弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

成年後見人の選任申立

2015年06月02日 後見

(設例)

1、Xさんの父親は遺言を残さずに死亡したので、母と弟と話し合って遺産分割をしなければなりません。しかし、母は認知症で遺産分割の相談ができる状況にありません。母を参加させずに遺産分割協議をすることはできますか。調停を申し立てれば、遺産分割ができますか。

2、母親を参加させずに、遺産分割協議や遺産分割の調停はできません。
 相続人は認知症や知的障害、精神障害で判断能力が不十分でも、財産を相続する権利を有しますので、その人を除外して行われた遺産分割協議や調停は、法律的には無効です。

 そこで、遺産分割協議を有効にするためには、家庭裁判所に後見開始の審判申立をします。家庭裁判所は母親について後見開始と同時に後見人選任の審判をします。後見人は、母親の代理人となって遺産分割協議や調停事件に参加し、遺産分割協議や調停手続きを進めます。

3、では、どういう要件かあれば後見が開始されますか。
 後見開始の要件は、本人(母親)が精神上の障害により判断能力を「欠く常況にある」者である場合です(民法7条)。判断能力を欠くとはいえなくとも「著しく不十分な」場合は保佐が開始されます(民法11条)。後見や保佐の程度に至らない軽度の判断能力不足の状態にある場合は補助が開始されます(民法15条)。
 家庭裁判所は、精神上の障害があって判断能力に欠けるかどうかやその程度について、医師に対し判断能力に関する鑑定を求めて、その鑑定の結果により、後見、保佐あるいは補助の判断をします。しかし、重度の認知症の場合等明らかに判断能力がない場合と判断される場合には、鑑定をしないで、申立時に提出された医師の意見書に基づき、後見開始の審判をすることがあります。

4、後見人ができること(権限)は何ですか。
 後見人は被後見人(母親)の財産に関する法律行為の全般的な代理権と取消権を有します。Xさんが後見人に選任されれば、母親の日ごろの財産管理や契約行為を母親のために行います。
 判断能力が欠けているとまでは言えないとして保佐人に選任された場合は、民法13条1項の重要な財産行為についての同意権を有します。Xさんが同意をしたうえで、母親が財産処分や契約行為を行います。また、Xさんは、母親が同意を得ないでした行為について取り消したり、追認したりすることができます。

5、Xさんは、自分を母親の後見人候補者として後見開始の審判申立をしましたが、家庭裁判所は、Xさんを後見人に選任してくれますか。
 家庭裁判所は後見人選任にあたって親族等関係者の意見を聴取して、後見人を選任します。統計的には、後見人には子供など親族がなる場合が40%を超えます。しかし、Xさんは、父親の遺産分割について、母親と利益が相反しますので、家庭裁判所は、今回のケースでは、弁護士・司法書士等の第三者を後見人に選任します。Xさんも弟さんも後見人に選任されません。この場合、選任された後見人が母親の代理人として、遺産分割協議や調停に加わって手続きを進めます。
 仮に、Xさんが父親の相続開始(死亡)前に母親の後見人に選任されて財産管理をしている場合でも、母親と利益相反の関係にありますので、母親の特別代理人の選任申立をして、特別代理人が手続きに参加します。

6、後見開始の審判申立はどのようにしたらよいですか。
 申立裁判所は、本人(母親)の住所地の家庭裁判所です。東京であれば、23区と島嶼部が東京家庭裁判所、それ以外が東京家庭裁判所立川支部になります。
 申立には、申立書の他に、医師の診断書、本人の戸籍・住民票、本人の登記されていないことの証明書(被後見等でないことの証明書)、後見人候補者の戸籍・住民票、等が必要ですが、申立の書式は家庭裁判所に備え付けられていますし、家庭裁判所のHPからダウンロードができます。
 もっとも、家庭裁判所の後見に関する部署は大変込み合っていますので、速やかに手続きを進めたいようなケースや、親族間で争いのあるケース、戸籍関係が複雑なケースなどでは、いちど弁護士に相談してから申立をするのが良いと思われます。

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