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生命保険金と相続

2006年06月01日 相続

  今回は生命保険金と相続について考えることにします。

  被相続人が負債を残して亡くなった場合、相続放棄を考えることになりますが、相続放棄をした場合に被相続人を被保険者とし、保険料は被相続人が支払っていた生命保険金は請求できなくなるのでしょうか。

  例えば、被相続人が死亡したがみるべき資産はなく負債3000万円があるほかは、生命保険金2000万円しか存在しない場合のようなときはどう考えるべきでしょうか。
  また、生命保険金に対する相続税はどうなるのでしょうか。

 問題の視点
 
生命保険金が相続財産(遺産)であれば,相続放棄をすると生命保険金は請求できなくなりますので、生命保険金が相続財産(遺産)に含まれるのか或いは受取人の固有財産になるのかが問題となります。
  
これについては、保険契約や約款に基づく保険金受取人の指定の仕方が重要ですので指定の方法にわけて考えます。

(1)被相続人が被保険者で受取人が「被相続人」と指定されている場合
  この場合には、保険金はいったん被相続人に帰属するため、生命保険金請求権は相続財産となります。これを誰が取得するかは、遺産分割協議で決めることになります。 したがって、相続人が
相続放棄したときは、保険金を受け取れないのは勿論、債権者への債務の返済に充てなければならない財産となります。この場合には、生命保険金を受け取ると単純承認したものとみなされます。

      例の場合には、他にみるべき相続財産がないとすると、相続放棄をしないと、生命保険金2000万円を3000万円の返済にあて、残った負債1000万円の支払義務が生じます。
相続放棄をすると、生命保険金は受け取れなくなりますが、3000万円の負債の支払義務を免れることになります。

(2)被相続人が被保険者で受取人を被相続人(被保険者)ではない「特定の相続人の誰か(例えば配偶者)」にしている場合
 このように生命保険金の受取人が被相続人(被保険者)ではない「相続人の誰か(例えば配偶者)」指定されている場合には、法律的には、第三者のためにする契約(保険契約)といわれ、受取人に指定された相続人は、保険契約に基づき保険金請求権を取得するので、生命保険金は、相続により取得するものではないから、遺産と見られず相続人(配偶者)がその固有の権利として全額受け取れます。

したがって、遺産分割の対象となる相続財産に組み入れる必要はありません(但し、受け取った保険金は分割協議の場においては特別受益にあたるとされる場合があるので注意、後述参照)。
 また、相続放棄しても生命保険金を受け取ることができます。いいかえると、相続放棄した相続人も保険金請求権を失うことなく行使できます。

なお、受取人の固有の権利ですから、被相続人が第三者に保険金の一部を遺贈しても受取人は、第三者からの給付請求に応ずる義務はないとされています(判例)。

生命保険金を受領しても単純承認とみなされたりすることはなく、相続放棄ができなくなることはありません(判例)。その結果、多額の債務を相続すべき場合であっても、相続放棄して債務の支払いを免れるとともに生命保険金だけを受け取ることができます。 なお、限定承認がなされたとしても保険金請求権は相続債務の引き当てにならず、相続債権者は保険金から弁済を受けることはできません。

この場合に指定されていた受取人が死亡し、受取人の再指定がされていないときは、受取人の相続人が保険金を受け取ることになります。受取人の相続人が債務を相続する場合にも、それを相続放棄して、生命保険金だけを受け取ることができます。

    例の場合には、相続放棄をすれば、保険金2000万円の支払いを受けることができる一方、3000万円の負債の支払いを免れることになります。

(3)受取人を「相続人」とのみ指定し、個人名を指定していない場合
  この場合判例は、保険契約者(被相続人)の意思解釈の問題とし、特別の事情のない限り、(2)の場合と同様、相続財産とはみられず、相続人全員が保険契約に基づいて保険金を受け取る固有財産ということになります。

生命保険金と特別受益
 受取人が相続人であり、生命保険金を固有の権利として取得したときに、特別受益とみられ、持戻しの対象となるかが問題となります。

学説では、保険金請求権は、保険契約者(被相続人)の保険料支払いにより、保険料の対価たる性質を有し、遺贈・死因贈与と同視すべき財産移転処分とみられる実質などから、特別受益性を認めて持戻しの対象とするべきとの見解が多数説であり、肯定する裁判例もありますので注意すべきです。

※持戻し
 
共同相続人のなかに、特別受益者(相続分の前渡しと見られるような 生前贈与や遺贈を受けた者)があるときに、その価額を遺産分配の際 に計算に入れないと不公平になりますので、特別受益を計算上相続 財産に戻したうえで各相続人の相続分を算定し、の得られた結果の 相続分から特別受益(生前贈与や遺贈)の価額を控除した残額を、特別受益者の具体的な相続分とする計算上の扱いを「持戻し」といいます。

持戻しの免除
 
特別受益性が認められた場合であっても、被相続人が持戻し免除の意思表示をしているときは、それにしたがうことになりますので、本件の場合も持戻し免除の適用の有無が問題となります。

持戻し免除の意思表示があったか否かについては、被相続人の意思表示の解釈の問題となり、保険金の額や、受取人と被相続人との関係等の諸般の事情を考慮し総合的に判断することとなります。

持戻しの金額
 次に持戻しを認めた場合にその金額をどう算定すべきかで、考えが分かれていますが、(4)の保険金額修正説が通説とされています

(1) 保険料額(保険契約者が支払った保険料の総額)

(2) 保険金額説(受領した保険金額)

(3) 解約価格説(保険契約者死亡時の解約返戻金相当額)

(4) 保険金額修正説(保険契約者が死亡時までに払い込んだ保険料の保険料全額に対する割合を保険金額に乗じて得た金額)

生命保険金と相続税との関係
  以上のように生命保険金は相続財産ではありませんが、税金(相続税)上の関係では、保険金は相続財産と見られます。(みなし相続財産)
 その結果、生命保険金は相続税の課税対象となります。

  ただし、生命保険金に対する相続税の計算方法は、受け取った生命保険金のうち法定相続人1人につき500万円までが非課税となっており、生命保険金から非課税分の合計を控除した、残りの部分が他の相続財産に加算されます。
          この点についての詳しいことは税理士さんにご相談ください

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