弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

親子間の生活費支払契約

2013年11月01日 親子

1.少子高齢化が急進しているわが国では、子が親を扶養せずに親が生活保護などの公的福祉に頼って生活していることが希ではありません。

一方で、子が親を扶養する場合、親子の間で生活費を支払う合意をすることも、それほどまれなケースではありません。

  ところが、実際にその履行が裁判所で争われることはめったにお目にかかれません。

  ここでは、少し古い判決ですが、そのような生活費支払契約が争われた事件(東京地方裁判所平成4716日判決・判例時報1459138頁)をご紹介します。

2.XYの母親で、YXの次男です。XYは、Xの夫でありYの父が死亡した相続に関して、Yが単独相続するとしました。一方で、これと引き換えに、YXと同居することとし、Xの生活費の補助として、Xの生存中合計約1700万円を年賦(初年度は110万円、以後毎年10万円ずつ加算され、15年後の最終年度に99万円)で支払う契約を締結しました。

  ところが、Yは数年間この年賦支払いを行いましたが、その後、支払いをしなくなり、母親であるXYに対して、合意内容に基づく生活費(残金)の支払いを求めたのが本件訴訟です。(なお、本件訴訟では、その生活費支払契約が書面でなされたのかどうかは必ずしも明確ではありませんが、年賦の金額算定等がかなり細かく合意されていることから、書面をもって作成されたものと推測されます。)

3.まず、親子間の扶養義務を規定している法律は、法文上は、民法877条以下に規定された条文くらいしか見当たりません。

  そして、その877条1項で直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務があると規定して、親子間の扶養義務が相互にあることが定められていますが、その具体的内容は、879条により当事者間の協議、それができないときは家庭裁判所が定めるとしています。

  つまり、法律上、親子間で扶養義務があるとは規定しているものの、その扶養義務の具体的内容は明らかにされておらず、一次的には当事者の協議に委ねられており、それができないときに家庭裁判所が介入して内容を定めるとしています。

4.そうすると、本件訴訟の合意契約は、当事者間において扶養義務を具体的に協議のうえ、その内容を定めたものと考えることができます。

  賢明な読者が推測されるとおり、「契約は守らなければならない」の原則通り、本件訴訟でも裁判所は、契約書に基づく支払をYに命じました。また、判決理由中に、被告Yが原告Xに支払うべき「各年の給付額は生活費の援助として特に過大とはいえない」とまで記しています。

5.この判決は結論として妥当とは思われますが、いくつか考えさせる問題を提起しているように思えます。

実生活では、子供が親にいわゆる仕送りをしてその生活を支えるということが見受けられますが、もし、これが法律上どういう性格かを考えると、本件訴訟と同じように扶養義務の具体的な発現である生活費支払契約ということになるでしょう。

その契約内容が法的な効力を認められるために、まず、書面で作成される必要があるかどうかが、問題になると思われます。

  この点について、我が民法は契約一般について書面を要求しておらず、口頭での契約を認める主義ですから、書面による必要は必ずしも存在していないと思います。

しかし、仮にその履行を法的にも強制したいという場合には、後日争いの残る口頭での契約よりも、内容が明らかになる書面による契約の方が遙かに妥当であるということは言うまでもありません。

6.次に、この判決は、判決を導く判決理由中に毎年支払う生活費の金額が過大ではないという認定をしています。

しかし、過大かどうかは一体どうやって決めるのでしょうか。

  裁判所は、諸般の事情で決めるというのかも知れませんが、もし生活費支払契約を締結しようとしたときには、その金額を幾らにしたらよいのか迷ってしまいます。

  私見ですが、結局、支払義務者(扶養義務者)の支払能力、請求者(扶養請求権利者)の生活状況との相関関係によって決まるような気がします。

  ただ、本件のように、相続に関して(扶養請求権利者の相続分を含めて)過分な相続財産を取得した代替に生活費を支払うという経過がある場合には、その過分に相続した相続財産の金額というのも大きな要素になると思われます。

7.もう一つ、本件で気になるのは、XとYが同居することも約束されていた点です。

  この点は、本件訴訟では、問題にされていませんが、巷間例えば長男が残された母親と同居して扶養することを前提に亡父の相続が行われるという例は枚挙に暇がありません。

  そうすると、もしこの同居することを契約したら、同居も扶養義務の一内容となるように思えます。そして、別居したら、債務不履行になるのでしょう。

  しかし、嫁姑の仲が折り合い悪く別居に至った場合なんかはどうなるのでしょうか。あたかもテレビドラマのようですが、考えてみると悩ましい問題を含んでいるようです。

8.弁護士として、相続問題に絡んで、残された実親の介護や扶養が問題になることが多くなっています。一つの解決策は、残された実親自身に相続を集中させるなどして、介護費用や生活費の不安を解消するやり方があります。これが一般的かと思われますが、兄弟姉妹の仲があまり芳しくない場合、誰が残された実親の財産管理をするかで揉めることもあります。

そのような場合、本件訴訟同様に、相続で本来の相続分を超えて相続する相続人に残された親の生活費支払いを義務付けるという解決案も一考の余地があると思います。

ただ、一人の人間としてみた場合、親の面倒を見るという基本的な問題について、そこまで法律が入り込まなければならないのか、少し複雑な思いも生じてしまいます。

以上

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