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不貞行為に基づく慰謝料請求権の代位行使?

2018年04月02日 その他

最近、次のようなニュース記事を目にしました。
妻の不貞行為について、夫の慰謝料請求権を、夫に貸付けを行っている夫の債権者が代位行使して、妻と不貞行為の相手方を訴えた、というのです。

事実の詳細はわかりませんし、真偽も不明ですが、法律的には、ここでいう代位行使とは、債権者代位権(民法423条)に基づくもので、夫の債権者が提起したのはどうやら債権者代位訴訟ということのようです。
このように、法律上、夫の債権者は、夫の慰謝料請求権を、債権者代位権に基づき、代位行使することができるのでしょうか?

債権者代位権を定める民法423条は、次のとおり規定しています。

(債権者代位権)
第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

民法423条1項からは、債務者が無資力であることなどの要件が導かれるのですが、本件の記事の事案との関係で重要なのは、1項ただし書にある「債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。」という部分です。
例えば、遺留分減殺請求権は、行使するかしないか、もっぱら遺留分権利者の判断に委ねられており、これを行使上の一身専属性といいます。判例も、「遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができない。」(最判平13.11.22民集55-6-1033)として、「特段の事情」がない限り、遺留分減殺請求権を債権者代位権により代位行使することはできないとしています。

本件の記事の事案でも、精神的苦痛を被ったとされる夫が慰謝料請求権を行使するかしないかは、もっぱら自ら判断するべきであるとも考えられるのですが、夫の債権者は債権者代位権に基づき慰謝料請求権を代位行使することができるのでしょうか?
この点について、精神的苦痛に対する損害賠償請求権である慰謝料請求権を行使するかしないかの判断は、やはり当の被害者本人の自由な判断に委ねられるべきですので、慰謝料請求権にも行使上の一身専属性が認められます。したがって、債権者代位権について、「ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。」(民法423条1項ただし書)ことから、原則として、債権者代位権に基づく慰謝料請求権の代位行使は認められません。
もっとも、被害者本人が慰謝料請求権を行使し、裁判などで金額も客観的に決まった後は、明確な金銭債権となりますので、以後は行使上の一身専属性は失われ、支払いがない場合、債権者代位権の対象となる、というわけです。
判例も、名誉侵害の事案ですが、「名誉侵害を理由とする慰藉料請求権と行使上の一身専属性の喪失事由」について、「名誉侵害を理由とする慰藉料請求権は、加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意若しくはかかる支払を命ずる債務名義が成立したなどその具体的な金額が当事者間において客観的に確定したとき又は被害者が死亡したときは、行使上の一身専属性を失う。」としています(最判昭58.10.6民集37-8-1041)。

本件のニュース記事の事案について、あくまで事実の真偽・詳細は不明ですが、法律論としては以上のとおりですので、裁判所の判断を確認してみたいと思います。

なお、債権者代位権を規定する現行民法の規定は先にみた423条だけなのですが、今般の民法(債権法)の大改正では、国民にとってわかりやすいものにするといった観点からも、債権者代位権については423条から423条の7まで、7つの条文で規定されることとなりました。この点もご確認ください。
以 上

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