弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

甘えん坊亭主の離婚訴訟

2005年07月01日 離婚

―― 駄々をこねる道具に裁判所を使った話
  

 夫婦、親子など親族関係や相続関係その他の 家庭に関連する法律問題紛争については、裁判をする前に、先ず調停をすることになっています。
家庭に関する事柄は、裁判で決着するよりは、話し合いで円満合意して解決するのが望ましいからです。

 ところが、これらの紛争では、親類縁者相互間の争いだけに長い年月のいろいろな経緯 が絡み合っているため感情的対立が激しく、話し合いで解決するのが容易でないものが少なくありません。

 或る相続争いの遺産分割調停では、相続人の一人で常々他の相続人達から侮辱され粗略に扱われてきた男性とその妻は、今までの報復をすると露骨に述べ「これまでジッと耐え忍んできた。この日の来るのを待っていた。」と宣言して、他の相続人の希望する遺産の配分方法にことごとく反対しました。こんな極端な事例もあるのです。

 離婚事件の調停では、裁判官も調停委員も先ず始めは、円満な夫婦関係を回復することを目標に、離婚を求める当事者本人の説得に努めるのが普通です。
  しかし、離婚問題の話し合いでも、一旦こじれた夫婦関係を元のさやに納めるのは至難の業です。こじれた原因が親兄弟姉妹の関係や経済上の問題だけなら調整の仕様もありますが、いろいろな経過があって愛情が消え去り結婚相手の顔を見るのもイヤになってしまったら、相手のすべてが、例えば頭髪が薄いのも、脚が太いのも我慢ならないということになります。

  教員同士で恋愛結婚をした夫婦の一方が強硬に離婚を求める事件がありました。
その人に対し裁判官が「愛し合って結婚したのでしょう。その時の気持、愛情を思い起こして下さい。」と語りかけても、「若気の過ちで大変な気の迷いでした。なぜ愛してしまったのか、今では不思議です。」と答え、取り付く島もありませんでした。このように、すでに愛情など雲散霧消した深刻な事例では説得にも限界があります。

 まれな事例ですが、突然わけの分からないまま、円満解決し元のさやに納まった(らしい)離婚請求事件がありました。(らしい)というのは、この事件尻切れトンボに終わったのです。

 赤ちゃんのいる若夫婦の話です。法律には全く素人の夫から、妻を相手に離婚を求める訴状が裁判所に提出されました。
  素人ながら自分で書式など調べて書いた訴状です。離婚の原因として、いろいろ怪しからん(と夫が考える)妻の行動が事細かに強い口調で書き連ねてありました。

 この訴状を読んだ担当の裁判所書記官は、何となく普通と違う感じがして、首をかしげました。妻の怪しからん行動をまとめてみると、結局、妻の関心も愛情もまだ乳児の我が子だけに向けられ、夫に対しては関心を失っているということになるが、これが離婚の理由になるのかなと。しかし、調停の申立てを経ないで、いきなり訴状を出した夫の鼻息の荒さも相当なものでした。

 この手続は、先ず家事調停に移され、夫婦の生活歴や心理状態などを家庭裁判所調査官が調査することになりました。ベテランの調査官が担当し、夫と妻に別々の日に面接しました。
  夫は激しい怒りを示して妻を非難し、妻は「うちの人は言い出したら聞かない人なので、したくないけれど離婚するしかないでしょう。覚悟しています。」と述べたとのことです。
  妻は、さほど遠くない所にある実家に子連れで戻ったとか、往ったり帰ったりとか、住居の点はなぜか曖昧です。

 面接調査は一度ならず行われました。面接の日時は、相手方には知らせないのが通例で、この件でも夫は妻の面接日を知らないはずでした。
  ところが、その日の面接を終わった妻が裁判所の玄関を出て門に向かっているとき、夫の運転する車が入って来たのです。これを事務室の窓から目撃した調査官は、あわてて部屋を飛び出し玄関口に向かいました。妻が夫から乱暴されることを心配したのです。玄関口まで来ると、夫が車に妻を押し込んで運転して出て行くのが見えました。

 それから何日もしないうちに、その夫婦が二人で揃って現れ、離婚訴訟の取下げ書を提出して帰りました。即時に内線電話で担当書記官から連絡があり、調査官が窓から外を眺めると、夫婦二人仲良くオテテツナイデ帰って行くではありませんか。「めでたし、めでたし」です。

 なんのことはない、この夫婦の亭主の男性は、愛する女房が自分達の赤ん坊の方ばかり向いているのが気に入らず、「ボクもボクも」と駄々をこねる甘えん坊亭主だったというわけ。

 それにしても、いきなり訴訟提起とは過激な。でも、結構効果的な刺激だったのかもしれません。しかし、牛刀で、鶏を裂くどころか、キャベツを刻むようなもの。調停の申立てをすれば、もっと費用も安上がりだったでしょうが、この程度の夫婦間の摩擦では、オノロケみたいになり、この男性照れくさかったのでしょう。

 こんな裁判所の利用方法もあるのかと、実は、感心したのです。
振り回された担当職員には迷惑かもしれませんが、利用し易い裁判所という面から見れば、国民に親しまれ、どんな小さな悩み事にでも、ゴヒイキにして頂けるなら有難いはずです。

  家庭裁判所では、家庭に関する差し迫った法律問題について、担当係を置いて相談に応じています。
   しかし、前述の甘えん坊亭主のように大胆な人ならばともかく、一般の人には、やはり裁判所は敷居が高いと感じるのが普通でしょう。そういう方々は、紛争が大きく発展した問題は勿論、こじれる前の小さな事でも、公的な団体である弁護士会が運営する当家庭法律相談センターにお気軽にご相談ください。

一覧へ戻る
一覧へ戻る