弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

死後離婚って何なの

2017年12月01日 離婚

 最近、「死後離婚」という言葉が話題になったりしますが、死んでから離婚するとはどういうことでしょうか。

 A子さんは、今年67歳で、ベテランの看護師さんです。A子さんは、昭和50年代の初めころ、1歳年上のB男さんと結婚しました。B男さんは、ちょっとした資産家の息子さんで、当時、上場企業に勤務するサラリーマンでした。A子さんが勤務していた病院に、B男さんが入院したことがきっかけで知り合い、暫く付き合った後に結婚しました。A子さん夫婦は、B男さんが長男なので、結婚当初から、B男さんの両親の家のすぐ近くにマンションを購入し、所謂スープの冷めない距離に住んで、A子さんは義理の両親の面倒を見てきました。A子さん夫婦には子供ができませんでしたので、A子さんは、看護師として忙しく働きながら、献身的に義理の両親の面倒を見てきました。B男さんの両親もA子さんをとても信頼していました。B男さんには、妹と弟が各一人いて、それぞれ結婚していますが、両親の世話はA子さんに任せきりという状態でした。

 そのようななか、平成17年に義母が89歳で死亡しました。当時、義父は、91歳でした。義父は、持病はあるものの元気でした。義母死亡後も、Aさんは文句ひとつ言わず、毎日、義父の身の回りの世話など、介護をしました。義父も、A子さんを可愛がり、頼りにしていました。ところが、平成27年に、B男さんが突然病に倒れ亡くなってしまいました。A子さんとしては、高齢の義父(当時101歳)より先に夫が死ぬことなど全く考えてもいませんでした。そして、更に、追い打ちをかけるように、A子さんに癌が見つかり、しかもかなり進行していました。しかし、A子さんは義父には癌のことは黙っていました。

 B男さんの相続につきましては、相続人は配偶者のA子さんと義父の二人だけです。義父は、資産もあり今後引き続きA子さんの世話になるので、息子の遺産は全てA子さんに譲りました。A子さんは、約6000万円の遺産を相続しました。ところが、B男さんが死亡した後、B男さんの妹夫婦と弟夫婦が、何かとA子さんのすることに口出しをするようになり、日に日に両者の関係が悪くなってゆきました。義父がA子さんをとても信頼していることに、B男さんの妹夫婦と弟夫婦が危機感を持ったのかもしれません。A子さんは次第に嫌気がしてきたうえ、夫が亡くなった今、義父に対する感情も変化し、急速に義父の介護をする意欲がなくなってきました。そして、自分もそう長くは生きられないので、死ぬまで思い切り遊びたいという欲求がでてきました。そこで、夫の親族との関係を清算し、しがらみから解放されたいと強く思うようになりました。

 このように、A子さんがB男さんの親族との関係を切ることを死後離婚といいます。法律的には「姻族関係を終了」させることです。そこで、法的に見てゆきましょう。

 人は、脈々と血のつながりの家系を形成してゆきます。世間では親戚といいますが、どこまでの人を親戚というのか曖昧です。法律では親族といいます。民法上、親族は、6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族を言います。血族は文字通り血のつながりのある人で、自然血族と法定血族(養子関係)があります。姻族は配偶者の血族の人のことを言います。義理の父、義理の妹などがそれにあたります。親等とは、親族関係の遠近を表す単位です。配偶者間は0親等、親子間は1親等、兄弟・祖父母・孫とは2親等になります。曾祖父母、曾孫、甥、姪、叔父、叔母は3親等になります。こうみると、6親等というのはかなり広い血族関係だということが分かります(直系尊属ですと6世の祖、直系卑属ですと6世の孫(昆孫)となります。)。

 民法では、直系血族および同居の親族(姻族を含む)の助け合いを定めています。また、直系血族および兄弟姉妹間に扶養義務を課し、更に、家庭裁判所は3親等内の親族間にも扶養義務を負わせることができます。A子さんと義父とは1親等の、B男さんの兄弟姉妹とは2親等の姻族関係ですので、A子さんとしてはこれらの姻族関係を解消したかったのです。法律上、夫の死亡後に姻族関係を終了させることは簡単にできます。役所に、姻族関係終了届を提出するだけでいいのです。姻族の同意もいりません。しかし、姻族関係終了届を提出しても戸籍はそのままです。A子さんが、現在の戸籍から抜けるには復氏届(ふくうじとどけ)を提出する必要があります。同届を提出しますと、A子さんは婚姻前の戸籍に戻ります。婚姻前の戸籍に戻りたくない場合は、分籍届を役所に提出し、新戸籍を作ることになります。逆に、復氏届を提出しただけでは、姻族関係は終了しません。また、仮に、A子さんに子供がいる場合、A子さんが復氏届を提出しても子供の氏、戸籍はそのままなので、子供を戸籍に入れたい場合は、家庭裁判所に子の氏の変更許可申立てを行い、変更が認められたら入籍届を提出します。

 このように、法律上は、姻族関係の解消は比較的簡単にできますが、実際上はそうはゆきません、A子さんは、姻族から、遺産の持ち逃げ、裏切者、鬼嫁、親を見捨てる冷酷な女などと非難されました。更に、当然ながらB男家の墓には入れない、B男さんの遺骨は渡さない、分骨もしないと言われました。A子さんは、実は、群馬のお寺の娘さんでしたので、寺を継いでいる兄に事情を話し、実家の墓に入れてもらうことになりました。A子さんは、なんだかんだ非難されることを覚悟して姻族関係を終了させました。A子さんの癌も決してよい状況ではありません。ベテランの看護師さんですので、自分の病気のことをよく分かったうえでの覚悟だったように思います。A子さんの余命はわかりませんが、「これから思いっきり遊びますよ。」と言って、突き抜けたようなスッキリした笑顔で帰って行ったのが印象的でした。

                                                     以上

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