弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

有責配偶者からの離婚請求について再考する(オーストラリアとの比較や下級審判例の新たな動きについて)

2016年06月01日 離婚

はじめに

有責配偶者からの離婚請求の問題は、実務上確定しているといわれている。

本コラムでもその概要は2015年2月1日に取り上げられている。しかし、昨今妻側の不貞行為も多くなっており、破綻した婚姻関係なのに離婚が認められず苦しんでいる関係者も少なくない。本コラムでは、オーストラリアとの比較や下級審判例の新たな動きを踏まえ日本の家族法の歴史性も念頭に置きながら改めてこの問題を考えてみたい。

一、有責配偶者からの離婚請求の可否についての最高裁昭和62年9月2日大法廷判決の理解

(1) 民法770条1項5号 婚姻を継続しがたい重大な事由の趣旨・内容

最高裁判所は62年判決において民法770条1項5号の解釈について「夫婦が婚姻の目的である共同生活を達し得なくなりその回復の見込みがなくなった場合」としている。したがって、原則として婚姻が破綻している場合は、同号の離婚事由にあたることになる(いわゆる破綻主義)。

(2)信義則による制限(消極的破綻主義)

しかしながら同判決は破綻に主として専ら責任のある者からの離婚請求については離婚により離婚を望まなかった者が精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれ、離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情がある場合は、民法1条の信義則の大原則により離婚を認めない場合があるとする。

そして同判決は、信義則の適用にあたって①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当長期間に及び、②その間に未成熟子がない場合、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状況に置かれる等著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない場合は離婚が認められるとした。別居期間の長短、未成熟子の有無は③の判断の一事情にすぎない。

(3)したがって、現行裁判実務では、夫婦が婚姻の目的である共同生活を達し得なくなりその回復の見込みがなくなった場合は婚姻関係の破綻により離婚は認められるが、信義則上の制限があり破綻原因に主として専ら責任の有る方からの離婚請求について一定のブレーキをかけているわけである。

二、1975年オーストラリア連邦家族法

昨年行われたハーグ条約締結に伴う子の引き渡し(面接交渉を含む)に関する日豪合同のADRの研修会において、徹底した破綻主義を採用している1975年オーストラリア連邦家族法(現行)の紹介がなされた。

そこでの破綻の基準は以下の3点だけである。

①結婚して2年以上が経過

②12ヶ月以上の別居期間( 家庭内別居も含む)

③いずれか一方が修復不可能と信じていること

もとより離婚原因は問われないし、研修時の報告によればこれらの基準を満たしていれば裁判所において多数の件が同時に審理され1件当たりは瞬時に離婚が宣せられているとのことであった。

なお、オーストラリア連邦家族法においては、離婚後も共同親権なので親権帰属を巡る争いはないとのことであった(諸外国は殆ど同様)。

こうしてみると、我が国のように有責配偶者からの離婚請求を認めないのは当然とは言えないことがわかる。

三、下級審判例の新たな動き

1,最近公刊された判例(東京高判平成26年6月12日判時2237-47P)では、下級審ながら、前記最高裁の62年判決を実質的に理解しようとするものが見られる。

この事例は6歳の長男と4歳の長女を日本人の夫との間で設けた1977年生まれのフランス人妻(日本での永住ビザを取得済み)が、二人の男性との不貞行為を行いいわゆる有責配偶者としての立場で離婚請求をした事例である。なお、別居開始は平成24年5月30日である。

前記判例は判断の中で従前の62年判決の実質的理由の一つには

「一家の収入を支えている夫が妻以外の女性と不貞関係に及んで別居状態となりそのような身勝手な夫からの離婚請求を安易に認めると残された妻子が安定的な収入を絶たれて経済的に困窮するなど著しく社会正義に反する結果になるためそのような事態を回避するという目的」

があったとの理解のもとで本事例について、婚姻関係の破綻を認定したうえで、子の福祉と離婚後の配偶者(夫)の収入状況を考慮して、離婚を認めても著しく社会正義に反する結果にはならないとして離婚を肯定したものである。

この判決は上告受理申立がなされたが確認したところ、このまま確定している。

2,未成熟子がいる有責配偶者からの離婚請求を認めた事例もある(最小3判平成6年2月8日判例タイムス882.138)。

3,有責配偶者からの離婚請求ではないが、別居期間が1年余りの夫婦について他の要素を斟酌し「婚姻を継続し難い重大な事由」を認めた事例もある(大阪高判平成21年5月26日家庭裁判月報62巻4号85頁)。

四、まとめ

婚姻関係が破綻している場合に有責配偶者からの請求を認める際の前記62年判決の基準は長期間の別居、未成熟子の不存在、離婚される側に悲惨な状況が生じないことの3要件であるが、これらはいずれも信義則を適用する際の一つの事情であって、破綻を認定する基準ではない。

結局、ポイントは信義則の適用が妥当なケースか否かであり、これらの基準は形式的に、また過大に受けとめるべきではないのではないか?(例えば3要件を満たさなければ必ず信義則上離婚を否定する考え方は柔軟性がなさ過ぎる)戦後の貧しい時代や男性の不貞行為を前提とし、夫が妻や子の生活の面倒を見るとの考え方に偏りはないか?破綻した夫婦を離婚させないことは憲法の個人主義や福祉国家の理念に反しないか?

我が国でも、これらの諸外国の立法例や下級審判例の新たな動きを参考としてこの問題についてあらためて検討すべき時が来ているのではないだろうか?

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