弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

遺産分割の話

2007年01月01日 相続

 人が亡くなり相続が開始しますと、遺言があり、それに従って遺産が分けられた場合を除くと、多少でも遺産がある場合には、遺産分割をする必要なります。 
 
遺言があっても、全ての相続人間で合意のうえ、遺言とは異なる遺産分割をすることもできることになっています。
 
ここでは、きちんとした遺産分割処理をしておかなかったために起こった問題の例をいくつかあげてみます。

甲さんは、既に故人である曾祖父、祖父、父から引き継いできた貸地を管理していました
 ところが最近になって借地人が亡くなり、借地人の相続人は、遠隔地に住んでいて管理ができないとして、古い家の取壊費用を甲さんが負担することを条件に貸地を返還してきました。
 
そこで、貸地にあった古家を取り壊して利用を考えていたところ、隣地の人から高額な代金による買取りの申し出を受けました。売買のため、土地の登記を調べたところ、曾祖父の名義になっています。
 甲さんは、この土地は代々相続されてきたのだから当然自分の所有だと思っていましたので、どうしたら自分の名義にできるか弁護士に相談したところ、曾祖父の現在の相続人全員の了解がとれないと甲さんの名義にはならないと言われました。
 そこで、古い戸籍を追っていったところ、現在の相続人は数十人になってしまい、しかも、知っている人はほんの僅かでした。
 
甲さんは、やむなく、皆の了解を取りつけて自分名義に登記をする方法を諦め、弁護士に依頼して、相続人全員を相手にして、時効取得を理由として土地が自分のものであることを認めてもらう訴訟を起こしました。
  勿論、訴訟を起こす前には、丁重なお断りの手紙が出したのですが、親戚を相手に裁判を起こしたという反発を受け、結果的には、主張を認めてくれなかった一部の人との間では、お金を払って和解することになりました。その間、甲さんは精神的に随分辛い思いをすることになってしまいました。

 乙さんは、お母さんが先に亡くなり、妻とともに老齢のお父さんの面倒をみていましたが、そのうちにお父さんも亡くなりました。

  お父さんの遺産としては、自宅の土地・建物がありましたが、妹たちは、自分たちはお嫁に出ているし、家も大きくて古いので修繕費も負担できないとして、家のことはお兄さんに任せるのでよろしく頼むと言われました。
  そこで乙さんは、当然自分が相続できたものと考えて、その後多額の費用をかけて家を修繕したりして維持してきましたが、登記は亡くなったお父さんの名義のままでした。

    最近になって、一人息子が結婚するので、家を建て替えるとともに土地の名義 も変更しようと考えて、妹たちに話したところ、妹たちは、自分たちは相続権を放棄したわけでは無い。自分たちにも、相続分に応じた土地を分けてくれるか、それに相当する金銭を支払って欲しいと言われました。
 その土地は、近くに鉄道の駅ができたので、お父さんの亡くなったときからは大きく価値が上がっていたのでした。

 丙さんのお父さんが亡くなりました。
 遺産は、長男の丙さんがお父さんと住んでいた土地・建物の他には銀行預金だけでした。
 丙さんは、土地・建物は自分が相続したいと考え伯父さんに相談したところ、遺産分割協議書を作って実印で判をついて貰い、印鑑証明を貰って登記すれば良いとアドバイスされました。
 そこで、兄弟が集まった時に話し合い、自宅の土地・建物は丙さんが相続し、銀行預金・株等は他の兄弟が相続し、分割協議書は後日作成して調印することになりました。
  ところが、遠隔地に住んでいた弟の一人は、なかなか実家まで出掛けられない、郵送してくれれば判をつくからというので、丙さんは下書きのつもりで鉛筆で弟の名前を書いた分割協議書を作って送り、署名・押印して印鑑証明1通とともに送ってくれるように頼みました。
 しかし弟が送り返してきた協議書は、署名欄は鉛筆の下書きのままで実印と思われる判がついてあり、印鑑証明も送られてきませんでした。早速弟に連絡したところ、弟からは、印鑑証明をとって送るのを忘れてしまったので、すぐに送るが、署名部分は丙さんが代筆しておいてくれと言われました。
 そこで、丙さんは弟の署名を代筆したうえで、お父さんが亡くなった直後に葬儀のために下ろしておいたお金の残りに自分のお金を足して、話し合いで決められた金額を送りました
  しかし、弟からは一向に印鑑証明が送られてきませんでした。そうこうするうちに、丙さんも仕事が忙しく、つい、印鑑証明のことを忘れたまま20年以上経過するうちに、弟はガンで亡くなってしまいました。

   その後丙さんは高齢になり、老人ホームに入居する費用のために家を売却しようとしたところ、土地・建物は亡くなった父名義のままになっていることに気付きました。

   弁護士に相談したところ、名義を自分のものにするためには、弟さんの相続人の協力を得る必要があると言われたので、弟の相続人である妻や子供たちに、弟から印鑑証明を貰えなかった経緯を話し協力を求めました。
  ところが、弟の妻や子供たちからは、分割協議書の署名も弟のものでは無いし、印鑑証明を渡さなかったのは、遺産分割に同意していなかったからで、判は実 印であるが勝手に押されたものかも知れないなどと言われ、協力を拒否されました。
 弟に送った金銭についても、時がたったので証拠となるものが無く、丙さんは結局、裁判による解決を求めざるを得ないことになってしまいました。

以上、3つの例は、実際にあった事件を多少アレンジしたものです。
 の例は、貸地で代々長男が相続したものとして管理をしていたものの、登記名義の変更ということを全く考えなかったために、長期間が経過し、任意の名義変更が不可能になった例です。
 これについては、その都度遺産分割を行っていれば、それほど問題無く名義が変更されてきたものと考えられます。
 の例もお父さんが亡くなった時点でしたら、妹さん達もそれほど抵抗無く遺産分割協議に応じて、土地建物は乙さんの名義になっていたでしょう。
 の例は、せっかく兄弟間で遺産分割協議がなされたのに、きちんと最後まで手続をしておかなかったために、協議が意味を成さず、親戚間の紛争に発展してしまったものです。

これらの例からも判るように、大した遺産では無いので、特に遺産分割など必要ないだろうとか、兄弟間で話がついているのですぐ登記しなくても大丈夫だろうなどと考えて、きちんとした処理をしておかないと、後日大きなトラブルを抱えることになるのです。

遺産分割には、現物分割(不動産・現金などを、現物のまま相続する方法)、代償分割(ある相続人が相続分を超える相続をした場合に、代償として他の相続人にお金等を支払う方法)、換価分割(不動産等で分割が不可能な場合にそれを処分して代金を分ける方法)や、これらを組み合わせた方法等があります。
  また、遺産分割は、まず相続人間の協議による分割を行うことになりますが、協議がまとまらない時は、家庭裁判所による調停、調停でもまとまらない時は家庭裁判所による審判で分割することになります。

相続が開始したら、まったく資産が無い場合は別として、相続税がかからな いよ うな相続の場合であっても、不動産がある場合などには特に、必ず家庭法律相談センターを初めとする弁護士会や市町村等の法律相談などで専門家である弁護士に相談して、将来自分や自分の子供たちが無用の紛争に巻き込まれることがないようにしておくことをお勧めします。

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