弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

ハーグ条約について

2012年03月01日 離婚

   皆さん、ハーグ条約という言葉を聞かれたことはありませんか。この条約は、国際結婚が破局した際の子どもの扱いを定めた条約です。正式には、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約、と言います。1980年10月25日にハーグ国際私法会議において採択され、1983年に発効しました。日本はまだこの条約に加盟しておりません。いわゆる先進国のうちこの条約に加盟していないのは日本ぐらいです。この条約に加盟しますと、国際結婚が破局するなどした後に一方の親が子どもを無断で国外に連れ出した場合、その親は、原則として、元の居住国にその子どもを戻さなくてはなりません。

 日本では、両親が離婚した場合、どちらかの親が親権者になります。そして、子どもが小さい場合、母親が親権者になることが多いように思います。日本では、概して、それが当然のように思われてきました。したがって、国際離婚をした場合に、日本人の妻が子どもを連れて外国から日本に戻るのは当たり前だったのです。しかしながら、外国では、両親が離婚しても両親の子どもに対する権利は、共同親権や共同監護が普通のように思われます。要するに、離婚後も、両親共が子どもの面倒をみるのです。その結果、国際結婚が破局しても母親が当然のように子どもを引き取るということはないのです。

 そこで、日本がハーグ条約に加盟した場合、国際結婚が破局した日本人妻が子どもを連れて日本に戻るのは、今よりもずっと難しくなりそうなのです。しかしながら、日本政府は、今年の3月中に関係法案を国会に提出して、今国会での条約承認を目指すとのことです。

 ハーグ条約においては、「不法に子を連れ去られた者は、中央当局に対し、子の返還のための申請を行うことができる。」とされておりますが、この場合の中央当局とは、子の常居所の中央当局又は他の締約国の中央当局とされており、日本への連れ帰り事案については、日本の裁判所が判断することになります。なお、子とは、16歳未満の子をいいます。

 もちろん、返還の例外についても議論されております。ハーグ条約上は、「子の返還により子が身体的又は精神的な害を受ける、子自身が返還を拒否、連れ去りから一年以上経過し子が新しい環境に適応している等の場合は返還拒否できる。」と定められております。例えば、日本においては、父親が子の前で母親に暴力を振るったり、薬物中毒やアルコール依存症だったりする場合や、子と一緒に戻った母親が逮捕されるおそれがある場合が例外になるのではないかなどが議論されております。

 本年1月23日に、法務大臣の諮問機関である法制審議会の部会が、日本国内で整備が必要となる裁判手続きの要綱案をまとめましたが、他方、民間のADR(裁判外紛争解決手続)によって裁判外でも解決が図られるようにすべく、東京三弁護士会(東京弁護士会、第一東京弁護士会及び第二東京弁護士会)の仲裁センター連絡協議会においても、国際家事ADR設立準備小委員会を設け、検討を行って参りました。しかしながら、国を跨る問題ですので、沢山の問題があります。例えば、期日における当事者の出頭の問題、外国の弁護士の代理権の問題等々です。いずれ、東京三弁護士会の結論が出るでしょう。

 ちなみに、日本がハーグ条約を締結した場合、子が現に所在する国が日本である場合の日本における中央当局及び裁判所の手続きは次のようになります。

 申請書類の審査→子の所在の特定→任意の返還・問題の友好的解決の促進→裁判所における返還可否の判断(返還命令又は返還拒否)→返還命令が出された場合の子の安全な返還

 * 返還可否の判断以外は、中央当局が行います。また、日本人の親が子の返還に応じない場合は、最終的には、裁判所の執行官が強制的に子を引き離すことも考えられているようです。

 なお、ハーグ条約加盟国全体において、2008年ベースで、返還申請合計は1,903件、うち司法判断に至ったものは835件、835件のうち、返還命令は508件、返還拒否は286件、面会交流命令は41件となっております。

 ハーグ条約については以上のようですが、国際結婚がますます増えている今日においては、国際離婚の際の子どもに関する手続きについて知っておいた方が良いでしょう。ハーグ条約は、遠くないうちに日本も締結するでしょうし、上記のような困った事態は、貴方自身や貴方の身の回りの人にいつ起こるか分かりませんから・・・。

一覧へ戻る
一覧へ戻る