弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

敗戦を背負った結婚

2012年05月01日 その他

「明治は遠くなりにけり」と詠われているが、日本が太平洋戦争に敗れて既に70年近くになり、「昭和も遠くなった」。今の若者に敗戦当時の日本の状況を説明することは困難だが、敗戦国の日本の国民がいかに悲惨な生活を余儀なくされたか、その中から如何に逞しく蘇えったか、その実情は、ピュリッツァー賞を受賞したジョン・ダワーの「敗北を抱きしめて」(上・下)」(2001.3岩波書店)に詳述されている。

 以下に述べるXY夫妻はある意味においては、敗戦という厳しい現実を背負った夫婦だともいえよう。

 敗戦当時、Xは大学生、Yは夫が戦死して幼児を抱えたいわゆる戦争未亡人で、Xより10才年長であった。

休暇で父母の下に帰省したXは近所に住んでいたYと知り合い、Yは身ごもった。Xの両親は事の成り行きに驚き、何とかして二人を切り離そうとしたが、Yは「結婚できなければXと無理心中する」と両親に迫り、両親も遂に折れて結婚を許した。然し、Xは、Yに他家に預けている幼児がいることや更にYが持病を持っていることは知らなかった。婚姻届と娘の出生届けが同日という綱渡りの結婚であった。

 Xは卒業後、商社に勤務し、順調に昇進して定年退職し、退職後は関係会社の役員を経て今頃は悠々自適の身である筈だったが、ここでXが吃驚するような事態が発生した。

結婚以来XYを信じて財産管理をYに一任し、時々報告を求めるものの、Yからは「別に異常はない」という返事が返って来て、それを信じて疑わなかった。偶々Xが自分名義の預金通帳をチェックしたところ、かなりの金額が流失していることに気付いた。そればかりではなく、二人の老後に備えて自宅に保管していた金もかなり流失していることが分かった。

XYに問いただした結果、他家に預けた長男が時折母を訪ねて来て窮状を訴えるのに同情して金を渡していたことが判明した。大金の流失に動転して、調べてみれば元凶は自分の妻という事態にXは絶句した。

 XYも高齢者となり、特に10歳年長のYは、持病が悪化して病院暮らしが長引き、最近では病院を出て老人ホームで看護を受けているが、その老人ホームからも期限切れで立ち退きを迫られている。又Yは痴呆が進み、Xに向って「貴方はどなた」と訝しげに見詰める有様で、今後の対策を相談することは不可能である。長年にわたるYの病気治療のため多額の療養費を負担して来たXにとって何より必要なのは老後の資金である。虎の子の生活資金を失い、調べてみれば元凶は自分の妻であったという想像もしなかった結果になり、途方に暮れている。

 Xの唯一の救いは今や娘の存在である。流失したと思い込んでいた資金の相当部分がどういう理由か分からないが長男から戻されて、当座の先行きは見通しがついたが、認知症のYの面倒を先行き何処まで見ることになるのか、又それが経済的に可能であるのか、自分自身が何処まで持ち堪えることができるかを考えると、Xの苦悩は尽きない。配偶者を信頼するのは当然のことだが、Xが当初から財産管理をしっかり実施していればこういう問題は起きなかったであろうと惜しまれる。

 ホトトギスやカッコウの托卵を連想させる話である。

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