弁護士コラム~家事事件の現場から~家庭に関する法律相談を担当した弁護士がリレーでコラムを執筆しています。

信託の活用

2019年05月31日 後見

1 高齢のため判断能力にやや不安を持つようになった方が自分の財産管理や遺産の引継ぎをする方法としては、任意後見を含めた成年後見制度や遺言などがありますが、近時、信託を活用する方法が注目を集めています。

2 信託の基本的な仕組みは、委託者が信託契約などによって受託者に財産の完全な所有権を移転し、他方で受益者は受託者に対して信託の目的に従った財産の管理・処分などを行うことを求める権利を有するというものです。
 原則的には、委託者、受託者、受益者は各々別人であることが想定されていますが、委託者と受益者を同一人とすることや委託者と受託者を同一人とすることも認められています。

3 高齢者の財産保護や遺産の引継ぎの場面でも、このような信託を活用することが考えられます。
⑴ 高齢者の財産保護
  高齢者の方が不動産を所有しており、その不動産からの賃料収入を主な収入として暮らしているが、近時、判断能力が多少衰えてきたことを自覚しており、できるなら信頼できる子供に不動産を管理してもらいたいと考えている場合、成年後見制度を利用することが考えられますが、法定後見では後見人を自分で選ぶことはできませんし、任意後見であれば後見人を選ぶことはできますが、高齢者の方の判断能力がある程度衰えた状態にならなければ後見人は後見人として職務を行うことはできません。
 このような場合、高齢者の方を委託者兼受益者、子供を受託者とする信託契約をして、不動産を子供名義としつつ、高齢者が不動産の賃料収入を子供に請求できるようにすることで、従前と同じ生活を安心して送りたいという高齢者の方の希望を叶えることができます。
⑵ 遺産の引継ぎ
 家族が前妻の子と後妻だけだが、両者の折り合いが悪い、夫としては自宅不動産を自分の死後妻に利用させたいが、妻の死後は子供に相続させたいと考えている場合、遺言によって自宅不動産を妻に相続させた上で,妻の死後子に相続させるとすることはできないと考えられていますし、遺言によって自宅不動産を子に相続させるが、妻の生存中は妻に自宅不動産を利用させるという負担を付けることはできますが、子が負担を履行するとは限りません。
このような場合、夫を委託者兼受益者、信頼できる第三者(親族や信託銀行など)を受託者、第二受益者を妻、妻の死後の権利取得者を子とする信託契約をして、自分の死後は自宅不動産を妻に利用させながら、妻の死後は子供に自宅不動産を取得させるという夫の希望を叶えることができます。
   
4 信託は柔軟な制度でいろいろ工夫の余地も大きいですので、上記のほかにも様々な内容の信託を設定することが可能です。
 他方で、信託は身上監護については対応できませんし、財産管理としても設定の仕方によっては税金、相続における特別受益、遺留分との関係など考慮すべき問題はたくさんあります。
 その意味で、信託の設定を検討する場合でも、当事者のニーズに応じ,かつトラブルを可及的に回避できるものとするためには、弁護士に相談して頂くのが望ましいと思います。

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