弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

親の世話をした人の相続分

2006年05月01日 相続

(1今回は、老後の親の世話をしていた相続人の相続分に関する話です。

 明治時代につくられ戦前まで使われていた民法では、家督相続制度がとられていて長子が財産を全て相続することになっていました。老後の親の世話は、親の全財産を相続する予定の長子がしていました。

 現在の民法では家督相続という制度がなくなり、相続人は均等に相続権を有することになりました。相続権は、長子だけではなく、他の兄弟姉妹も同様に有することになったのです。法の下の平等の考えた方からすれば、兄弟姉妹が同等の相続権を持つことは当然の帰結と考えられます。
 しかし、相続人のうちの一人だけが老後の親の世話をしていたような場合で、相続財産の主たるものが不動産である場合には、兄弟姉妹が均等に相続権を有することが、ときとして相続に関する争いの火種となることがあります。

 最近では核家族化が進んで、親と同居をしていることが少なくなっているとはいえ、依然として兄弟姉妹のうちの一人が親と同居をして親の世話をしている家庭もかなりの数があると思います。そして、親とその世話をする子どもの住んでいる家は親名義の家ということも多いのではないでしょうか。

(2Bさんは4人の兄弟姉妹のうち一番年長で、弟が一人、妹が二人いました。お父さんはすでに亡くなっていて、Bさん夫婦はお母さんと一緒に暮らしていました。
 Bさん夫婦とお母さんが住んでいた家の名義はお母さんの名義でした。Bさんは、結婚をしたときからずっとお母さんと同居をしていたので、お母さんが亡くなるまで約30年にわたってお母さんと同居してお母さんの世話をしてきていました。
 お母さんは亡くなる5年前くらいから認知症の症状が出始めました。このため、Bさんは、夜中に外出してしまって居所が分からなくなったお母さんを探しに出かけたり、治療のために病院に付き添っていったり、Bさんはお母さんの世話をするために大変なエネルギーを使っていました。

 Bさんがお母さんの世話で大変な思いをしているのに、Bさんの弟たちは、お母さんの世話はBさんに任せきりで、自分たちはまったく世話をしようとしませんでした。
  Bさんのお母さんは、Bさんがずっと世話をしてくれていたことに感謝していて、元気なころには自分が死んだあとは自宅の土地・建物はBさんにあげると言っていましたが、結局遺言は書きませんでした
 Bさんは、自分がずっとお母さんの世話をしていたのは弟たちも知っているのだから、遺言がなかったとしても、自分がずっと住み続けてきている家を相続することについて弟たちが文句を言うことはないだろうと考えていました。

(3ところが、実際にお母さんが亡くなって相続の話をしたところ、弟や妹たちは自分たちにも相続権があるので、相続財産の4分の1を渡して欲しいといってきたのです。
 お母さんには不動産の他に預貯金(約1000万円)があったので、相続財産はその預貯金と、Bさんたちが住んでいた不動産(約5000万円の価値)でした。
 弟や妹たちの主張は、単純に兄弟姉妹で等分すると、一人当たり約1500万円相当の相続権を有するから、預貯金を弟や妹たちに分けるだけでは足りない、その不動産を売却して売買代金を均等に分けるか、Bさんが自分でお金を工面して弟や妹たちに1500万円を分けて欲しい、Bさんが自分でお金を工面できないのであれが不動産を売るしかなくBさんがその不動産に住み続けることは認められない、というものでした。

 Bさんが法律相談に来たときに、Bさんが自分の言い分として話したのは、①お母さんは亡くなる前にBさんに不動産をあげるといっていた、②自分がずっとお母さんの世話をしてきたことが相続にあたっても評価されるべきだ、③弟や妹たちはそれぞれ家庭を持っていて住む場所があるが、不動産を売ったら自分は約30年間住み続けてきた家を追われることになる、それにもかかわらず4人で均等に相続財産を分けるのは納得いかないというものでした。

(4まず、遺言は書面になっていなければ効力がありませんで、生前にお母さんがその不動産をあげると言ったとしても、遺 言書を書いていない以上はお母さんがBさんに不動産をあげると言ったからといって、それが直ちに認められるわけではありません。
 したがって、遺言書がない以上は、兄弟姉妹が均等に相続分を有することが前提で話し合いがなされることになります。

 それでは、Bさんがお母さんの世話をし続けてきたことが相続にあたり考慮されるのでしょうか
 民法には寄与分を定めた条文が置かれています(民法904条の2)。
 相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供をした者や被相続人の療養看護をした者などがいた場合に、そうした寄与を相続にあたって考慮するというものです。
 ただ、被相続人の財産の維持又は増加に特別に寄与したことが必要なので、単に労務を提供したとか、療養看護をしたというだけではなく、相続人が事業を手伝ったから相当の収益が上がって被相続人の財産が増えたとか、相続人が療養看護をしたおかげ被相続人が療養費を出さずに済んで財産が維持できたなどの事情があることが必要です。
 相続人が寄与した分は、相続財産から控除をしたのちにそれぞれの相続人の相続分を算出するので、寄与をした人は寄与分を他の相続人より多く受け取れることになります。仮に、Bさんの寄与分が2000万円とされたときには、6000万円の相続財産から寄与分の2000万円を控除した4000万円を均等に分け、Bさんはそれに加えて寄与分の2000万円(合計3000万円)を受け取れることになります。

 さらに、相続財産に含まれる不動産に居住していた人については、相続にあたってその居住権を考慮することが多いと思われます。不動産の価格の一定割合の金額を、不動産に居住していた相続人の居住権分として控除した上で各相続人の相続分を算定することになります。
 ただ、親と同居をしている場合には賃料を払わずに住んでいることが多いでしょうから、居住権が認められるとしても、賃借権のようには高額にはならないでしょう。
 たとえば、Bさんの場合に不動産価格の1割の居住権が認められたとしたら、Bさんの居住権分を控除した不動産の残額4500万円と預貯金の1000万円を合計した5500万円を均等に分けて各相続人の相続分(各1375万円)を算出し、Bさんはそれに加えて居住権として認められた500万円(合計1875万円)を受け取れることになります。

(5Bさんにはあまり預金があったわけではなかったので、弟や妹たちの要求に応じるためには不動産を売却せざるを得ませんでした
 そこで、数回にわたって弟や妹たちと話し合いの機会を持ち、Bさんの寄与分や居住権を考慮してもらって、Bさんの取り分を弟や妹たちよりも少し多くしてもらうことで話し合いがつきました。

 話し合いがまとまった後、Bさんは約30年間もの間住み続けてきた家を出て近所にアパートを借りて住むようになりました。 Bさんはときどき以前住んでいた家の付近を通ることがあり、そんなときには、お母さんが元気なうちにBさんに不動産を相続させるという遺言を書いてくれていたら良かったのに、と思うのでした。

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