弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

子供の奪い合い

2006年10月01日 離婚

1.夫婦が離婚するにあたって、大きな問題となることの一つに子の親権・監護権があります。
  親権者・監護権者の決定については、離婚の際に調停や裁判で決せられることになりますが、「親権」「監護権」という法律上の概念はさておき、離婚する当事者にとっては、「どちらが実際に子供を自分の下で育てるのか」はとても重要な問題になってくると思います。
  離婚自体はやむを得ないと納得できたとしても、我が子に会えなくなってしまうということは親としては非常に辛いことだと思います。それゆえに、たとえば妻が子供を連れて実家に帰ってそのまま別居状態、というような場合に、思い余って実力で子供を連れてきてしまう・・・というような当事者も少なからずいるようです。

しかしながら、近時このような事件についてのニュースが報道されていますのでご存知の方も多いかもしれませんが、相手方の了承を得ずに実力で子供を連れ去ってしまう行為は、刑法第224条未成年者略取誘拐罪として3月以上7年以下の懲役刑が科される刑法上の犯罪なのです。
いくらわが子が可愛いから、会いたいからといっても実際に監護している人の了解を得ずに連れ去ってしまう、というようなことがあってはなりません。

2.このような連れ去りについては最高裁もその違法性を指摘しています。
  まず、最高裁で問題となった事案ですが、夫Aが、別居中の妻Bの下で養育されているC(当時
2歳)を、保育園に迎えに来た妻Bの母Dのスキを突いて自己の自動車へCを乗せ、Dの制止も聞かず走り去ってしまった、その6時間後Cと共に自動車内にいたAが逮捕され、未成年者略取罪で起訴され、懲役1年執行猶予4年という判決が下されことに対してAが不服を申立てたというものです。
   注目していただきたいのは、AとBは離婚調停中ではあるものの未だ離婚は成立しておらず、Aにも共同親権が認められる状況であったことです。最高裁は「未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり、親権者の一人であるということはその行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情」とし、「本件行為につき、違法性が阻却されるべき事情は認められない」として上告を棄却しました(最高裁平成16(あ)第
2199号)。
 また、その補足意見では「たとえそれが親の情愛から出た行為であるとしても、家庭裁判所の役割を無視し、家庭裁判所による解決を困難にする」と述べられ、このような実力行使を許しませんでした。

3.では、最高裁が言うような「家庭裁判所による解決」とはどのようなものがあるのでしょうか。
 いくつかの方法はありますが、離婚がまだ成立していない状況で相手方の下にいる子供を自分のもとに連れてきたいという場合には、子の引渡しを求める家事審判によることとなるでしょう。
 この審判においては、仮に子の引き渡しを求める審判前の保全処分も認められています。

しかしながら、実効性という面では十分とは言えないのが問題でした。
 すなわち、審判で「子を引き渡せ」という結果を得られたとしても、相手方が素直に裁判所の指示に従えばいいのですが、そうではない場合が問題となります。
 この点、例えば
AさんがBさんに花瓶を売ったところ、Bさんがお金を払ったにもかかわらずAさんがその花瓶を引き渡さない、というような場合であれば、「ABに花瓶を引き渡せ」という判決がでたならば、仮にAさんがその判決に従わなかったとしても、強制執行という手段によってBさんは花瓶を自分の手元に置くことが可能となります。
 ところが、子の引渡しの場合は、花瓶ではなく人格を持つヒトの問題です。
 それゆえ従前は、子供を花瓶のようなモノと同一には考えられないから判決の内容は間接強制によって実現するしかない、と考えられていました。
 
Aさんのもとにある花瓶を持ってきてBさんへ渡す、という執行方法を直接強制と言いますが、間接強制とは、子供を引き渡さないのならば引き渡すまで○○円を支払いなさい、と命じることによって金銭的・心理的プレッシャーをかけて当事者に子供を引き渡すように促す、という執行方法です。
 しかしながら、お金がある人であればまったくプレッシャーにならないでしょうし、お金がない人であれば却って「ないものは払えない」と開き直るだけで子供を引き渡さないということも考えられます。
 また、引渡しを求めている当事者は、お金が欲しいのではなく子供の引渡しを望んでいますから、このような間接強制では結局子の引渡しについて実効的な解決ができないという批判が強かったのです。

そこで、このような批判を受けて、近時家庭裁判所では子の引渡しについて、積極的に直接強制により審判結果を実現していこうという姿勢を打ち出しているようです。
 上記最高裁判決が「家庭裁判所という紛争解決機関があるのだから実力行 使は許さない」として実力による子の奪い合いを刑事罰でもって処罰するというのであれば、家庭裁判所を利用して勝訴すれば確実に子供の引渡しがなされるという結果が保証されていなければならないはずです。
 「裁判所で勝訴したけど子供が戻らなかった、だから実力で子供を連れ去った」ということのないように、裁判所の積極的な役割を望みたいと思います。

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