弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

鬱(うつ)の増加と弁護士の役割 ~雑感~

2008年09月01日 その他

最近の警察庁のまとめ(平成20年7月時点)によると,自殺者が10年連続で3万人を超え,なかでも平成19年中の自殺者のうち,鬱が原因とみられるケースが2割近くにものぼったそうです。
自殺に至らないまでも,鬱を理由として休職したり,就職ができずにニート暮らしをしている人達(特に若者)が増えていることも報道等で顕著となっています。
実際,私の事務所や弁護士会に訪れる相談者にも,事件の背景に鬱が存在する事案が多数見受けられます。
鬱が原因で夫婦仲が悪くなり離婚に至ったケース,鬱が原因で仕事が思うようにできず解雇されてしまったケース,鬱が原因で家に引き篭もり借金が増えてしまったケース,鬱が原因で塞ぎこんでいたものの家族からの些細な一言に逆切れして家族を死傷させてしまったケースなどなど。

鬱の原因には,脳の障害・異常,内分泌器官の異常や他の病気の薬の副作用などもありますが,ほとんど多くは,恋愛・人間関係・仕事上の悩み・挫折,急激な環境の変化,大切な人やペットとの死別などからくる「精神的なストレス」にあると言われています。
法律相談に訪れる方の中には,本当に医学的に鬱病と診断される人もいれば,単に現実逃避の正当化事由として鬱を持ち出す人もいるようです。
いずれにせよ,皆さん自分の力では現状を打破できないと思い込み,夢や希望が持てず,塞ぎ込んでいます。
どちらにせよ前向きな対応ができないため,事態は改善せず,御本人にとっても社会全体にとっても損失と言わざるを得ません。
昨今増加している無差別殺人に見られるような治安の悪化にも繋がりがあるかもしれません。

もちろん鬱の改善には,医学的なアプローチが必要です。
私の依頼者にも薬や電気ショックによって症状・状況が改善した人がいらっしゃいます。
しかし,基本的には「無理をさせない。長い目で見守る。頑張れと言わない。気持ちの持ちようとは言わない。」といった基本方針のもと,継続的に通院させ,状況確認のカウンセリング・処方箋で済ませることが多く,根本的な解決には至らないように見受けられます。

上記のとおり,鬱の原因には,取り巻く人間関係などの客観的な問題があり,ここを何とかしない限り,根本的な解決には至らないと思えます。
もっとも,自分で何ともできないからこそ鬱になるのであって,それは医師でもタッチできない領域です。

それだけに鬱の方々から相談を受ける弁護士に期待される役割は非常に大きいのではないかと思えます。
恋愛・人間関係・仕事上の悩み・挫折,急激な環境の変化などについて,その全部ではないでしょうが,多少なりとも法律問題が絡んでいると思います。
相談を受ける弁護士が,じっくりと相談者の話を聞いて,鬱の外的要因を法律的に分析し,鬱を改善できるような方向でアドバイスすることができれば,医師の治療と両輪になって,鬱の方々の助けとなれるのではないかと思えます。

確かに,弁護士は,依頼者の法律問題を解決することだけが仕事であって,それによって,依頼者の鬱が改善しようがしまいが,本来,委任の範囲外です。
しかし,昨今の社会状況に鑑みると,弁護士も,法律的なアプローチによって,鬱の外的要因となっている問題を解決させ,症状や状況を改善させることが求められているという「認識」を持つことが必要だと思われます。

私は鬱の相談者から「弁護士は偉そうにしてて,人の話を優しく最後まで聞いてくれない。頭から決め付けられる。話したいと思うことを話せない。」などと良く言われます。
同業者として恥ずかしく思います。
弁護士業界も競争が激しくなっていますので,そのように傲慢な弁護士はいずれ自然淘汰されるでしょう。

少なくとも,弁護士会家庭法律相談センターに登録している弁護士にはそのような弁護士は一人もいないと信じています。
ご自身や親族が鬱で法律問題の相談を受けたい方々は,安心して,気軽にカウンセリングを受けるような気持ちで,弁護士会家庭法律相談センターに相談に来て欲しいと心から思います。

以上

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