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熟年離婚に伴う財産分与

2018年05月01日 離婚

質問
 私は59歳の専業主婦です。同じ年の夫と35年前に結婚しました。夫は大学を卒業後、会社に38年間勤め、1年後の来年5月に満60歳で定年になります。私と夫の間に子はいません。もともと険悪でしたが、このたび私は夫と別居し、夫婦のきずな完全に壊れてもとに戻らなくなりました。夫は財産分与について条件を詰めたうえで離婚したいとはっきり私に手紙で伝えてきました。
 夫は浪費家で、私とは性格が合いません。別居のきっかけとなったのは、3か月後に夫に支払われる2000万円の退職金の扱いです。使い道をどうするかを巡って、夫と激しい口論になりました。そして私から別居に踏み切りました。私も、相応の財産分与を受けることを条件にですが、早く離婚したいです。
 夫は、36年前、私を紹介されてすぐ結婚するその1年前のことですが、35年ローンを組んで自分でマンションを購入し、そこから会社へ通い始めていました。結婚して私も35年間同居し、ローンは夫の給与から毎月欠かさず払ってきました。夫にも私にもいま、現預金は、ほとんどありません。私に財産はありません。私自身は当面はパートで十分しのいでいけます。
 夫は浪費家です。今後もマンションの名義が自分にあることをいいことに、夫が財産分与前にマンションを2000万円くらいで売却して手近な賃貸物件に引っ越し、売却金を費消してしまうおそれを感じます。財産分与の成立が仮に1年余り後になれば、そのときでは夫の手元に財産が一切残っておらず手遅れになるかもしれません。退職金も夫が受け取って途端に投資などに夫が費消しかねないからです。

1.離婚に伴う財産分与はどうなりますか。
2.マンションが売却されないようにできますか。
3.財産分与前に退職金が夫に払われないようにすることができますか。
4.万一夫がこの先破産した場合についても、簡単に教えてください。

回答
1. 財産分与とは
 財産分与とは、婚姻生活中に夫婦が協力して増やした財産を、それぞれが財産アップに貢献した割合に応じて夫婦それぞれの個人財産に分けることをいいます。離婚時に夫婦のもとにある財産を合算して分けることになります。
 本件では別居時に婚姻関係は破綻しているとみて、以下では別居時にある財産をみることにしましょう。
 専業主婦であっても、家事等による貢献により、夫婦財産を形成したものと考えられます。ですから、離婚に伴い、たとえば別居時の2分の1相当の夫婦財産の分与を請求できます。なお、財産分与には、慰謝料や扶養の要素をさらに盛り込むこともできます。

2.本件マンションについて
(1)住宅ローン付マンション
 夫が婚姻前に購入したマンションということですから、夫の特有財産になり、財産分与の対象とならないのが原則です。
 しかし、本件マンションは35年ローンを組んで夫が購入し、婚姻後に夫の給与から分割返済し完済したという事情があります。
 そうすると、夫婦の婚姻期間中に購入したマンションと同様に扱い、財産分与の対象となると考えられます。
(2)具体的な請求内容
 現物分割という方法を採るのであれば、持分のたとえば2分の1の財産分与を夫に請求することになります。たとえばと申し上げたのは、本件でローンの頭金が仮に多額で夫が独身時代の1年内に支払いをしていたというなら、マンションに関するあなたの寄与は2分の1を割り込む計算にもなるでしょう。反面、扶養等の要素を反映させれば、妻であるあなたの請求額はもっと多くなって当然だからです。
 あなたは離婚に伴う財産分与において、マンションを現物分割するのであれば、持分移転請求に加え、持分移転の登記請求も夫にすることになります。夫にマンションを売却されても第三者の買い手に対抗できるように備えるためです。
(3)保全処分について
 夫が財産分与前に売却による費消をしてしまう心配があれば、マンションについての処分禁止の仮処分を裁判所に申し立てることが考えられます。マンションが売却されてもやはり持分の買い手に対抗できるよう、財産分与前に仮処分の登記を経由したいからです。財産分与はあくまで離婚に伴うものですから、離婚成立までは、財産分与請求権はなく、この保全処分を、裁判所に申し立てる必要があるわけです。
 申立てに際しては、裁判所に対して保全の必要性を疎明し、また予め相当な額の担保金提供の用意もしておく必要があります。すなわち、財産分与前に保全する方策はあるものの、それなりに高いハードルをクリアしなければなりません。

3.本件退職金について
(1)財産分与の対象となりうること
 将来支払われる退職金であっても、本件のように支払いが間近で確実なら、財産分与の対象となると考えられます。
(2)分与を受けられる額
 退職金についても本件で分与を受ける額は、別居時を基準に考えていきます。
すると、別居時時点で仮に夫が自己都合理由で退職したとしたならば受領できる退職金額のたとえば2分の1の分与を夫に請求することになります。但し、夫の在職期間よりも婚姻期間が短い場合は、婚姻期間に応じた割合になります。
(3)マンションを夫に売却され費消された場合
 先述のマンションについて前述の保全処分が却下されて、財産分与の前にマンションを2000万円で売却されてしまったと判明した場合、本件では退職金2000万円のほぼ全額の分与を求めることになるでしょう。すなわち、別居時の夫婦共有財産が2000万円のマンションと、2000万円の退職金であるならば、妻が寄与した割合及び扶養等の側面を加味してそれぞれ2分の1相当額ずつの分与になるはずのところ、夫がマンションを売却してその売却金を費消してしまったのであれば、退職金2000万円の全額の分与を求めて当然です。
(4)退職金の保全処分
 ただ、実際に保全の問題を考えますと、本件はなかなか難しい側面があります。来年2月までに無事に離婚が成立していれば、退職金の差し押さえという執行をすればよいのです。しかし、来年2月時点までに離婚及び財産分与が成立していない状況であれば、執行はできません。あくまで保全処分を裁判所に求めるしかありません。そして、質問の中でご懸念の事態が現実化して、夫にマンションを売却され代金を費消されれば、あとはあなたとしては、退職金という債権に対する保全処分を裁判所に求めるほかありません。
 すなわち、別居後に夫がマンションを売却費消した以上、離婚及び財産分与が成立すれば、残る退職金2000万円のほぼ全額を妻が分与請求できるはず。この夫に対する妻の財産分与請求権という仮の権利に基づき、会社に対する夫の退職金支払請求権を保全するよう裁判所に申し立てるわけです。
 もっとも、退職金に対する保全は、以下に述べる通り、さすがに簡単でないと考えます。
 会社という第三債務者に対して将来夫に払われるその支払いを禁止する、そのような保全処分を裁判所に求めて申し立てることになります。それに見合った保全の必要性が、裁判所に認めなければなりません。実際に保全の必要性が認められるケースは、現実にはかなり少ないと考えられます。この退職金についての保全策は、かなりハードルが高いと見越されます。

4.破産について
 夫に対する財産分与請求権は、破産時には、破産債権になるに過ぎません。
 なお、協議による財産分与が成立したあと執行前に夫が破産開始決定を受けた場合について財産分与額が過大と評価されれば、過大とされた額が否認の対象になりえます。もっとも、夫が多額の債務を負っていたことを妻が認識していたかなど、諸事情も考慮されます。

                                                     以上

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