弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

借金の相続と相続放棄

2011年01月01日 相続

  相続放棄~相続開始時から3か月経過している場合でもあきらめないで

相続は,財産だけでなく借金も相続しますので,借金が財産より多いときは,相続しても借金だけが残ることになります。被相続人に,相続財産額以上の相続債務があり,相続するメリットがない場合には,その相続を回避する方法として,相続の放棄の制度があります。相続放棄をするにはその旨を被相続人の最後の住所を受け持つ家庭裁判所に申述する必要があります。しかし,相続放棄の申述には期間の制限があり,自己のために相続の開始があったことを知ったときから,3ヶ月以内にしなければなりません。そして,この期間は,原則として被相続人死亡したことと自己が相続人になったことを知った場合には,そこから起算されることになります。なお,相続人において法定の期間内に相続財産の有無ないし範囲が明確でないときは,その期間の延長を得て,その間に右の点を調査したうえ、相続の承認ないし放棄のいずれによるかを判断することもできます。また,負債を相続したくないときには、相続財産の限度で負債を支払って、残りがあればそれを相続する限定承認という制度もあります。ただし、あまり利用されておりません。

したがって、相続開始から3か月経過したのちに思わぬ債務があることが発見されたり、熟慮期間経過後に債務の支払いを請求されたりした場合には、相続人は,それらを相続して支払わなければならないことになります。しかし、それでは相続人に酷な結果になるので、起算点を遅らせて救済するような救済的な判決がだされることとなり、それらを受けて、最高裁は,死亡という事実を知った場合でも,被相続人に相続財産が全く存在しないと信じており,かつ,相続人においてそのように信ずるについて相当な理由があると認められる場合には,相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識したとき又は通常これを認識し得べかりし時から起算されるとしました。

また、この考え方の下に起算点についての以下のような具体的な事例に対する裁判例が出されています。

① 相続債務について調査を尽くしたにもかかわらず,債権者からの誤った回答により,債務が存在しないものと信じて限定承認又は放棄をすることなく熟慮期間が経過するなどした場合には,相続人において,遺産の構成につき錯誤に陥っているから,その錯誤が遺産内容の重要な部分に関するものであるときは,錯誤に陥っていることを認識した後改めて民法915条1項所定の期間内に,錯誤を理由とて単純承認の効果を否定して限定承認又は放棄の申述受理の申立てをすることができるとしています。

② 未成年者である相続人の法定代理人(親権者母)が,被相続人である離婚した元夫の住宅ローン債務に係る同人の保証委託契約上の債務を連帯保証していた事案について,ローンに係る住宅は被相続人の両親も生活し,住宅ローン債務  は離婚時の協議により被相続人又は被相続人の兄弟において処理することになっていたこと,被相続人死亡後の残債務は被相続人が加入していた団体生命保険によって完済されていると考えていたことなどの事情の下においては,債権者から主債務者の相続人に向けた照会文書を同法定代理人が受領するまで,同人が被相続人の債務があることなどについて十分な調査をしなかったことにはやむを得ない事情があったというべきであり,相続財産がないと考えていたことについて相当な理由があったものというべきであるから,上記照会文書の受領時から熟慮期間が進行するとしています。

③ 相続人において被相続人に積極財産があると認識していてもその財産的価値がほとんどなく,一方消極財産について全く存在しないと信じ,かつそのように信ずるにつき相当な理由がある場合には,相続人が消極財産の全部又は一部の存在を認識した時又はこれを認識し得べかりし時から起算するのが相当であるとされています。

④ 被相続人に積極財産があると認識していたものの,被相続人が一切の財産を他の相続人に相続させる旨の公正証書遺言を遺していること等の事情からすれば,抗告人が被相続人の死亡時において,自らが相続すべき財産はないと信じたことについて相当の理由があったものと認めることができ,また,相続債務についても,その存在を知らず,債務の存在を知り得るような日常生活にはなかったと推認されることなどから,別件訴訟の訴状を受け取るまで,抗告人が相続債務について存在を認識しなかったことについても相当な理由があるから,別件訴訟の訴状を受け取って相続人が相続債務の存在を認識した時から起算するのが相当であるとする。

これらの判例をみると,相続放棄は、相続財産(相続債務を含む)があることを知っているか知り得べき状況にあることが前提ですので,その前提条件を欠くときは,相続開始時から既に3か月経過している場合であっても相続放棄を認める傾向にあり,相続開始から3か月を経過している場合でも相続放棄ができる場合もありますので、簡単にあきらめないで,ご相談下さい。

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