弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

遺産20億円はどうなるか

2007年08月01日 相続

資産家の遺産20億円がどうなるか。

【事例 1】大木常太郎は資産家(遺産20億円)であり、生前から「長男に 全財産を譲る」と常々言っており、そのような内容の遺言書がありました。
 しかし、長男は、ほかの人にも分けたいと考えていますが、そのようなことはできるでしょうか。

   <話し合いで遺産を分けたいのですが?
          -遺言書の存在と遺産分割協議>

 
遺言書があればその遺言書にしたがって分割するのが本来ですが、全財産を譲られた相続人(設例では長男)がほかの人にも分けたほうがよいと考えるならば、全員の相続人と話し合って、遺言書とは異なる内容にしてもよいのです。
 相続人全員で協議し、話がつきさえすれば、当事者の協議が優先します。ただし、多数決で決することはできません。
 
したがって、長男としては、相続人全員で協議し、遺言書とは異なる内容の話がまとまれば、後日のトラブルを避けるために、協議内容を記した「遺産分割協議書」を作成しておくべきです。
 この協議書は、だれが相続したかを証明することにもなり、不動産などの名義変更や相続税の申告の際に必要になりますので、協議書に押す印鑑は、印鑑証明をうけた実印にする必要があります。


【事例 2】常太郎は20億円の財産を残しましたが、借金が30億円ありま す。 その借金のうち、2億円について、妻が連帯保証をしています。
 また、常太郎には、妻を受取人とした生命保険が掛けられており、3億円の保険金を妻は取得することができます。
 妻やほかの相続人はどのようにすればよいでしょ うか。

   <借金も相続しないといけないの?
          -相続による債務の承継>

 
相続はプラス財産だけが承継されるものではなく、マイナス財産である借 金も承継されることになります。
 民法896条は、相続の一般的効力につき、「相続人は、相続開始のときから、被相続人の財産に属したいっさいの権利義務を承継する」と規定しています。義務についても、相続により相続人に承継されるのです。
 借金のような金銭債務については、法定相続分により当然に分割承継されたものとするのが、現在の判例です。そうしますと、妻は、借金30億円の2分の1、つまり15億円の債務を承継することになります。

   <借金を相続しない方法はありますか?
          -相続放棄・限定承認の制度>

 
遺産より借金が多いことがわかった場合、「遺産もいらないが、借金も負 担したくない」という相続人の希望を満たすのが「相続放棄」の制度です。
 相続放棄をすると、その人は初めから相続人とならなかった効果が生じるからです(民法933条)。相続放棄をするためには、家庭裁判所に行って相続を放棄する旨の申述をする必要があります(民法938条)。
 
相続放棄には、これができる期間が定められ、自分のために相続が開始したことを知ったときから3カ月以内に行なわなければならないものと規定されています(民法915条)。
 
もっとも、この3カ月の起算日については、単に自分のために相続開始があることを知ったときというのではなく、相続人が通常、相続財産の全部または一部を知ったとき、または認識しうるべきときからである、というのが判例の考え方です。
 また、プラス財産とマイナス財産のどちらが多いかわからないような場合には、遺産の範囲で借金を返済すれば足りるという、「限定承認」の制度があります(民法922条)。
  限定承認も相続放棄と同様3カ月以内に、財産目録を作成して家庭裁判所にその旨の申述をしなくてはなりません。
 限定承認では、相続放棄と異なり、共同相続人がいる場合には、共同相続人全員で手続きを行わなくてはなりません(民法923条)。
 一方、通常の相続をすることを「単純承認」といいます。相続人が相続財産の一部または全部を処分したり、所定の期間内に限定承認、相続放棄の手続きをとらない場合には、単純承認をしたものとみなされます(民法921条)。

   <大木家の遺産はどうなる?>
 
設例では、遺産よりも借金のほうが多いので、相続放棄か、限定承認の手続きを選択することが通例と思います。
 そうしますと、相続人としては、まず、相続財産の一部または全部を処分するような行為をすると、単純承認をしたものとみなされますので、そのような行為をしないように注意する必要があります。

 次に、相続放棄と限定承認のいずれの手続きを選択するかです。
 設例では、妻が3億円の生命保険を受け取ることができますので、相続放棄をしてしまうと、生命保険の非課税規定、債務控除などの相続税法の規定が適用されなくなり、課税上において不利益になってしまうので、限定承認 の手続きを選択したほうが、妻にとっては有利になります。
 したがって、妻を含め同相続人全員で限定承認の手続きを行うことがよいでしょう。

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