弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

夫の暴力を理由に離婚が認められた事例 その②

2005年02月24日 離婚

離婚判決の取得と慰謝料等の取立てについて

 花子さんが弁護士に依頼して離婚訴訟を提起したところ、夫の方も弁護士に依頼をしました。
夫側から提出された答弁書には、花子さんとの離婚には全面的に反対であること、夫が暴力をふるったのは事実だが、その原因は花子さんの態度にあったこと、すなわち、花子さんが離婚するために夫を挑発するような言動をして夫が暴力を振るうように仕向けてわざと暴力を振るわせているのだとの反論が書かれていました。又、子供達の親権者には夫がなりたいとも主張してきました。
 裁判官は、両方の言い分が出そろったところで、和解による解決ができないかどうか、双方の言い分を聞きました。
そして、花子さんの離婚の決意が固いことを確認すると、夫の方に離婚に応じたらどうかと説得をしました。しかしながら、夫の方も絶対に離婚をしたくないと言い張ったため、結局和解をすることは無理だと判断されました。
そのため、花子さんの離婚請求が法律的に認められるかどうか、つまり、民法に規定された「離婚原因」があるかどうかを証拠によって調べることとなりました。
裁判では、まず、書類の形で提出することができる証拠(書証)を出します。
花子さんの方からは、夫の暴力やこれまでの家庭生活の状況については花子さんの作成した陳述書を、その他に家族の写真や、購入したマンションに関する資料、子供達のために積み立てていた学資保険の証書・明細書、夫の退職金に関する規程や資料を書証として提出しました。
夫の方からは、花子さんの陳述書に反論するような形で、家庭生活の様子や暴力を振るってしまった時の事情に関する陳述書と、子供達とスポーツや旅行をしているときの写真などが書証として提出されました。
 さらに、裁判の当事者である花子さんと夫の両方を裁判所で尋問することになりました。
 裁判所での尋問で、花子さんは夫から受けた暴力について詳細に説明し、いかに恐怖に感じたか、これ以上一緒に生活していくことはできないと考えている理由などを率直に述べました。夫の方は、花子さんも夫に対して暴力的な行為があったことや、花子さんの態度が夫に対して挑発的だったことなどを述べました。又、夫が子供達を可愛がっていたことなども説明しました。
 以上のような手続きの結果、夫から花子さんへの暴力があったとして、花子さんと夫との離婚を認める判決がなされました。また判決では、子供達の親権者を母親である花子さんとし、夫には子供達が成人(20歳)に達するまで1人あたり月4万円を養育費として支払うように命じました。さらに、慰謝料としては220万円、財産分与としては250万円が相当であるとし、合計金470万円の支払いを夫に対して命じました。

 婚姻費用(結婚している間の生活費)  
 ところで、花子さんがマンションを出て以降、夫は一度も花子さん達の生活費を払っていません。花子さんは派遣社員として働いていましたが、その給料では借りていた部屋の家賃を払うのが精一杯で、生活費は実家に援助してもらっていました。実家の父親もすでに退職して年金生活でしたので、いつまでも生活の面倒を見てもらうわけにはいきません。
正式に離婚すると種々の福祉手当が受けられるので、実家に頼らずに生活して行けそうでしたが、離婚訴訟の方は、夫の対応によっては結論が出るのにかなり時間がかかることもあります。そのため、離婚訴訟の提起と前後して、「婚姻費用」の請求を家庭裁判所に申し立てることにしました。
 婚姻費用の請求も、まず調停手続きから始まります。夫は、子供に会わせろ、と言うばかりで、生活費として毎月いくら払うかという点について具体的な話は全く進みませんでした。そのため、調停での合意ができそうもないため、「審判」手続きに移行することになりました。
審判では、花子さんと夫の収入や生活の状況について提出した資料に基づいて裁判官が支払うべき婚姻費用の金額を決定します。その結果、夫が花子さんに支払うべき婚姻費用は、毎月19万円であること、又、花子さんと夫が別居を始めてから審判がされるまでの1年あまりの期間の未払いの婚姻費用として約230万円を支払わなければならないとの審判がなされました。

  給料の差押え 
 花子さんは、離婚判決が確定するとすぐに離婚を役所の戸籍係に届け出、夫と離婚することができました。
 しかし、夫は、離婚判決で命じられた養育費、慰謝料及び財産分与や、審判で命じられた婚姻費用といった金銭を全く支払おうとしませんでした。そのため、強制的な法的手続きで取り立ててもらうしか方法はありません。
  判決を強制執行するということは相手方の財産を差し押さえることになります。花子さんの元夫の財産としては、現在も住んでいるマンションがありますが、新築で購入したもマンションはまだローンが残っていて、これを差し押さえて売却してローンを返済するのにも足りず、そこからお金を取り立てることはできそうにありません。又、元夫にまとまった預貯金がないことは花子さんがよく知っていました。そのため、元夫から強制的にお金を取り立てるため、給料の差し押さえを申し立てることになりました。
 給料の差し押さえというのは、元夫が勤務先の会社に対して持っている給料請求権という債権を花子さんが差し押さえるという手続きになります。
但し、給料の差し押さえについては法律の制限があり、毎月の手取額の4分の1しか差し押さえることができません。(毎月の手取額が28万円以上の場合には、21万円を超える部分を差し押さえることができます。)
花子さんは慰謝料と財産分与だけでも470万円を請求することができるのですが、元夫の給料が約45万円なので、毎月約24万円ずつしか差し押さえることができません。もっとも、年2回のボーナスが支給されるときには差し押さえることのできる金額は高くなります。(*註1
花子さんは、弁護士に依頼して給料の差し押さえ手続きを取ってもらいました。
すると、裁判所から元夫の勤務先である会社に「差押命令」が送達され、会社は毎月の給料からの差押えられた金額を供託所に供託する手続きを取りました。
  このような場合には、供託所から花子さんの弁護士の事務所へ、半年に一度程度、毎月の供託により約100万円程度の金額が供託所にたまると計算書が送付されてきます。すると、弁護士から花子さんへ連絡があって、花子さんから弁護士に対して印鑑証明書付の委任状を渡し、供託金を受領してきて送金してもらうようにしています。
このような仕組みによって、離婚による慰謝料や財産分与を分割で支払ってもらっているような形になっています。まずは470万円の差し押さえ・取立を行い、その後に未払いの養育費や離婚前の婚姻費用を取り立てていくことになります。
 しかし、弁護士によると、花子さんの元夫のように大企業に勤務している場合には、給料差押えの方法によってきちんと取り立てることができますが、相手が失業してしまったり、転職して勤務先が不明になったり、自営で収入の内容が分からなかったりすると、判決で認められた金銭の支払いを受けられなくなってしまう場合も多いようです。
時間はかかりますが、確実に支払を受けられるのであれば我慢して待つしかないのかなぁ、と考える花子さんです。
                                                                                                    (完)
*註1 平成15年に民事執行法が改正され、養育費や婚姻費用のような扶養義務等に基づく金銭債務については、、差押禁止の範囲が給料の4分の3から2分の1に減少しました。
そのため、扶養義務等については、毎月の給料やボーナスから差押・取立てができる範囲が増えました。

 

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