弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

同性婚つれづれ~パートナーシップ条例

2015年10月01日 その他

1 2015年6月26日アメリカ合衆国連邦裁判所は、同性婚を禁止するミシガン州などの州法(州の法律)が合衆国憲法に違反する旨の判決を下しました。このニュースは、瞬く間に全世界に伝わりましたから、まだ皆さんの記憶に新しいところでしょう。今回はこのことを話題としたく思います。

2 翻って、日本では、日本国憲法が第24条において「婚姻は、両性の合意のみにおいて成立し、・・・」と定めています。「両性」つまり男性と女性が婚姻することが規定されていることになり、同姓婚を認めるかどうかは、憲法問題となって憲法改正が必要とされるでしょう。現行憲法においても同性婚が合憲であるとする見解もありますが、安保法制を合憲として強行採決する現在の政府与党でも、さすがに憲法改正を必要とするのではないでしょうか。因みに、現行憲法のもとで同性婚が許されるかどうかについて、裁判所が判断を下したことはありません。

3 このような状況のもとで、今年3月に東京都渋谷区が、同性婚類似の生活をおくる区民に「パートナーシップ証明」を発行するという条例を制定しました。(「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」第10条参照。)これは、諸外国において認められている「シビル・ユニオン」もしくは「シビル・パートナーシップ」という同性カップルを法的に認証する制度と類似するものです。

  この条例も話題となりましたが、その趣旨は、いかめしい条例の名が示すとおり、多様性ある生活をおくる住民に対して、区や区民が差別をしないことを要請する条例です。その一環として、同性カップルに対する差別的取扱いを禁止することを条例で定めたのです。たとえば、同性カップルであることを理由に、借家の賃貸借を拒否することを許さないということを想定しているようです。

  しかし、区が「パートナーシップ証明」を発行する要件として、当該カップルの当事者がお互いの相手方を任意後見の受任者として任意後見契約を締結し、かつ、登記していることを求めています。これではなかなか現実的な要件とは言えないように思えます。また、区の福祉行政の負担を同性カップルに転嫁する意図が見え隠れする気がします。

  なお、証明を行う要件として、「公序良俗に反しない限りにおいて」と限定要件をおいています。まさか同性カップルであること自体は、自己矛盾になりますから、公序良俗に反するとは言えません。想定されるのは、既婚者が配偶者以外の者との証明を求めた場合などでしょう。

4 いずれにしても、種々の問題はあるにせよ、公的な権力側が同性カップルを公に認める制度を創設したことは画期的です。価値観の多様化が、家族という社会の制度自体を劇的に変化させていることの証でしょう[k1]

5 ところで、この条例は渋谷区の区民及び区内で事業を行う事業者並びに区自身を拘束するもので、その他の者に適用されません。(なお、世田谷区も同様の制度を設ける予定のようですが、こちらは条例でなく、区の要綱という形を採るようです。)

  それでは、一般的に、同性カップルであることを理由に不合理な取扱いを受けた場合はどのように考えたらよいのでしょうか。

6 筆者がかつて担当した事件を例に挙げます。

(1)同性愛者である甲が、賃借した店舗で飲食店を経営していましたが、彼はパートナーである乙を店の店長として稼働させていました。甲が同性愛者であることを嫌った家主が、店の営業時間やゴミ出しのやり方などにいちゃもんをつけて、使用方法の違反があるとして甲と家主の間の(店舗)賃貸借契約の解除をしてきました。もちろん、家主は、その真意を隠して、あくまでも契約違反を理由として訴訟提起してきました。

  家主が同性愛者を差別していたことは、家主の代理人が甲に尋問したことから発覚しました。なんとその代理人弁護士は、甲に対して唐突に「あなた方は、いわゆるゲイですね」と質問したのです。(筆者は、しばらく裁判官と顔を見合わせてしまい、異議を申し立てることすら失念してしまうほどでした。)

(2)憲法は国家と個人を規律する公法と観念され、一般市民の間の契約等には直接適用されず、民法90条の公序良俗違反や信義則あるいは不法行為の違法性という一般条項や要件の解釈に盛り込んで間接的に適用されるとする考えが一般です。

  そうすると、この事件では、家主の解除権の行使が信義則違反あるいは公序良俗違反で無効であるという主張・反論をすることが考えられます。同性愛者であることをもって、そうでない一般市民と差別的取扱いをしたという意味では、憲法の平等原則違反(憲法第14条)になるからです。

(3)しかし、実際には、そのような主張は不要でした。そもそも、家主が契約違反とする営業時間の問題やゴミの出し方などの主張が認められないからです。

  つまり、一定の法的関係が前提として存在し、その変更や消滅を主張する場合には、これを基礎付ける事実が必要です。例でいえば、契約違反となる具体的な事実、賃料の不払いとか、賃貸物件を壊すとか、です。同性愛者であることを差別して不履行を仮装してしまった以上、本来契約違反とならない事実を掲げて解除を主張するしかありません。ですから、そのような事実をいくら主張立証したところで、契約解除が元来認められないということになります。

(4)では、間接的な適用がどういう場面で有効かといえば、契約関係にない場面もしくは契約を締結しようという段階の場面でしょう。たとえば、同性愛者であることを理由に雇用を拒否される、賃貸借の締結を拒否される、などです。

  このような場面では、不法行為の適用において、平等原則を織り込んだ解釈・適用により、損害賠償を求めることが可能になると考えられます。

7 もう少し深く考えてみましょう。

  憲法第14条は、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により・・・差別されない」と規定し、ここに掲げられた事項は例示にすぎず、それ以外の事項に基づく差別も禁止されると解釈されています。

  そして、憲法も、前述のように市民間の法的関係においても、間接的にとはいえ適用されるならば、わざわざ「パートナーシップ証明」などという制度を設ける必要はないはずです。

  さらに、同性カップルが一緒に契約当事者になるとか、同時に契約締結に臨むという事態は、現実にはそれほどあるでしょうか。どちらか一方だけが契約当事者になるのが普通でしょう。

  加えて、通常の男女間の夫婦には、相続権があり、税制面の優遇措置があり、あるいは、社会保障の面での優遇措置があります。けれども、それらの制度は国の制度であり、条例でのパートナーシップの同性カップルには適用されません。

そうすると、「パートナーシップ証明」の法律上の意味がかなり不明確になってきます。

  もちろん、同性カップルに対する不合理な差別的取扱いを「よりいっそう」排除するという趣旨は認めますが、法的な存在意義について瞠目させられるようなものではなさそうです。

むしろ、先ほど述べたように、公的な権力が、家族という社会生活上の制度にパートナーシップという新たな単位を設けたという点にこそ重大な意義があると思えます。

このような意味で、家族制度というのは、文化・風習・伝統により作り出されるばかりでなく、公権力によって創出される側面もあるという点に注意したいと思います。

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