弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

お布施(戒名料)について

2011年08月01日 相続

  1 家庭法律相談センターでは、離婚や相続に関するご相談を受けています。

それは身分関係の問題であることが多いのですが、身分関係の変動に伴う周辺の財産関係に関する法律問題が多々存在しています。離婚で言えば、財産分与とか慰謝料などの問題がありますが、相続関係でも、遺産の相続のみならず、葬儀を行えば、その葬祭料に絡んでの問題が生じますし、墓地の購入をすれば、購入契約や管理料をめぐる問題が生じます。

今回は、相続に関係する「お布施」について、その法律的な意味を少し考えたいと思います。

2 「お布施」は、仏教においていわゆる檀家が菩提寺に行う財産などを与える寄進などのことを言うそうで、それは財産に限らないようです。笑顔を他人に見せて他人に幸福感を与えるのも布施の一種であるという考えがあるそうです。そうすると、赤ちゃんの笑顔なんていうのは最高のお布施であることに相違ありません。

 ところで、我々が通常相続に絡んで想像するお布施は、被相続人が亡くなったときに、その葬儀や埋葬をする前提として、いわば死者の名前として「戒名」を付けていただき、そのときの代金あるいはお礼という姿が一般的ではないでしょうか。すなわち、戒名料と言われるものです。

  ただ、この「戒名」というのもそれ自体世間一般の認識は本来の意味と異なっているそうです。本来は「戒」という儀式を経た、いわゆる受戒したものに与えられる名前、つまり出家して仏門に入った証として与えられる、いわば「僧名」であって、亡くなったからといって与えられるもの又は生前の俗名に対抗する意味での死者の名前というものではないそうです。なお、宗派によっては、戒名とは表現せず、法名、法号というのが正規の名称となるようです。(Wikipedeiaより)

 しかしながら、現実社会では、(形式的にせよ)仏教徒である市民が亡くなった場合には、戒名をいただいて、葬儀が執り行われ、埋葬されるというのが、通常のようであり、この課程において、いわゆる戒名料のやり取りがなされることが通常のようです。(但し、いわゆる戒名料を徴収せずに戒名を与えるお寺もあるようです。)

3 この戒名料としてのお布施には、ハッキリしない部分が多く、一般市民にとっては、どうも釈然としないという意見が多いようです。

また、一部では、戒名が無いと埋葬が許されない場合とか、墓地を管理するお寺以外で戒名を付けた場合には埋葬を許さない場合などが、問題として存在するようです。あるいは、自殺された方について、自殺であることが分かる戒名をつけられ、これを訂正する戒名を付けて貰ったところ再度戒名料を請求されたというようなトラブルも報告されているようです。

このような場合には、そもそも「戒名料」というものの法的な性格が何であるのかが問われることになりましょう。

4 では、戒名料とはいったい何なのでしょうか?

  この点について、いわゆる戒名料の法的な性質をきちんと判断している裁判例は、筆者の不勉強故か発見できませんでした。

  考えられる構成は、戒名料という金銭の支払いと、戒名を付けるという行為あるいは戒名という名前そのもの(無形の情報)との間に、関連性(対価性)があると考えて、①売買などと同様に構成する考え方が先ずあるでしょう。

  他方、戒名を付ける・与えるという行為と、お金を支払う行為との間に関係が無いとなれば、お金を支払う法律関係は単なる寄付=②贈与契約として構成することが考えられるでしょう。

  無責任で申し訳ありませんが、いずれが正しいのか、即答は困難です。

5 しかし、この点について考えさせられる事件が昨年平成22年に起こりました。

  それは、とあるクレジットカード会社が、全国約600の寺院の協力を得て、そのカード保有者向けホームページ上にお布施の価格の目安という内容の記事(具体的な金額を情報として明示)を掲載したところ、一部の仏教界からの反発を受け、結局その情報を掲載から数ヶ月で削除してしまったという事件です。

  これは、そのような記事の公開が宗教介入かどうかという問題よりも、価格について目安といえども、戒名に経済的価値が認められるかどうかと言う意味で非常に興味があります。

  つまり、戒名に経済的な価格付け・値付けがなされるのであれば、それに関連して支払われる戒名料は、対価としての性格を有する方向(前出の①の考え方)で解釈されるからです。

  一方で、この情報が削除されたことは、逆に、相場がない、戒名料と戒名の間には法律的な関連性が存在しないという方向の解釈(前出の②の方向)に通じるかも知れません。

  Web上では、戒名料の金額を明記しているホームページも少なからず見られます。そのこと自体戒名料の「価格」が存在していることになりそうですが、各ページの戒名料の金額は必ずしもそれほど近接しておらず、そういう意味では「相場」というものが形成されているのかどうかは、若干怪しいところもありそうです。(なお、この価格のばらつきは、読経料や49日の法要に関する費用が含まれているのかどうかなど、単に戒名だけの代金ではない可能性もあります。)

6 この戒名料の法的性格の議論は、それが売買等類似の性格(前出の①の考え方)であれば双務・有償契約として契約当事者の保護にあつくなるという認識があると思います。

  例えば、支払った戒名料に相当する戒名がいただけなかった場合には、債務不履行により契約を解除して、支払った戒名料の返還を求めるということもあり得ると思われます。 

もちろん、贈与という構成(前出の②の考え方)を採用しても、錯誤(民法95条)を原因として返還を求める余地はありますが、一般的には、売買的な構成をした方が、寺院側になんらかの義務を負担させることになりますから、消費者サイド・市民サイドの保護にはあつくなるのではないかと思われます。

7 さらに消費者サイド・市民サイドの保護という観点から、消費者契約法の適用の有無も検討の余地があるでしょう。

同法では、不実告知による取消等消費者保護の規定が定められており、同法が適用されることにより、消費者・市民サイドにおいて法律上の有効な武器となると言われています。

ところで、この消費者契約法については、第2条で適用範囲としての定義条項が設けられています。

これによれば、適用を受ける当事者の一方は、個人であることが必要で、他方が「事業者」であることが要求されていますが、ここでの「事業」は、一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行とされており、それが双務・有償契約であることまで文面上では要求されていません。

従って、消費者契約法の適用を受ける「消費者契約」にいわゆる戒名料支払の合意も含まれてきそうです。そういう意味では、消費者契約法に関する限り、それが売買的か、贈与的かという既述の議論はあまり意味が無いということになります。

そうすると、今後は、この消費者契約法を利用した戒名料に関する判例も出現してくるかも知れません。

8 一方、この手のトラブルの予防は、やはり具体的な金銭の内容、戒名の性格をきちんと説明されるかどうかであろうと思います。

以下は私見に過ぎませんが、寺院の側があくまでも贈与としてのお布施としていわゆる戒名料を位置付けるのであれば、遺族からの支払額についての意見は一切言えないはずです。また、戒名を与えるということがどのような行為をするのかを事前にきちんと説明し、それと支払との関連が無いことを明示しておくべきでしょう。さらには、戒名の取得が埋葬の条件等となっているのであれば、そのような条件をきちんと明示しておく必要があると思います。

かつては檀家制度が行き渡っていたことから、このような面倒な問題は生じなかったのかも知れませんが、それも時代の流れというものでしょう。

以上

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