弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

父子関係

2014年03月01日 親子

第1 はじめに

DNA鑑定の結果,自分が子供の父親ではないと気づいたらどうしますか。

本稿が掲載される数ヶ月前,DNA鑑定の結果,長年養育してきた子供が自分の子供ではなかったという記事が世間を賑わせました。このような場合,道義上どうすべきかという問題は措くとして,法律上,父子関係はどのようになるのでしょうか。

第2 嫡出否認の訴え

まず,父子関係は,母子関係とは異なり,「分娩」という客観的事実によって明らかにすることができないため,妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されます。

そして,婚姻成立から200日経過後または婚姻解消後300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定されます(推定される嫡出子,「嫡出」:婚姻関係にある夫婦から生まれたこと)。

父親が自分の子でないと主張して争う場合,嫡出推定をうけた子については「嫡出否認の訴え」,そうでない子については,「親子関係不存在確認の訴え」によることになります。

嫡出否認の訴えは,「夫が子の出生を知った時から1年以内」という厳しい出訴期間制限があり,「夫」しか訴えることができません。これに対し,「親子関係不存在確認の訴え」は出訴期間制限がなく,法律上の利害関係人であれば誰でも提訴できるという違いがあります。

嫡出否認の訴えに期間制限が設けられている趣旨は,法律上の父子関係を早期に安定させ,子の養育環境を確立し,もって家庭の平和を維持することにあります。

では,子供の出生を知ってから1年以上経過した後に血縁関係がないことが明らかとなった場合,父親が争う手段はないのでしょうか。

判例によれば,「夫が在鑑中や失踪中など妻が夫の子を懐胎しえないことが外観上明白である場合には,例外的に嫡出推定を排除し(推定の及ばない嫡出子),親子関係不存在確認の訴えを提起しうる。」とされています(最判平10.8.31など)。ここで妻が夫の子を懐胎しえないことが外観上明白であるとは,夫婦間に性的関係をもつ機会がなかったことをいいます。

したがって,たとえDNA鑑定によって父親と嫡出推定の及ぶ子との間に血縁関係がないことが判明した場合であっても,夫婦間に性的関係がなかったことを客観的かつ明白に立証できなければ,法律上は父子関係を否定できないことになります。

第3 親子関係不存在確認の訴え

   婚姻前に妻が子を生み,後に夫との婚姻届を提出した場合(推定を受けない嫡出子)には,「親子関係不存在確認の訴え」によって父子関係を争うことになります。

   親子関係不存在確認の訴えには期間制限がないことから,ここでは,「長年にわたる実親子としての社会的実体を,真実の血縁関係に合致しないとの一事で覆滅させるのは不条理である」との法感情と,「血縁関係の正確な表示を所期すべき」とする戸籍制度との利害対立が生じることになります。

   これまでの裁判例によれば,「父子関係は,血縁上の父子関係により成立し,血縁上の父子関係がない場合には,嫡出子としての届出や実親子関係としての長年の生活実体があったとしても,父子関係が成立することはない。」とされています。

他方,戸籍上の両親以外の第三者が親子関係にある子に対し,不存在確認の訴えを提起した事案では,「実親子の生活実体の期間の長さ,実親子関係の不存在を確定することにより関係者の被る精神的苦痛,経済的不利益,改めて養子縁組することにより嫡出子としての身分を取得する可能性の有無,親子関係不存在確認請求をするに至った経緯及び請求する動機,目的等諸般の事情を考慮し,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な結果をもたらすときには権利濫用になる。」として,その請求を棄却しています(最二小判平18.7.7)。

第4 最後に

   「法は家庭に入らず」という法格言にあるように,本来,家庭内の問題について法は関与せず自治的解決に委ねられるべきですが,問題が裁判所に持ち込まれれば,当事者間での合意が成立しない限り,裁判所による後見的法律判断が下されます。

法律は,社会通念を集積したものとして私たちの生活の指針となるものですが,我々を取り巻く全ての問題につき網羅されているわけではなく,そこには狭間があります。その狭間を埋めるために法解釈が必要となり,様々な事例に関する裁判例が集積されていきます。

そして父子関係については,血縁主義を原則としながらも,民法上の親子関係が必ずしも血縁関係と一致するものではない制度であることを根拠に,子の生活実体などの要素を配慮した法的判断がなされることになります。

   戸籍上の父親が,推定を受けない嫡出子に対して,親子関係不存在確認の訴えを提起した事案で,父子関係は,性行為によって卵子が受精したという事実より,その後の父子としての営みとしての事実の方がはるかに価値が高く,被告が原告を父と考え,父としての地位に立つことを求め,原告はこれを拒むことはできないという関係を法律上の関係として保護すべきであるとして,原告の請求を棄却したものがあります(大分地判平9.11.12)。

家庭環境は千差万別であり,家庭内の問題もひとつとして同じものはありません。

私も子供の父親として,もし子供が自分と血縁関係がないとわかったら動揺することは間違いありません。しかし,生まれてきた子供には何の責任もない大人の事情に   よって,子供のその後の人生を惑わすようなことがあってはならないと思います。

以上  

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