弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

遺産分割における墓代・葬式代

2018年06月01日 その他

1 事案
 最近担当した案件で,被相続人(A)が約6000万円の財産を保有したまま亡くなったにもかかわらず,お墓を作ってもらえない案件がありました。
 Aには前妻の子2人(Y1,Y2)がいました。また,前妻と離婚した後,現在の妻(X)と再婚しました。相続人は現在の妻と前妻の子2人となり,相続分は現在の妻1/2,前妻の子各1/4となります。相続財産約6000万円には,AとXが居住していた自宅(時価3500万円)が含まれています。自宅を維持したいと考えたXはY1,Y2にそれぞれ約250万円を支払って,自宅を相続したい(代償分割)と提案したところ,Yらは基本的には同意してくれました。


2 墓代,葬儀費用が争点に
 しかし,ここで問題となったのが,墓代と葬儀費用です。Aと実家の関係は複雑で,実家のお墓に入ることはAが希望していませんでしたし,実家からも拒否されていました。そこで,Xは新しくAのお墓を建てたいと思いましたが,Aが生前希望していたようなお墓を建てるには少なくとも200万円かかることが分かりました。しかし,Aの葬儀費用は150万円程かかったため,Xの預金は上記代償金500万円を支払うとほぼなくなってしまう状況でした。
 そこで,Xは墓代と葬儀費用を差し引いた相続財産を法定相続分で分割したいと提案しましたが,Y1,Y2は相続財産から墓代を差し引くことを拒否しました。Y1,Y2は,遺産分割調停を申し立てる前には,「お墓を早く作ってあげてください。」と言って,お墓を建てることを当然の前提としていたにもかかわらず,いざ,その費用を相続財産から差し引きましょうと提案すると,「お墓はいらない。作りたいなら,作りたい人が費用を持つべきだ。」と言って拒否しました。また,葬儀費用についても相続財産から差し引くことを拒否して,遺産分割調停を起こしてきました。
 まず,前提として法律上は墓代,葬儀費用を相続財産から差し引く必要はありません。とはいえ,遺産を残してくれた被相続人の墓代,葬儀費用ですから,相続人全員が合意すれば,相続財産から支出して残額を分割することはよくあります。しかし,上記事案では遺産分割調停において,Yらは葬儀費用については差し引くことについては納得してくれましたが,墓代については断固拒否という姿勢を崩しませんでした。調停委員からも「墓代については遺産分割調停では争点にしないでください。」と言われました。確かに審判となれば,墓代,葬儀費用を差し引いた財産を相続財産としてもらえないとしても,せめて調停の段階では説得して欲しいところでした。


3 遺産分割の目的・趣旨から考える(個人的見解)
 そもそも相続財産は,被相続人が亡くなる直前までは被相続人が自由に使えた財産です。民法では,法定相続人や法定相続分が定められていますが,これらは被相続人の死後,被相続人の意思が不明な場合に,近親者を法定相続人として被相続人との関係が近い順に,その程度に応じて分割するものです。これは,そのように分割するのが,被相続人の通常の意思と考えられるからです。遺産分割には遺留分の規定もあるので相続人の権利という側面もあるのでしょうが,基本的には可能な限り被相続人の意思に沿って分割されるべきだと思います。そして,人の死亡によって通常生じる墓代や葬儀費用くらいは誰かの負担とならないようにしたいと考えるのが被相続人の通常の意思ではないでしょうか。
 事案は異なりますが,相続人が相続財産から葬儀費用や墓石購入費用を支出した後,相続放棄の申述をした事案について,大阪高等裁判所平成14年7月3日判決は,「葬儀は,人生最後の儀式として執り行われるものであり,社会的儀式として必要性が高いものである。そして,その時期を予想することは困難であり,葬儀を執り行うためには,必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば,被相続人に相続財産があるときは,それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また,相続財産があるにもかかわらず,これを使用することが許されず,相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば,むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。」「墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であり,預貯金等の被相続人の財産が残された場合で,相続債務があることが分からない場合に,遺族がこれを利用することも自然な行動である。」と判示して,これらの行為は法定単純承認にはあたらないとし相続放棄の申述を認めました。
 このような考え方によれば,遺産分割においても,葬儀費用や墓石購入費用等を相続財産から差し引くことを認めるべきだと思います。
 遺書がなければお墓も作ってもらえず,もしくは自腹を切って葬式代・墓代を負担してくれた遺族が費用を負担することになる。そして墓も葬式も不要だと言った愛情の薄い相続人が多く相続してしまう。というのは,あまりに理不尽です。
 「葬式・墓は不要」という遺書がない限り,相当額の葬式代・墓代を差し引いた財産を相続財産として扱うという立法や運用がなされることを期待しますが,なかなか難しいでしょう。
葬式代・墓代を負担してくれた家族に金銭的な負担をかけないためにも,遺言書等を作りましょう。是非お近くの弁護士にご相談ください。


                                                    以上

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