弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

離婚と借金~具体的事例を通じた雑感①

2006年08月01日 離婚

 総 論

 最近離婚の相談が増えてきていますが,その中でも,「借金」が離婚の原因の一つとなっているケースが増えています。

相談者が借金をしてしまった場合もあれば,相談者の配偶者が借金をしてしまった場合もありますし,夫婦共々借金をしてしまった場合もあります。 借金が露見して仲が悪くなった場合もあれば,元々他の原因で仲が悪くなっていたところに借金の問題が付随している場合もあります。

また,未だ配偶者に借金が露見していないが,露見したら離婚させられてしまうと怯えている相談者も多いです。このような相談者の一番の関心事は借金について債務整理をした場合に,配偶者に知られる心配が無いかどうかですが,これについては,次回お話しします。

借金の原因は,パチンコ・競馬等のギャンブルやキャバクラ等の飲み代といった浪費が多いですが,単に旦那の稼ぎが悪いから生活費に困ってという場合もあります。

確かに,借金を重ねて,その支払のために家計の資金繰りが悪くなり,支払が滞って債権者から督促の電話や郵便などが頻発すると,夫婦間に不信感が生まれ,夫婦の関係がギスギスしてしまいます。過去に実家の両親などにお願いして一括弁済してもらったのに同じことを繰り返してしまったような場合は尚更でしょう。

しかし,借金の問題で実家をも巻き込んだ騒動になってしまったことがあるような人でも,「弁護士に依頼した経験」まである人は,そう多くはありません。この様な場合,弁護士に借金の問題を法的に解決してもらうことをきっかけとして,その手続の中で夫婦の信頼関係や愛情を取り戻し,元の仲良し夫婦に戻れる場合も大いにあり得るところなのですが,相談者は一般的に債務整理(破産や任意整理)等の法律的な知識がないため,諦めてしまい,借金の問題はそのままに,もはや離婚しか途がないと考えてしまうことが多いようです。

離婚や債務整理に関する相談を多く扱う弁護士の立場からすれば,借金の問題さえ無くなれば夫婦が仲良くなる余地があるのであれば,また,幼い子がいるようなケースであれば,今まであった色々なしがらみや感情を取り敢えずリセットして(借金の問題を抱えた配偶者に最後のチャンスを与え),出来る限り離婚は避けたほうが良いと思えます。

ただ,「離婚の法律相談」ということで弁護士に相談した場合,相談時間が区切られている関係上,どうしても離婚プロパーの相談に止まってしまう場合もあり得ますので,夫婦の本質的な問題をよくよく把握された上で,「仲良し夫婦」に戻るために「借金の法律相談」(弁護士会のクレサラ相談)をされることも視野に入れるべきだと思います。

以下,離婚と浪費・借金の問題について,まず,一般論として,離婚事由と借金の関係を述べたうえで,いくつかの具体的事例を検討し,更に問題となり得る点を考えてみたいと思います(全2回)

2. 離婚事由と浪費・借金

民法上,浪費・借金は,直接的な離婚原因として規定されていません。

しかし,浪費・借金がもとで夫婦間の言い合いが続き,夫婦間の愛情や信頼関係が崩れてしまったような場合,民法770条1項第5号「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し,離婚原因となることがあり得ます。この場合,借金の問題を抱えた配偶者に対して,他方の配偶者が離婚請求できることになります。

3. 具体的事例

(1)Aさん(女性・36歳・専業主婦)の夫(40歳・会社員)は,結婚当初から暇さえあればパチンコ,スロットばかりやっていて,あまり生活費を入れてくれません。それどころか,Aさんに内緒で消費者金融から何百万円もの借金をしているようです。
 消費者金融からの督促の電話がAさんの自宅にまで頻繁にかかってくるようになったので,Aさんは怖くて,夫の実家に相談したところ,夫の両親は夫のために借金を全て代払いしてくれました。夫は一人っ子で,両親から過保護に育てられてきたようです。
  Aさん夫婦には3歳の子がいますが,子は夫にとても懐いています。Aさんとしては,無駄遣いばかりしている癖に子にはベタ甘な夫の態度も身勝手に思え,腹を立てています。Aさんは,子供のためにも夫に真っ当になって欲しくて,何度も強く注意してきましたが,夫はその時はしおらしくしているものの,また暫くすると同じような生活を繰り返します。
 一度借金の代払いをしてもらっている夫の両親にも,もう相談できません。もちろんAさん自身の両親にも恥かしくて相談などできません。Aさんは,自分がパートに出てでも子を引き取って離婚しようと決意し,甲弁護士に夫との離婚について相談しました。

 

甲弁護士は,感情を剥き出しにして夫を非難し続けるAさんのお話をゆっくりと聞いているうちに,Aさんの本心は「離婚したい。」ということではなく,「夫に立ち直って欲しい。」ということであることが分かりました。そこまで聞き出すだけでも30分はあっという間に経過してしまいました。
 甲弁護士は,Aさんに対して,離婚請求から離婚成立に至るまでのプロセスとそのメリット・デメリットを説明したうえで,更に,債務整理(破産・任意整理等)の説明をし,夫が経済的に立ち直ることが可能であることを説明しました。そして,もう一度夫とよく話しをして,最後のチャンスを与えてみてはどうかと提案しました。

後日,Aさんは夫と子を伴って再度甲弁護士のもとを訪れ,夫はAさんが隣にいる場で,自分の借金の原因や浪費の内容を甲弁護士に話しました。Aさんにとっては初耳の内容もありましたし,自分の想像以上に借金は多額でした。
 夫はAさんからの冷たい視線や大きな溜息に何度も凹みそうになりながらも,甲弁護士に促されるままに話を続けていました。子は両親が相談している最中,キャッキャ言って遊んでいましたが,そのうちに眠ってしまいました。 
 甲弁護士は,事情聴取した夫の収入や財産に鑑みると借金の額が多過ぎ,支払不能状態となっていましたので,破産の手続が相当であると考えました。そして,借金の原因にパチンコという免責不許可事由があるため破産管財人を就ける手続によることにしました。

甲弁護士は,夫に対して,Aさんの協力のもと毎日コツコツと家計簿をつけ,毎月甲弁護士のもとに送付することを約束させました。 これにより,夫はAさんと甲弁護士の監視下において無駄遣いすることなく自己の収入の範囲内で生活する訓練ができるようになりました。
 また,甲弁護士は,夫に対して,自分がパチンコを理由として借金をしてしまった経緯(時系列)と,どうしてパチンコをやめることが出来なかったのかその原因を詳細に記載させ,更に,将来パチンコをやめるために自分が何をするべきかその手段を検討させました(ストレス解消がその原因なら,スポーツや趣味など別のストレス解消方法を検討させるなど)。そして,妻や子供や自分の実家に対して,迷惑をかけ続けたことに対する反省文も書かせました。

夫は,それまではAさんの言うことなど聞かず,自分勝手に暮らしていましたが,甲弁護士の存在があるため,神妙な面持ちで反省の弁を述べ,Aさんも夫が立ち直ってくれることを期待できるようになりました。

夫は,その後,何度かお金の使い方や管理に関してAさんとイザコザがあったものの,その度にAさんからの連絡を受けた甲弁護士が夫に督励し続けました。夫も直接Aさんに言えなかった悩みや本心を甲弁護士を通じてAさんに知ってもらうことができました。
 夫としても心の中では立ち直ってAさんからの信頼を取り戻したいと思っていたものの,きっかけをうまく掴めず,自暴自棄になっていた節があったようです。夫は数か月後,無事に破産・免責手続を終えることができました。

手続終了後,Aさん夫妻は子供連れで甲弁護士のもとを訪れ,今回の手続を通じて夫婦が協力して家計を管理することやお互いに思っていることをぶつけ合うことの重要さを痛感し,何よりも離婚を避けられた幸せを噛み締めていると述べておりました。
 甲弁護士も,子供の頭を撫でながら,本当に良かったなぁと思いました。

今回の事件が,仮に離婚事件として双方に弁護士が就いてしまったとしたら,このような解決には至らなかったでしょう。
 事案の本質を見極めることは相談を受ける弁護士の能力・方針・価値観に拠るところ大ですが,注意深く相談者のお話を伺いながら,押し付けにならないように適切な法的処理を選択することが大切であると思います。

~以降第2回~

3.具体的事例(2)(3)
4. 問題点(双方受任の場合の利益相反等)

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