弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

離婚にともなう財産分与

2006年03月31日 離婚

 離婚をするときにはお金のやり取りがなされることが多くあります。
 「慰謝料」という言葉でひとくくりにして話がなされることが 多いのですが,離婚のときに支払われるお金には法律的には3種類の意味があるといわれています。
 1つめは,言葉どおり相手方の行為によって被った精神的苦痛を慰謝するために支払われるものです。離婚の原因が夫の不倫であるような場合に,それによって精神的苦痛を被った妻の精神的苦痛をお金で賠償するのです。
 2つめは,財産分与といわれるもので,結婚をしている間に形成された財産を離婚にあたって清算するために支払われるものです。夫婦がお金を出しあって家を買ったときにこれを夫と妻が分け合うためにお金のやり取りをすることになります。
 3つめは離婚後の扶養のために支払われるものです。妻が専業主婦で高齢であるような場合には,離婚後に自分で収入を得て生活をしていくことが困難であるため,離婚後の妻の生活費を負担することがあります。

今回は,これらのうち,財産を清算する性格を有している財産分与についての話です。

 Aさん夫婦はそれぞれに仕事を持っていて,最近では妻の収入の方がAさんの収入より多い場合もありました。Aさん夫婦には子どもがひとりいて幸せに暮らしており,Aさんは自分が離婚することになるなどとは思ってもいませんでした。
ところが,Aさんの妻は,突然Aさんに離婚をしたいと言ってきたのです。Aさんは自分の給料が振り込まれる銀行口座の通帳を妻に預けており,Aさん夫婦の生活費はその銀行口座から全額支出されいました。
 Aさんは妻を信頼していたので,Aさん名義の銀行口座の残高や預金の使われ方をあまり気にしていませんでした。それなので,Aさん名義の銀行口座から引き出されたお金が生活費以外にも使われていた可能性があります。
 Aさんの妻も仕事をしていましたが,妻に収入がなかった時期に妻に通帳を渡してから,Aさんの妻が多額の収入を得られるようになったのちも,妻がAさんの通帳を預かっていて,Aさん名義の銀行口座から生活費全額が支出される状態が続いていました。
 妻から離婚の申出がなされたときには,Aさん名義の銀行口座にはほとんど預金が残っていませんでした。他方で,Aさんの妻は自分名義の銀行口座を複数持っていて,これらの銀行口座には数百万円単位の預金が残っていました。

 Aさんの妻から離婚の申出がなされたもののAさんは離婚をしたくなかったので断ったところ,Aさんの妻は調停の申し立てをし,調停では離婚についての話し合いがまとまらなかったために,離婚を求める裁判を起こしてきました。
 裁判になった時点で,Aさんも妻に対して慰謝料の支払や財産分与を求める裁判を起こしました。
 この裁判でAさんは妻名義の預金も財産分与の対象にするべきだと主張して妻に通帳を提出するように求めました。ところが,Aさんの妻が提出してきた通帳は数百万円あった預金が引き出されていて残高が少ししか残っていないものでした。
 Aさんの妻は,調停を申し立てるころから預金を引き出していたのです。

そもそも夫婦一方の名義の預貯金は財産分与の対象になるのでしょうか。
  結婚後,夫婦がそれぞれお金を出し合って共同の名義で取得した財産が分与の対象となることは間違いありません。また,夫婦が結婚をする前からそれぞれ有していた財産が原則として財産分与の対象にならないことも争いがありません。
 それでは,夫婦の一方の名義になっている銀行預金の場合はどうなのでしょうか。

  民法762条1項では「夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は,その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。」と定められています。
結婚後に生活費を支出するために作った口座であれば,たとえ夫婦の一方の名義になっていたとしても実質的には夫婦の共有財産として財産分与の対象になると考えられます。
他方で,Aさん夫婦のような場合,夫婦のそれぞれの名義の預金口座には,それぞれが仕事をして得た収入が入金されているので,原則として特有財産として財産分与の対象にならないと考えられます。
しかし,妻が専業主婦であるときに結婚している期間中に夫名義の預金が増えたのは,妻が家事労働をしてくれたおかげで,夫は仕事に専念できて収入が増えたり,余分な支出をしなくてすんだからと考えられます。また,Aさんの場合には,専らAさんの銀行口座から生活費などが支出されていて,Aさんの妻は全く生活費などを負担しなかったため,Aさんには預金が残らず,Aさんの妻には多額の預金が残ったのです。

  このような事情があれば,財産分与の額を算定するにあたり夫婦の一方の名義になっている銀行預金についても考慮されることに なります。Aさんの妻は自分の預金が財産分与の対象とされないように預金を引き出したのでしょうが,財産分与の額は,最終的な残高だけではなく預金が減少した理由についても考慮したうえで決められることになります。

また,夫婦は結婚生活をしていく上で生ずる費用(婚姻費用)を分担しなければならないことになっています。
妻が専業主婦であれば,婚姻費用を負担するのはもっぱら夫になるでしょうが,Aさん夫婦のように妻にも相応の収入がある場合には,妻に対しても婚姻費用の分担を求めることができるのです。
ところが,Aさん夫婦の場合には,妻にも相応の収入があったにもかかわらず,婚姻費用はもっぱらAさんが負担していたのです。このような場合に,財産分与に際しては,Aさんが負担をし過ぎていた婚姻費用の額を考慮することができるというのが判例の考え方です。
この考え方に基づけば,Aさんは本来妻が負担するべき婚姻費用を財産分与として請求できることになります。

さて,Aさんの場合には,離婚の裁判で妻からある程度の金額の支払を受けるという内容の和解をしました。
この金額が決まる過程で,Aさんの妻が負担するべき婚姻費用について,Aさんが大変な努力をして婚姻費用の一覧表を作成して裁判所に提出した結果,裁判所にも理解をしてもらえました。
この裁判では,その他の事情もあって,妻名義の預金についてはあまり話題にならないままで和解をすることになり,妻が引き出した預金がどうなっているのかは明らかになりませんでした。
このため,Aさんは,和解をしたあとも,妻名義の預金のことについて少しだけ後悔が残っているようです。

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