弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

養育費の取決め

2017年07月03日 離婚

 養育費の請求は,民法上の扶養料請求権に基づくものであり,その程度,方法については,まず当事者間で協議して定め,当事者間で協議が調わないときや協議ができないときは,扶養権利者の需要,扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して家庭裁判所が決めることになります(民法879条,家事事件手続法4条)。

 当事者間で協議を行い,養育費の支払に関する合意をした場合,義務者がその合意に従って養育費を支払ってくれれば何の問題もありませんが,離婚して子どもに会えなくなった親(義務者)は,往々にして養育費を支払わなくなることがあります。

 その場合,当事者間における養育費の支払に関する合意が公正証書として作成されていれば,権利者は直ちに義務者の給与を差押える等,強制執行手続により養育費を確保することが可能です。しかし,公正証書の作成には費用や手間がかかるため,養育費の合意を公正証書として作成する当事者はあまり多くありません。

 では,養育費の支払に関して公正証書によらない当事者間の合意があるものの,義務者がこれを支払わない場合,権利者は,家庭裁判所における家事調停手続によらず,ただちに通常裁判所に支払請求訴訟(民事訴訟)を提起して支払いを求めることは可能でしょうか。

 この点,合意した金額の養育費の支払いを求めて地方裁判所に提訴したケースにおいて,裁判所は,「養育費の支払に関する合意は私法上の合意として有効であり,これに基づいて,民事訴訟によりその給付を請求することができることを否定する理由はない」として,通常裁判所への支払請求を認めました(平成26年5月29日神戸地方裁判所判決)。

 これについて被告は,「養育費は後見的に扶養に関する処分として家庭裁判所で定めるべきで,事情変更もありうる事案については,地方裁判所において強制執行力のある債務名義を作成することはできない」,また「将来給付の要件(「あらかじめその請求をする必要がある場合(民事訴訟法135条)」)を欠く」等主張して争いました。

 しかし裁判所は,「私法上の合意についての債務名義であっても,養育費に関する限りは家事審判事項であり,事情の変更があれば当事者の申立により家庭裁判所でその変更又は取消が可能であること(民法880条)」,また「(本件においては)被告が合意書の効力を否定し,合意書に基づいて養育費を支払う意思がないことを表明しており,今後,合意書に従った任意の履行が期待できないこと」等を理由に,これらの被告の主張を認めませんでした。

 このように,当事者間において養育費に関する合意がある場合,権利者は,家庭裁判所ではなく,通常裁判所の手続を利用して支払請求することが可能です。

 これに対し,当事者間における合意がない場合,または当事者間の合意はあるが合意内容によらず養育費の支払を請求したい場合は,家庭裁判所に養育費請求調停を申し立て,「養育費・婚姻費用算定表」を前提とし,権利者(子を引き取って養育する者)と義務者の年収を基礎に調停委員を交えて話し合いを行い,養育費の金額や支払方法等を決定する,家庭裁判所の手続(家事調停)を利用することが可能です。

 したがって,権利者(子を引き取って養育する者)・義務者の現在の年収を養育費算定表にあてはめて算定される金額より,合意書で定めた金額の方が高額な場合は,合意書にもとづく支払を求めて通常裁判所に提訴した方が良いでしょう。

 これに対し,事前に合意した養育費の金額が,養育費算定表を基準に算定した額よりも低額である,扶養義務者の年収の増加等の事情がある場合には,通常裁判所ではなく,家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てた方が権利者(子を引き取って養育する者)にとって有利になります。

 このように,養育費に関する当事者の合意がある場合であっても,いずれの裁判所に申し立てるかによって違いが生じうることから,専門家に相談した上で手続を選択された方が良いでしょう。

以上

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