弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

審判を実現する方法

2014年02月01日 離婚

第1 はじめに

先日、家庭法律相談で、相談者から、次のような相談を受けました。

「別居している夫に対し、婚姻費用分担の調停を申し立て、その後、審判へ移行し、婚姻費用分担金の支払を命ずる審判を得ることができました。具体的には、過去分として100万円と、将来分として審判のあった月から毎月末日限り20万円を支払え、というものです。

ただ、これまでの夫の言動から考えると、このように審判されたにもかかわらず、夫から任意に支払を受けられるかどうか、不安です。

夫が任意に支払わない場合、審判を実現して婚姻費用分担金の支払を受けるための方法を教えてください。」

そこで、以下では、婚姻費用分担金の支払を命ずる審判を例に、任意の支払を受けられない場合に、強制的に審判を実現する方法について、簡単に説明することとします。

第2 審判の確定

審判内容を強制的に実現するためには、前提として、審判の効力が生じていることが必要です。

申立てを認容する審判は、原則として、審判を受ける者に告知することによって効力が生じますが、審判に対する不服申立てである即時抗告をすることができる審判については、確定しなければその効力を生じません(家事事件手続法74条2項)。そして、即時抗告期間内に即時抗告が提起されると審判は確定しませんが、即時抗告されないまま同期間が満了すると、審判は確定します(家事事件手続法74条4項、5項)。なお、即時抗告期間は、原則として2週間の不変期間とされており(家事事件手続法86条1項本文)、この期間は、相手方が審判の告知を受けた日の翌日から起算されます(家事事件手続法86条2項、民法140条)。

婚姻費用分担の審判に対しては、即時抗告をすることができますので(家事事件手続法156条3号)、上記相談の事案については、要するに、審判が相手方に告知された日の翌日から起算して2週間が経過した時点で、審判が確定し、審判の効力が生じることとなります。

なお、上記相談の事案では、審判書が相手方に送達されて告知された後、2週間が経過しても相手方から即時抗告は行われておらず、審判は確定していました。

このようにして審判が確定するとその効力が生じ、婚姻費用分担金の支払を命ずる審判のように金銭の支払を命ずる審判であれば、審判内容を強制的に実現できる執行力も生じることとなります(家事事件手続法75条)。

第3 履行の確保

上記相談の事案の婚姻費用分担金の支払債務をはじめ、家事審判等で定められた家事債務については、家庭裁判所独自の制度として「履行の確保」の制度が設けられています(家事事件手続法289条、290条)。

このうち、「履行の勧告」の制度(家事事件手続法289条)は、家庭裁判所ないし家庭裁判所調査官が、権利者の申出を受けて、審判で定められた家事債務の履行状況を調査し、義務者に対し、その義務の履行を勧告することができるというものです。

あくまで任意の履行を促すというものではありますが、家庭裁判所ないし家庭裁判所調査官から勧告書等が送られ、支払期限を定めて遅滞分の支払を勧告されるなどされるわけですから、義務者が任意の支払を行うことについて、一定の効果を期待できるものと思われます。

なお、権利者の申出に方式はなく、電話で申出をすることもできるようです。また、申出に費用もかかりません。

上記相談の事案についていえば、相談者としては、まず、審判をした家庭裁判所にご自分で連絡して、履行の勧告を申し出てみるのがよいと考えます。

第4 強制執行

履行勧告にもかかわらず、義務者が不誠実で、勧告を受けても自発的に支払わないような場合、審判の申立人(債権者)としては、審判内容を強制的に実現するために、いよいよ民事執行法に基づく強制執行の手続を執るべきこととなります。逆にいえば、審判の確定により、申立人としては、強制執行手続によって審判内容を実現し得る地位に立つということです。

強制執行は執行文の付された債務名義に基づいて実施されますが(民事執行法25条本文)、確定した審判は執行力のある債務名義と同一の効力を有するので(家事事件手続法75条)、基本的に執行文の付与は必要でなく、審判の申立人(債権者)としては、審判書正本に基づき強制執行を申し立てることができます。

婚姻費用分担金の支払を命ずる審判は金銭の支払を命ずるものですから、手続としては金銭債権の執行方法によることとなり、具体的には、不動産執行(民事執行法43条以下)、動産執行(民事執行法122条以下)、債権執行(民事執行法143条以下)などの方法により、対象財産を差し押さえて強制換価し、配当を受けることとなります。

このうち、債権執行は、相手方(債務者)の第三債務者に対する債権を差し押さえ、これを換価して債務の弁済に充てる執行手続ですが、上記相談の事案では、相手方(債務者)である夫は会社に勤めており、会社に対して今後も継続的に給料債権を取得することから、同会社を第三債務者として、相手方(債務者)の給料債権について債権執行を申し立てるのが実効的であると考えられます。

というのも、婚姻費用分担義務に係る確定期限付きの定期金債権については、確定期限が到来していない将来分についても債権執行を開始することができる(民事執行法151条の2第1項2号)等の特例が定められているからです。差押禁止債権の範囲についても、4分の3から2分の1へと減縮されますので(民事執行法152条3項)、その分差し押さえることのできる金額が増加します。

なお、強制執行については、相手方(債務者)の財産を事前に把握しておくことが重要であることはいうまでもありません。

第5 おわりに

審判の結果を待っていたのでは相手方の財産が隠匿され処分されてしまうおそれがあるようなときは、場合によっては、審判前の保全処分(家事事件手続法105条以下)等の措置を執ることも必要となるでしょう。

いずれにせよ、上記強制執行やこの審判前の保全処分等については、早期に専門家である弁護士に相談して委任したうえ、権利の最終的な実現を見据えることが重要です。

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