弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

養子縁組の離縁の効力を争ったケース

2012年02月01日 親子

一旦、養子縁組をした後に、縁組を解消するためには「離縁」という手続きを取る必要があります。

 離縁の方法については、「離婚」と同様に、当事者間の協議によって取り決めて市役所・区役所に届け出る「協議離縁」と裁判所の手続きにより離縁する「裁判上の離縁」の2種類があります。

 以下に、養親が養子に無断で協議離縁届けを提出してしまったが、養親の死後、その効力が争われたケースをご紹介します。

 花子さんは太郎さんと結婚 しましたが、二人の間には子供ができませんでした。

 太郎さんが死亡した後、家族がいなくなった花子さんは、遠い親戚の子供であった愛子さんを養子にしました。当時、愛子さんは高校生だったのですが、素行が悪く、花子さんのお金を勝手に持ち出したり、万引きや窃盗などの非行を繰り返して家出したりしたため、花子さんの手には負えないと考えて、協議離縁をしました。このときは愛子さんも離縁されてもやむを得ないと考えて、離縁することに同意しました。

 愛子さんは、少年鑑別所に入所したりして、花子さんも大変心配しましたが、その後しばらく二人は疎遠になりました。

 花子さんは一人暮らしを続け、愛子さんの方は結婚、出産を経ました。

 協議離縁をしてから20年近くたって、花子さんは高齢になり、病気で入退院を繰り返しているうちに、老後のことが心配になりました。花子さんには、自宅のほかに貸家もあり、お金に困ることはありませんでしたが、自宅での介護や入退院の世話、葬式のことなどを誰かに頼みたいという気持ちが強くなりました。

 そこで、愛子さんに連絡を取り、行き来が始まりました。二人で相談した結果、再度養子縁組することにしました。もっとも、養子縁組した後も、二人は同居するのではなく、花子さんの日常の世話は介護保険を利用して派遣されたヘルパーの人達が行い、愛子さんは夫や子供と住みながら、時々花子さんの家を訪ねて様子を見たり、入院した際にお見舞いに行ったりしていました。

 そうした中で、花子さんが自宅の金庫に入れておいた現金100万円が愛子さんに盗まれるという事件が起きました。以前縁組していた時にも愛子さんが花子さんのお金を持ち出したりしたことがあったため、花子さんは、愛子さんの盗癖が直っていなかったことに大きな衝撃を受けました。

 そこで花子さんは、自分の親族やヘルパーの人達に相談をしましたが、愛子さんは自分がお金を盗ったことを認めませんでした。そのまま、愛子さんは花子さんのところに寄りつかなくなり、行き来はなくなりました。花子さんは、その2年後に病気が悪化して亡くなりました。

 愛子さんは、花子さんの亡くなる直前に病院にお見舞いに行き、葬式にも参列したのですが、戸籍に花子さんの死亡届を提出したところ、自分と花子さんとの養子縁組について協議離縁の届け出がされていることを発見しました。自分は離縁届に署名・押印したことはないので不思議に思い、弁護士に相談して調べてもらったところ、100万円の盗難の話があった直後に、花子さんから離縁届がされていることが分かりました。

 さらに、その協議離縁届のコピーを取り寄せて調べたところ、自分の署名欄には他人が署名して三文判が押印され、花子さんのヘルパーの人達が証人として署名していました。

 愛子さんとしては全く自分の知らないところで作成され提出された離縁届ですので、この協議離縁は無効であることを訴訟で訴えることにしました。

 協議離縁が無効であることを訴える場合、被告になるのは勝手に離縁届を提出した花子さんということになりますが、花子さんはすでに死亡しているので、この場合には検察官を被告として訴えることになります。本件では、東京家庭裁判所の管轄事件ですので、東京地検検事正が被告となりました。(もっとも実際に裁判に出廷したのは検事正ではなく東京地検の別の検察官です。)

 検察官は、本件についての事情を全く知りませんし、調査することも困難です。そのため、花子さんの親族(兄弟)に対して訴訟に参加することを求める申立を行いました。

 花子さんの兄の次郎さんは、参加の通知を受け取って、どうしようか迷いましたが、花子さんの名誉を守るため、また、花子さんの遺産が花子さんを裏切った愛子さんのものになってしまうのは悔しいという気持ちから、訴訟に参加することとしました。

 次郎さんは、協議離縁届に証人として署名したヘルパーの人達から話を聞いてみましたが、花子さんが愛子さんに無断で届け出をしたこと、愛子さんの署名欄には花子さんの古くからの友人が代筆をしたことが分かりました。

 また、周辺の人達にいろいろと事情を聞いてみましたが、協議離縁届を提出した前後に、花子さんから愛子さんに対して離縁の話をしたことは一切なかったようでした。

 さらに、協議離縁届を受理した区役所は、愛子さんに対して離縁届が提出されたことを郵便で通知していたことが分かり、愛子さんがその通知を受け取っていながら異議を述べなかったのであれば,無効な離縁届を「追認」したと言えるのではないかとも主張しました。

 しかし、当時、愛子さんは子供の小学校の学区を実際の住まいと違うところにするために別の住所においていました。協議離縁届には住民票上の住所が記載されていて、区役所からの通知もそちらへ送られて放置されたために、愛子さんの手元には届かなかったことが分かりました。そのため、愛子さんが協議離縁届のことを知って、それを黙認していたという主張も認められませんでした。

 以上についての裁判所の審理を経て、結局、花子さんが出した協議離縁は無効であることが判決で認められました。その結果、花子さんの子供は愛子さん一人となり、愛子さん一人が花子さんの法定相続人として花子さんの遺産すべてを相続しました。花子さんの、愛子さんを離縁したいという意思は根拠のあることであったとも思われますが、法律の定めた手続きを無視して行われた届け出には効力が認められず、花子さんの気持ちは実現できなかったと言えます。

 

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