弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

遺産分割調停(特に祭祀財産の承継)についての事例

2005年05月02日 相続


1  AB夫妻には長女X、長男Y、次女Zがおります。長女X長男Yは独立して家庭をもっていますが、次女Zは未婚のままAB夫妻と実家で同居してきておりました。
  まず父Aが死亡し、そのおよそ1年後に母Bが死亡しました。ABの相続人はXYZです。父Aが死亡した当時から母Bは身体を悪くして入退院を繰り返したりするほどで、母Bは父Aの葬儀にあたって長男Yを喪主とすることにしましたが、長男は遠慮する気持ちから母Bを喪主とし、自分は喪主代行として父Aの葬儀にあたりました。
  ところが、このころからお互いの行き違いからか、長女X・次女Zと長男Yとの間がこじれてしまい、大変に姉弟の仲が険悪な関係になり、結局父Aの葬儀はなんとか済んだものの、49日の法要や一周忌は両方で別々に行うような有様になってしまいました。
もめ事はこれらばかりでなく細かな事柄についていくつもあるのですが、その後に亡くなった母Bの葬儀には、長女・次女からの連絡が遅かったこともあって、長男Yは参加できない結果となってしまいました。
このような状況の仲で、長女・次女が長男Yを相手方として、父A及び母Bの相続について、家庭裁判所に遺産分割調停の申立を行いました。
この調停ではじめて分かったのですが、母Bは自分の全財産は次女Zに相続させる旨の遺言書を残してあり、これが出てきたのです。

 これを見て、長男Yは寝耳に水のことで非常に納得しがたい気持ちをもち、遺言書の無効を主張したりしました。母Bの遺言の中身は財産のことだけでなく、祭祀財産の承継者についても、これを次女Zと指定すると記載されていました。
これにも長男Yは大変に立腹しました。
というのも、上記長女・次女と長男Yとの関係がこじれてからというもの、長男Yは直接母Bと連絡を取ることが出来ず、同居している次女Zが母との連絡を妨害していると考えていたからでした。
はじめのうちは、遺産分割調停の中でなんとか話し合いによって、母Bの遺言書問題並びに祭祀財産の承継者問題についても解決しようと努力を重ねたのですが、ついに当事者間の折り合いがつかず、長男Yは次女Zを相手として遺留分減殺請求の調停申し立てを行うとともに、XZを相手方として父Aの祭祀財産承継者指定の審判申立を行いました。
母Bの祭祀財産については母Bの遺言がありますが(遺言で祭祀財産を承継する者を定めたときは、その者が承継者になります。民法897条)、父Aについては遺言がありませんでしたので、父Aの相続に関しては祭祀承継者は未定ということになります。父Aはもともと長男ではなく、母Bと婚姻後独立して家庭を築いたもので、いわばこの家にとってははじめて祭祀承継者を決めるという場面がおとずれたのです。
そもそも父Aの相続に関して祭祀承継者が誰であるか決まっていれば,その後に亡くなった母Bの祭祀承継者も通常は上記の者がなると思われるので、先決問題として父Aの祭祀承継者を決める必要があったわけです。
  さて、祭祀承継者について民法では『①慣習があればそれによる。②被相続人が指定した場合にはそれによる。③慣習が明らかでない場合には裁判所が決める。』と定めており、そのため祭祀承継者指定の申立を行ったのです。
本件の場合、父Aが亡くなった時点で祭祀承継者として考えられるのは、長男Y、母B、次女Z(長女Xも全く該当しないわけではないですが)ですが、現実には母Bか長男Yかということで裁判の流れは進みました。
 ところで、民法には慣習によるとなってはいますが、東京という都会では、父が亡くなったときの祭祀承継者は長男であるか、母(妻)であるかについて確定的な慣習は見当たりません。長男Yとしては母Bが入退院を繰り返していたことや、長男Yが墓地の使用権をすでに取得していること、仮に母Aが祭祀承継者となれば、母亡き後次女Zが祭祀承継者となるが、次女は無職でもあり祭祀を司れるか疑問であることなどを挙げて、長男Yがふさわしいと主張しましたが、決め手にはなりません。裁判所もどちらにすべきか相当に悩んだようです。
  ところで、問題はこればかりではありません。父A母Bのご遺骨は、火葬に付したあと実家に安置されていました。実家は次女Zが居住しており、仮に長男Yが祭祀承継者となったとしても、ご遺骨をどのようにして実家から長男Yの手元にもってくるかという大きな問題がありました。
次女Zはあくまで長男が祭祀承継者になることに反対しておりますし、仮に長男Yが祭祀承継者となったとしても、任意にご遺骨を長男に手渡すとは考えられません。民法では裁判所が決めたとしても、相手がその通りに実行してくれなければ、強制執行という手続きを取らなければなりません。自分で勝手に取り上げるということは認められません。強制執行するとしてもご遺骨がどこにあるか分からなければ現実には執行できません。
長男Yとしては、父母いずれも亡くなったあとは、自分こそがAB家の祭祀承継者として最もふさわしいと考えています。以上のような不安材料を考えると、なんとか話し合いで決着をつけて、次女から無事にご遺骨の引き渡しが受けられるようにすることが肝要でした。
さて色々なやりとり(たとえば、母Bの現存する遺産がそう大きなものでないことなどを考えて、遺留分減殺の請求を放棄するなどして)を経て、どうにか祭祀承継者を長男Yとすることで話し合いの方向が向き始めました。
そうしたところ、あらたな問題が持ち上がりました。それは次女Zが父母の各遺骨を分骨して、それを自らもお祀りしたいというのです。
 分骨することはそう難しいことではないのですが、問題はそれをどこで行うかです。裁判所で遺産分割に関しての話し合いが解決して裁判所の書類を作ってしまって(調停成立と言います)からでは、次女Zが素直にご遺骨を手渡してくれるかどうか長男Yは不安です。一方、次女Zは裁判所で遺産分割の話し合いが出来て、裁判所が書類を作る前に、ご遺骨を長男Yに手渡してしまえば、長男が遺産分割についてきちんと約束通りの承諾をしてくれるか不安が残ります。兄妹の間はここまで疑心暗鬼の関係になってしまっていました。
このようなことからXZ側では火葬に付した場所で調停成立後に分骨することを主張しますし、長男Yはすでに手に入れている墓地で調停成立前に分骨することを主張します。さて、どうすればよいか裁判所を含めた関係者は頭を悩ませました。

そこで、あらかじめ遺産分割の合意案を作成しておき、調停の期日を予定し、その予定日に、調停成立文書(調停調書と言います)を双方で確認して作成するその直前に裁判所の部屋でご遺骨の引き渡しと分骨をすることにしたのです。幸い、僧侶の資格を有する調停委員がおられたので、その方の手で無事分骨まで済ませることができ、ここにようやくこの難事件は解決を見たのです。

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