弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

相手の求めていたもの

2009年08月01日 離婚

1 はじめに

 弁護士会の家庭法律相談センターには、さまざまな法律相談が寄せられます。これらの相談について、弁護士が法的アドバイスをすることにより、解決に向かう事案が多くあります。

しかし、今日は、法的アドバイスが問題解決に直接つながった事案ではなく、相談者が相手の求めていたものに気付いたことにより解決に至った事案についてお話ししたいと思います。

2 離婚相談に来た方へのアドバイス

 以前、家庭法律相談センターにおいて、離婚についての相談を受けました。相談者は、35歳の男性です。相談内容は、「離婚自体については合意しているものの、財産分与、慰謝料の金額で合意に至らない。早期に離婚を成立させるため何かよい方法はないか。」というものでした。

財産分与、慰謝料の額の算定については、いずれも一定の計算方法などの基準はありません。夫婦間で金額の合意に至れば問題ないのですが、そうでなければ離婚訴訟等において裁判所で判断されます。財産分与は、夫婦が共同して形成維持してきた財産を分けるもので、その割合は、特別の事情がない限り2分の1になります。また、慰謝料が支払われる場合、その額については、婚姻関係破綻についての責任の大きさ、請求者の受けた苦痛の程度、未成熟子の有無等により異なりますが、200万円から300万円あたりの金額になることが多いようです。

 妻の希望していた財産分与等の金額を検討したところ、妥当と思われる金額であったことから、相談者にそう伝えました。すると、相談者である夫は、金額面について安心したようでしたが、なお浮かない顔をしていました。

事情を聴くと、金額面だけでなく、相談者が準備した離婚協議書の文言について、妻の実父から、いくつもの修正を求められているというのです。そこで、離婚協議書の文言を確認すると、妻の実父が求めていた文言の修正は、法律的には問題のないものばかりでした。その旨を相談者に伝えたのですが、相談者は、協議書の文言を実父の言うとおりにしても離婚させてくれないのではないかと、なお不安に思っているようでした。

一般的に離婚に至るまでは、双方が精神的に相当疲弊し、感情的になる方も多いようです。妻とその実父も、離婚に至る経緯に納得できない点があるそうで、相当感情的になっているようでした。

そこで、私は、相談者である夫に対し、早期に離婚を成立させるには、妻の実父に直接会って離婚に至る経緯などについて妻の立場も考慮しながら説明し、場合によっては、妻を幸せにするという約束を守れなかったことについて残念に思っている気持ちを伝えたらどうかというアドバイスをしました

後日、相談者より、私の事務所に電話がありました。妻の実父のところへ謝罪等に行ったところ、直ぐに離婚成立に至ったというのです。しかも、財産分与等として支払う金額は減額されたそうです。

妻とその実父が求めていたのは、財産分与等の金額ではなかったのです。

3 婚姻費用分担調停の相手方による謝罪

次の例は、夫との別居を開始した妻から依頼された事件です。

妻は、夫の子供に対する暴力が理由で子供と家を出た後、私の事務所に相談に来ました。妻は、夫との離婚を希望していたものの、直ぐに激昂する夫と話し合うことができず、私に離婚交渉等を依頼したのです。

私たちは、夫に対し、離婚調停と婚姻費用の支払いを求める調停を申し立てました。

夫は、調停を申し立てられて感情的になったのか、夫婦関係の円満を求める調停や、同居を求める調停、子供との面会を求める調停を次々と申し立てるなどし、妻が希望する離婚に向けた話し合いを進めようとしませんでした。それだけでなく、感情的になった夫は、調停を何回か無断で欠席したり、出席した際にも調停委員らに筋のとおらない主張を繰り返しました。

その結果、調停申立時から約10ケ月が経過したころ、離婚調停は不成立に終わりました。

また、婚姻費用についても、妻の希望額と夫の認める金額に開きがあったため、調停は不成立となり、手続は審判に移行しました。裁判所の判断により、妻が希望していた金額が認められたのですが、これに納得しなかった夫は、高等裁判所に不服申立をするに至りました。

高等裁判所へ出頭する期日も決まり、その準備をしていた頃のことです。相談者である妻から、私に連絡がありました。妻によれば、夫が不服申立を取り下げるというのです。詳しく事情を聴くと、夫が妻の実家へ、夫婦関係がうまくいっていないことについて頭を下げにきたというのです。その際に、妻の両親も交え、夫との間で、婚姻費用の金額、子供との面会、今後の夫婦関係について話し合い、合意に至ったということでした。

妻が求めていたものは、冷静に対応できる夫との話し合いだったのではないでしょうか

4 最後に

家庭に関する法律関係の対立の背景には、感情的な対立をしばしば見受けますが、それを解消することにより、法律的問題が解決に向かうことがあります。

そして、感情的な対立を解消するには、まず相手の求めていることを深く考えてみることが必要なのではないでしょうか。もっとも、法律問題に悩んでいる当事者には、冷静な検討が期待できないかもしれません。

 弁護士による法律相談が、法的知識をえる機会だけでなく、相手の求めていることに気付くよい機会となるかもしれません。弁護士は、その経験に基づいて、法的問題解決のため、法律知識だけでなく多様なアドバイスができる場合がありますが、それが法的問題解決の糸口になることもあるのです。

以上

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