんは騙されたと思っていないそうなのです。それが理解力の問題であれば、後見などの制度を使って対処することも考えなければなりません。相続が背景にあるとすれば、今後の対応のためにも、尚更、丁寧に手続きを踏む必要があるでしょう。しかし、話を聞く限り、弁護士から聞いたとして、Zさんが伝聞での説明をしたところで、当のXさんが納得するようにも思えません。Zさんは、このままではXさんは全財産を失ってしまうと急いでいます。

こうした詐欺事件では、高齢者が全てを失うまでたかられてしまうケースも珍しくありません。何とかして下さい・・とZさんは懇願します。しかし、弁護士としては、この段階で、ご本人から事情を聴かず、「代理」のZさんの言葉だけで動くことは困難です。なるべく早い日程を調整し、Xさんご本人を同行して再度事務所に来てもらうことになりました。そこで改めてXさんから聞いてみると、事実は確かにZさんの言うとおりでした。義娘の前で、騙されているとの弁護士の説明にも納得し、よくある流行の手口であると説明すると驚きながら聞き入り、「怖いことです・・」「大変なことです・・」と何度もつぶやくように応えます。「では、なんとか取り返してください」として、最後はXさんからの依頼を受ける方向になりました。しかし、いざ委任状や契約書を作る段階になると、Xさん、「印鑑を忘れたので、また改めさせてください」とのことです。結局その日は、正式に依頼を受けることなく、後日、印鑑を持って再度手続きを行うことになりました。それくらいなら自分でやれるということで、今度はZさん抜きで、Xさんだけで来てもらう事になりました。

さて、Xさん一人で来てもらって受任の手続きをと準備をしていたところ、訪ねてきたXさんは、「やっぱり依頼は取り消して欲しい」とのことです。表情も言葉も真剣です。この間、詐欺グループが接触してきた様子もありません。よくよく聞いてみると、Xさん、最初から騙されていることはよく分かっていたとのことなのです。

夫に先立たれたXさんは、もう10年以上一人で暮らしています。息子夫婦もほとんど実家には戻ってきません。友人も次々他界し、毎日ほとんど一人で生活しています。朝起きてテレビを付けて、食事をして眠るというリズムです。そんな生活の中で、最初は電話で、その後、わざわざ自宅まで来て、熱心に話し相手になってくれたのが詐欺グループの青年なのだということです。手口からすれば、先ず間違いなく流行の詐欺の一つです。半年後から高利の配当が唱われており、満期になると元本の返還も約束されています。しかし、この手の話で約束通り戻ってくることはあり得ません。配当の頃には、まして返還期限まで待っていたら、A会社も青年も跡形もなく消えているでしょう。そもそも当初から形すら実在しない可能性もあります。何より、Xさんご本人も、多分戻ってはこないだろうな、とそう思っているのです・・。

こうして「騙された」お金が次の詐欺の資金になり、その後の被害者を生んでいく現実もあります。法改正も繰り返されている分野ですが、今一つ実効性に欠けています。法律ができれば、その網の目をくぐるように新たな手口が考案され、まさにイタチゴッコ。手口も巧妙になる一方です。警察も容易には取り合ってくれません。

Xさんの場合には、将来の相続の話しを、として久しぶりに戻ってきた息子夫婦に、ふと「怪しい」パンフレットの一端が見つかってしまったようなのです。そして、Zさんがあわてて相談に駆け込んだのです。Xさんとしても、騙されているかもしれないと思いながらも、配当や満期を全く信じることなく「投資」したのでは無いでしょう。しかし、Xさんとしては、久々に訪ねてきた息子夫婦から、相続、相続と言われ、自分の存在意義は何なのだろうかと、ふと寂しい気持ちになってしまったのかもしれません。

自分の財産ならば、自分の意思で思うように使いたいと、そんな気持ちになったのでしょうか。ただ、今更、何か買いたいものがあるでもなく、なんだか一生懸命話しかけてきた「詐欺グループ」に、「何か」を託してみたいと、ひょっとしたら、そんな気持ちになってしまったのかもしれません。悩ましい事案です。弁護士としてはどう対応すべきなのでしょう?Xさんを説得する?Xさんの言うとおり、これ以上関わるのは止めるべき?Zさんが再度相談に来られたらどう話したら良いのでしょうか?

このような詐欺の手口は、仮にも何らかの美談や小話で済ませられない問題です。昨今は、世間でも注目されつつあり、時折ニュースの報道等もなされています。しかし、どれもほんの氷山の一角。日々、多くの高齢者が、このような詐欺でなけなしの財産、貴重な老後の資金を失っています。ただ一方で、今回の例では、依頼者の真意を思うと、単純ではない悩ましい問題でもあるのです。

なお、後日、本件の詐欺グループの一味は、同様の事件で逮捕されました。その捜査の過程で被害者の一人としてXさんの名前が浮上し、Xさんとその弁護士に警察から連絡が入ることになりました。Xさんの「被害」は、一部ではありますが、ようやく回復されつつあるとのことです。

※ 本稿は、複数の実際の相談事例を基にしたフィクションです。

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