弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

面接交渉と子供の連れ去り

2010年10月01日 離婚

  1 面接交渉が問題となることの一般論。

 離婚事件を担当していると,当事者間で離婚自体につき争いがなくても,他の点で話がまとまらず,なかなか解決できない事態に陥ることは少なくない。

 その際問題となる内容は,養育費,慰謝料,財産分与など金銭に関する場合もあれば,親権や面接交渉などそれ以外に関する場合など様々である。その中でも,特に面接交渉を巡って対立が激化する場合には,代理人として神経を使う場面が多い。

今回は,面接交渉を巡り警察沙汰にまで発展してしまったケースを紹介したい。

2 事案の概要

 依頼者が私のところに法律相談に訪れたのは,昨年の秋のことだった。

依頼者は,約30歳の女性,夫の間に2歳の長女がいた。夫は個人事業主である。夫からの平手打ちや壁に顔を押し付ける,車から降ろされて置いていかれるなどの身体的暴力や暴言に耐えかねて,長女を連れて家を飛び出してきた。本人から夫婦円満調整と子供の面接交渉を求める調停が申し立てられたのでどうしたらよいかという相談であった。

 依頼者は夫との離婚を強く望んでいることから,申立を受けた調停の中で,離婚に向けた話し合いをすることを目指して受任することとした。

3 交渉

 年末年始の第一回,第二回の期日にて,夫は冷静な態度で調停員に接していた。

当方が離婚を希望していることを伝えると,最初は思いとどまるように主張していたものの,次第に離婚も依頼者が親権者となることもやむを得ないという態度になった。その一方で,「離婚前に面接交渉をどうしても行いたい」という希望を強く述べるようになった。

 依頼者は,別居前にDVを多数受けており,相手に対し信頼ができないとの理由で面接交渉を拒絶する姿勢であった。特に,「面接交渉をしたら子供を連れて行かれるのではないか」としきりに気に揉んでいた。

 当職はそこで,夫に対し一度当職の立ち合いで試験的に面接交渉を実施し,二回目以降は離婚の合意をした上で行うことを提案した。しかし,夫は「それでは不安である」などというばかりで面接交渉を離婚後に行うことになかなか同意しなかった。そうこうしている間に夫の様子が次第に変化してきた。

4 変化

 二回目の期日が終わってから,当職の事務所に夫から直接電話がかかってきた。内容は「妻と子供の居場所は分かっている」との内容であった。それからほぼ毎日「子供と会う機会を設けるように」「離婚する前でないと意味がない」などと面接交渉をしきりに要求する電話が夫からかかってきた。

 時期を合わせて,依頼者本人の携帯電話にも相手から電話が来ていたようである。

 当職は,外出の際には気をつけるように,と注意をしていた。

 そして,ある日,当職が夫に対しいつものように「離婚を前提にすれば,面接交渉を行える」というと,夫は「そんなことばかり言っているとこっちにも考えがある」と述べ電話を切った。

 それからしばらく電話のやり取りがなくなった。

5 事件

 事件はその数週間後,今年の2月,真冬の頃に起こった。

 事務所 の電話が突然鳴った。受話器の向こうから鳴き声とも叫び声とも聞こえる声がした。「○○です。・・・・子供が連れ去られました。」との声,それは例の依頼者からであった。当職はその電話を受け,地元の警察署に走り,その場で夫を逮捕するよう警察に求めた。

 夫は,会社帰りに依頼者が母子で歩いているところを,後ろから長女を抱えて,走り去り,連れ去ったのである。しかし,幸運なことに,近くを歩いている市民の方が夫の居場所を伝えてくださり,追跡のため自転車を貸してくれた方もいて,なんとか追いつくことができ,警察に夫は取り押さえられ,長女は戻ってきた。

 間一髪であった。

 6 その後

 結局,夫は「子供に会いたかっただけだ」と警察署で言い張り,そこに同情されたこともあって逮捕は免れた。しかし,この一件で離婚をせずに面接交渉をすることなど,もはや全く期待できない状況になった。依頼者は事件の翌日,別居先を後にし,市の母子保護シェルターに避難をした。

 夫は3月,突然調停を一方的に取り下げて,調停は不調で終わった。

当職は今,離婚訴訟を提起している。もうしばらく,面接交渉をする機会はなかなかもてないだろう。夫の実力行使は何も生まなかったのである。

7 思うこと

 本件は調停中に夫が実力行使で子を連れ去ろうとしたという特異なケースである。しかし,特異な事例として片づけることはできない,幾つかの教訓がある。

 もし,夫に代理人がついていたら,調停の中でこちらが提案していた,離婚を前提とする面接交渉というものが最善だったことが理解されたのではないかと思う。法テラス等による弁護士代理の一層の拡充の必要性を痛感するものである。

 他方,度々示していた夫の不審な態度から,依頼者にもっと強く警告をしていたら,このような事件は避けられたのではないかと思うことは率直な反省点である。

 また,夫は,調停員や周囲からは,決して暴力を振るう粗暴な人間と思われなかったようである。このようにDV被害は対外的にはすぐに理解されないこともあり,つい警戒心が鈍ることもありうる。代理人としてDV案件に取り組む際に常に依頼者や子供の安全に気を配ることの重要性を痛感する。

 最後に,今一番気がかりなことは,今後,無事離婚訴訟が成立し,さらに時間が経って,いつか長女が大きく成長したら,長女は父親と会いたいと言ってくれるだろうかという点である。

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